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討伐される暴君作成ゲーム  作者: かさのした
31/48

31.暴君ルートは難しい

隣国の第三王女と宰相を見送ってから、1年が過ぎた。

セーブポイントは2-5まで作成したが、今現在暴君判定がされない。


城の出入り口という人目の多い場所で、民を蔑ろにする王女に形ばかりの断罪を行ったことによって、良い君主フラグも立ってしまい、暴君ルート判定に悪影響を及ぼしたと推測している。


「あの時の、民を蔑ろにする、という言葉は余計だったな。

その後、好き勝手にやっていれば、暴君判定に傾くだろうと思ったが、甘かった。」


執務室で、黒い高級な机に積まれた書類にぼやきながら目を通していたタクト殿下は、スイーツクラン伯爵の書類をみて口角をあげた。


「これは、スイーツクラン伯爵の水増し請求の不正書類だな。

OK、押印っと。」


この1年間に、カイコクラン伯爵に続いて、スイーツクラン伯爵も懐柔して味方につけた。

王子の一声でどんな要求も通るので、媚び諂い、また、どんな書類でも通るので両伯爵は無駄に領地の税をあげて着服もしている。


陛下の主治医との関係も良好だ。

この国で王族の主治医としての地位を、主治医とその子どもの代まで約束したのである。

暴君になるには、権力と金は何より重要だ。


しかし、ツインテールのメイドの方は攻略方法がまだ不明で、懐柔も排除もできていない。

陛下が相変わらず病床に伏しており、常に付き添っているため表立って行動できないというのもある。


王女を見送った後に帰ってきた宰相は、そのまま陛下の寝室に突入したが、そこにはタクト殿下が先回りしており、陛下より年上だという年齢を理由に引退を促した。

実質上の政務を行っているのはタクト殿下であったため、陛下も当時の件には何も言わずにタクト殿下に宰相の所在を一任したのだ。


宰相には、貴賓牢で一生を過ごすか、自身の領地に帰って余生を過ごすかの選択肢だけが与えられたため、後者を選択し城を去ったのだ。


「強気に出るだけで、ストーリーがサクサク進むから、そのまま、暴君ルートに行けると思ったけど、難しいな。

おっと、これは、カイコクラン伯爵からの使用人部屋のベッドカバーセット納品・請求書だな。

普通の品を納品したのに、一番上質なものを納品したことになってる。

OK、押印っと。」


ただ、暴君ルートに入ろうとすればするほど、双子の従者や近衛騎士たちの不興を買い、信用度がマイナス判定になってくる。


ミマリ、ミズマリが言葉少なに忙しそうに書類を分けているのは、懐柔した貴族からの不正書類が多くなってきているからだ。

そこに自分の主人が不正と分かった上で押印しているのを知っている二人は、主人への忠心(+値)と、疑惑(ー値)が都度あり、葛藤のように値が変動して、細かい行動に制限がかかっているようだ。


それでも、城内にいたクランたちを徐々に洗いだし、服従、もしくは排除を進めている。

甘い汁を吸おうとする者には、甘い汁を与えて服従を促す。

王子に反抗するものにはその善悪を問わずに、処罰を与える。

処罰の理由は、王子の足を踏んだとか、機嫌を損ねたとか、服を汚したなどそんなくだらない理由をつけた。


書類を置いて、手を上に大きく伸びをした後、キーワードを唱える。


「王城の地図、クランサーチ」


王城の地図が浮かび上がりそこに白い光、赤い光、青い光が点滅する。


「城内クランの処理は、だいたい70%くらい進んだな。

20%を排除、50%を懐柔、あと残りは30%くらいか。」


赤い光が王子の執務室に一つ、自分自身の光を指している。

青い光は、懐柔したクランの位置を指している。

そして白い点滅は、まだ懐柔も排除も終えていない、ゲームオーバー率を高くするクランの光だ。


「陛下の寝室に、青い光と白い点滅があるのは、主治医の青と、ツインテールのメイドの点滅だろう。

厨房にも二つほど白い点滅があるが、王子である俺が厨房に行く口実が無いから、後回しにしてたな。」


ミマリとミズマリにはその様子が、執務机に向かったまま前方をボーっと見ているように見えていた。

「タクト殿下、お疲れですか?

お茶をお入れしましょうか?」

ミマリがいつものように休憩を促した。


ミズマリが、ボーとしている理由の心当たりを口にした。

「タクト殿下、陛下が平民であるブランシュ様との結婚をお許しにならないのを気にされていますか?」


「ああ、陛下がブランシュとの結婚話をあそこまで渋るとは思わなかった。

今回のルートでも、ヒロインと結婚したところで暴君ルートが確定するから、許可が出ないと先に進めない。

これも難易度高めなせいか?」


結婚には現王である陛下の許可が必要という設定になっているので、陛下に平民との結婚を許可しないと言われて、ここでも躓いている。


「視点変更」


厨房の天井をイメージして、キーワードを唱えたのは、レアリアと同じ職場でブランシュが働いているからだ。

あの断罪の日に、城の出入り口の大きな扉の裏に隠れていたレアリアとブランシュだが、タクト殿下たちが城の中に入ると扉が元通りに閉められたため、すぐに見つかってしまったのである。


甲冑姿の兵士が扉の前に立ち並ぶのも気にせずに、タクト殿下はブランシュの前に進み出てその両手を取った。

「ブランシュ、あなたがこの城に来てくれたら私も嬉しい。

王都の街から通うのは大変だから、王子妃の部屋をそのまま使用してもらっても構わない。」


ブランシュは自身の両手が自分の手より大きな手に包まれているのを見つめながら真っ赤になって動揺した。

「わ、私なんかが、王子妃の部屋など、私は物置小屋で十分です。」


タクト殿下は満面の笑みを浮かべた。

「そうか、ここで働いてくれるんだな。

物置小屋なんてとんでもない、王子妃の部屋がいやなら、レアリアの隣の部屋にしてやろう。

職場もレアリアと一緒でどうだ?

給料も同額で、休みも合わせてとってもらって構わない。」


どんどんと契約条件を述べるタクト殿下だが、ブランシュは自身の両手のことが気になってほとんど耳に入っていなかった。


「私のことが嫌いでなければ引き受けてくれないか?」

タクト殿下の最後の懇願の一言だけが、ブランシュの耳に残った。


「きらい、では、無いです。」


そうやって、1年前からブランシュは王城で働き出したのだ。


視点変更で厨房を見たものの、ブランシュもレアリアもいなかった。


料理長が大きなスープの鍋をかき混ぜながら、どの香辛料を入れるか物色していた。

壁際には、調味料の棚があり、色とりどりの香辛料が揃えられている。


「クックラン料理長、パンに塗る卵を取りに行ったメイドたちはまだ戻ってきませんか!!」


厨房の離れた位置で、パン生地をロール型に丸めている料理長とそっくりの男が叫んでいた。


「ついさっき出たとこだ、じきに戻ってくるから待ってろ!」

料理長は棚に手を伸ばすと、大きめのペッパーミルを取り、スープ鍋の上でゴリゴリと回し出した。


「料理長、クックラン、クランか。

あの点滅は料理長のものだったのか、これは、懐柔対象だな。

金か、権力か、それとも脅しか。」


先ほど叫んだ男は料理長にそっくりだった。

家族が身近にいる者なら、家族を人質にとるというのは効率的だ。


「だが、ブランシュには知られたくないから、厨房の人間はできれば普通に物で懐柔したい。」

視点変更をクローズし、椅子を引いて立ち上がった。


「タクト殿下、どうされましたか?」


「お茶はいい、散歩に、厩の近くの家畜小屋に行く。」


「家畜小屋ですか。

承知しました。」

ミマリは、揃えかけていた茶器を戻し、ミズマリからフード付きのマントを受け取った。

ミマリがタクト殿下にフード付きのマントを着用している間に、ミズマリが観音扉を内側に開き廊下に立っていた甲冑の兵士に行き先を伝えた。


執務室から廊下に出て厩まで続く回廊の途中で、庭に抜けてしばらく歩いたところに家畜小屋がある。

ここは厨房からも近く、厨房を通り過ぎた先の回廊をさらに行くと、貴賓牢にも行くことができる。


家畜小屋には、鶏が数十羽放し飼いにされており、その中で卵を集めているブランシュとレアリアがいた。

「ブランシュ」


小屋の外から呼びかけると、籠一杯に卵を詰めたブランシュとレアリアが、鶏の羽にまみれながら小屋から出てきた。

その姿を見たタクト殿下が、目頭を押さえていた。


「タクト様、何故こちらに?

どうされたのですか?」


「君のまわりに天使の羽が見えて、眩しくて。」

ブランシュは頬を染めて棒立ちになってしまった。

それぞれの後ろにいる、レアリアと双子の従者はそんな二人に生暖かい目を向けている。


「特に用はないんだ。

執務が一段落したから、ちょっと、気分転換に散歩に出たんだ。」

我に返ったタクト殿下はブランシュの持つ卵の籠を取ると、すぐ後ろのミマリに渡した。

すかさず、レアリアの持っていた卵の籠はミズマリが持った。

一瞬にして、卵の籠が双子の従者の手に渡ったことに、ブランシュもレアリアは呆然としてしまった。

「「大丈夫です。

自分たちで持ちます。」」


慌てる二人をタクト殿下は笑顔で黙殺し、ブランシュの肩を押し促しながら厨房の方に歩き出した。


「ところで、ブランシュもレアリアも料理長にお世話になっているようだね。

料理長に何か褒美をあげたいんだが、彼は何が好きかな?」


ブランシュは小首をかしげるだけだったが、レアリアが思いついたようで、得意げに話し始めた。

「料理長は、調味料が大好きなのです。

街のレストランより王城の方がいろんな種類の高い香辛料が手に入ると聞いて、こちらで働くことにしたって言っていました。」


「調味料か、スイーツクラン伯爵に珍しいものがないか聞いてみるか。

懐柔方向で何とかなりそうかな?」


自覚なく目を細めて悪い顔をしている様子に気づいたブランシュが上目遣いで覗きこむ。

「タクト様、どうされたのですか?」


「イエ、ナンデモ。

何かあるとしたら、あなたがあまりにも可愛いので緊張しているだけです。」

その可愛さに思わず片言になってしまった。


「もう、冗談ばかり言って。」

ブランシュが照れているのをごまかすように頬を膨らませた。


「もう、見せつけないでください。

お腹いっぱいになります。」

レアリアが赤くなった頬に手を当てて、フルフルと頭を振った。


「ゴホンッ

そう言えば最近巷で流行っているプロポーズの言葉があるんだろう?

教えてくれないか?」

フルフルと頭を振っているレアリアに向かって、場をごまかすついでに気になっていたことを聞いてみた。


「プロポーズの言葉でございますか?

いえ、流行っているものはなかったと思います。」

レアリアは首を傾げて考えながら答えた。


「いや、無いならいい。

結局、仕様不具合を出せなかったけど、どうなったのか気になっただけなんだ。」


厨房の手前までくると、厨房横の倉庫の前にクラウドがいた。

手には緑色の花束を持っていた。


ブランシュがハッとして、タクト殿下の袖を引き、足を止めた。

「ブランシュ、どうしたんだ?」


「クラウド様がレアリアさんに結婚を申し込むみたいです。

好きな人の瞳の色と同じ色の花を渡してプロポーズするのが、今すごく流行ってるんです。

レアリアさんの瞳、緑色だからきっと。

タクト様、邪魔になっては申し訳ないので、離れていましょう!」


服の袖口をちょこんと引っ張られて、上目遣いで頼まれると断れるわけもなく。

「そうしよう。」

即答して後ろに下がった。


レアリアもそんなクラウドの様子に気がついたようで、ブランシュたちを振り返った。

ブランシュが拳を作って胸の前でファイティングポーズを取ってレアリアを励ますと、意を決したようにクラウドに向かって進んでいった。


「プロポーズの言葉をやめて、瞳の色にしたのか。

そうきたか。

グレーの色の花なんて、知らないぞ。

俺が知らないものは、イメージできないし、エラーが返るだろうから、ゲームオーバーか?

このままじゃブランシュにプロポーズできない。」


クラウドとレアリアが結婚するとなると、スカイの誕生ももう直だろう。

だったら、こちらも急がなければならない。


タクトは急いでセーブした。

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