28.ある日の会話と明かさない種
社内用コーヒーサーバーと椅子のない高めの白いテーブルがいくつかあるスペースの横軸に2部屋ほど談話ルームがあった。
談話室のスライド式の1.5mほどの幅のドアを右側にスライドさせて開けると、まず、目に入るのは、正面12mほど先にあるビル特有のはめ込み式の窓ガラスだ。
その右手、スライドさせたドアにぶつからない程度の奥には、1mの壁パーテーションが2枚、扉パーテーションが1枚、壁パーテーションが1枚の構成で3セット窓に向かって並べてあり、パーテーションスペースの間は厚めの壁パーテーションが垂直に4枚2重にはめこまれて区切られている。
ようするに、4mx4mで区切られたパーテーションスペースが、部屋右側に縦3つ並んでいる状態だ。
パーテーションスペースの中には、4人掛けの長方形の事務用テーブル、背もたれと座椅子に薄いクッションが付いた折り畳み式の椅子が4脚、置かれている。
飲み物、軽食持ち込みOKのこのパーテーションスペース間は、厚めの壁パーテーションを二重にして区切られているため多少の防音効果がある。
扉パーテーションには、目線の高さに 使用中 ・ 空き を入れ替えることができるスライドプレートが取り付けてあり、3つの部屋はすべて使用中となっていた。
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パーテーションスペース1
談話室の一番手前、外に出る扉に一番近いスペース
ここでは、タクトとシキがテーブルを挟んで向かい合って座り、交互に会話をしている
「それで、セーブしたんだけど、プレイヤーが早めに動くと回りも急展開になるって、鬼展開だと思うけど?」
「多少の時間軸の変動はあるけど、判定は、プレイヤーの行動というアクションによって倍率が変わってくるから。」
「行動というアクションね。」
「例えば、王都に行く時間の選択、人数の選択、移動手段の選択。
それによって、判定が異なって、例えば、その結果の流れで、二人の兵士と従者が何か芸をするような展開になるとする。
すると、次に二人の兵士は”それに味を占める”という、判定がされる。
その判定が、次に移動して、”二人は広場で行った芸を練習する”という結果を得て、そこに熟練度の設定が設けられ、芸の熟練度が高くなる。
その設定が設けられた後に、新たに、王女のイベントが発生したとする。
そうすると、熟練度の上がった二人が芸を使って、助けに入る。
その結果、イベントのゲームオーバー率が下がる。
という感じかな。」
「ああ、なんか心当たりがありすぎるな。
たとえば、二人の兵士が広場で芸をする展開にならなければ?」
「その前の、行く時間や、人数の選択結果にもよるけど、その中にクランのつく兵士がいないという条件が付けば、広場での芸は発生しない。
そうすると、”味を占める”は却下されるから、芸そのものの熟練度設定条件がなくなる。
その後に、王女のイベントが発生すると、時間によっては二人の兵士とは出会わない。
二人の兵士と出会っても、甲冑姿で見回り中になり、二人は助けに入ることができない。
その結果、イベントのゲームオーバー率が上がる。」
「最初に間違うと、どんどんゲームオーバー率が上がっていくわけだ。」
「返ってきた値を、判定して、何処にいれるか、何処に出すか、何処に渡すか、終わらせるのか、を指示してるだけだから、上がるか下がるかはその判定の先の先かな。」
「そうだよな。
まぁ、いい方向に進んだ方だと思っておこう。
構成の深さを考えると、最善とまでは行かないが、健闘している方だと思っとくよ。」
「第三王女が早く来るための条件だけど、」
「シキ、それはもういいよ。
終わったことだし。
どちらにしろ排除対象にするし。」
「そうか。
ああ、そうだ。
最初にタクトに見せたソースや仕様になかったんだけど、新しいキーワードが追加されてるから。」
「キーワード?」
「そう。
城内とかに隠れクランとかもいるから、ちょっと曲がり角を曲がるとゲームオーバーフラグが立つことがあるんだよね。
なんだか、アオバや他のプログラマーたちが、入れ込み過ぎたみたいで。」
「隠れクランって。」
「だから、回避目的でキーワード クランサーチ 、探知機能を追加した。
地図を見てるときにクラン探知キーワードを使うと、クランがいる場所に人型の駒のような光が点滅するから。」
「あ、そう。」
「これは、ヒロインが城に滞在するという条件があって使えるキーワードだから、初期は使えない。
これから、クランをたくさん集めると、味方が増えるから、宰相を越えて暴君になりやすくなるって仕様だ。」
「クランを集めるって、、、とりあえず分かった。
ところで、シキ、おまえ無意識はアクセスできないと言ってなかったか?
なんだか、無意識だったものを感じることがあるんだが。
気のせいかな?グレーの瞳とか。」
「無意識は無理だよ。
アクション起こしても返すものがないんだから。
でも、と、言うことは前意識から意識に変換しそうな層では、何か返ってくるのか?
そこまでの層には届かないよう制限しないと。」
「なんだ、前意識って」
「まったく気がついていない意識を無意識、で、気づこう思えば気づける位置にあるものを前意識というらしい。」
「なんだそれ?」
「いや、よくわからないけど、奥が深いよね?
この辺オープンソースにしていろんな人の意見を聞きたいけど。」
「いや、やめとけ。
おまえの脳についてこれるやつは、きっと、変な奴ばかりだから。
何企むか分かったもんじゃない。」
「じゃ、変じゃないタクトのゲームの中のNPCは興味深いから一度見てみたいかな。
シェアできないかな。」
「いや、それもやめてくれ。
おまえならそのうちやりそうだから、せめて俺がテスターに入っているうちはやめてくれ。」
「なんで?
ゲームだよ。
トウリは、シェアできるならしたいと言ってたし。」
「おまえだからだろ?
でもおまえこのゲームやらないんだろ?」
「おれ?
王子とか殿下とか言われるのが、まず無理。
絶対部屋から出ない。」
「じゃぁ、餓死でゲームオーバーだな。」
「いや、餓死なんて条件付けてないから、、、今からでもその条件付けられるかな?」
「無理だろ。
こんなリリース直前で。
それでなくても、リーダーが許さないだろ、そんなスケジュール変更。」
「まぁ、やっぱり俺はこのゲーム無理だな。」
「動作テストには向かない男だよな。
アオバもそうだけど、プログラマーでも色々だよな。」
「アオバと言えば、この間言ってたストレス、何とかなったのかな?
いつもニコニコしてるからそんなストレス感じているようには見えなかったけど。」
「おまえにはそうだろうな。
おまえが、元アオバの上司のストレスの素と会って断ってやるか?」
「俺?
断れるかな。」
「・・・やっぱ、やめとけ。
いいように言いくるめられて、こき使われている未来しか見えない。」
「二つ下のアオバの方が、その辺はしっかりしてるよな。
自分のしたいことしかしないやつだけど。」
「今このチームで使用してるシステム、自由を管理するってコンセプトでおまえが作ったシステム、ちょっと有名になってきてるから、気をつけろよ。」
「自由って管理できないから自由なんだろうけどねぇ?
矛盾した言葉だ。
プログラム的には、エラーだな。」
「はは、確かに矛盾してるけど、自由なアオバもその管理システムで文句言ってないから、コンセプト的にはエラーじゃないんじゃないか?」
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パーテーションスペース2
パーテーションスペース1と3の間にあるスペース
多少の防音効果があると言っても所詮パーテーションなので、静かにしていると隣のスペースの会話くらいは小さくだが聞こえる。
ズズズッ
人が多いのは好きでではないアオバが4人掛けのテーブルに1人でアイスコーヒーをすすっている。
聞きたくて聞いていたわけではないが、聞こえてきたのがシキのことだったので何気に聞いてしまっていた。
「オープンソースにしない。
同意。
俺だけ見れたらいいけど。」
ズズズッ
「いいように言いくるめられて、こき使われている未来しか見えない。
同意。」
「タクトさんはシキさんのことよくわかってる。」
ズズズッ
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パーテーションスペース3
ミーティングルームの奥で、窓際にあるスペース
トウリとマシロが窓際の席で並んで座って話している。
「タクト誤解してるって。
マシロ結婚もしてないのに、再婚なんてできるわけないじゃない。」
「そうかな?」
「はぁ。
グループ通話の時、もしかしてマシロわざと、主語をつけなかったのの??」
「それを言うならタクトも?」
「タクトは、、、違うと言いたいけど、どうだろう?
本人も気がつくことを避けてるような?
だから無意識に、天然?」
「何も言われていないのにこちらから言うのもなぁ。
タクトのゲームのヒロインが、例の小説の私に似てるって令嬢だったら考えるよ。」
「また、話を逸らして、引っ越しの件で絶対マシロが再婚するって思ってるって。」
「でも、私が他の子と話してるの聞いてたんじゃないの?
そしたら違うって分かってると思うんだけど。」
「聞きかじっただけで、きっと、全部は聞いてないと思う。
グループ通話の声、棒読みだったみたいだし。」
「ところで、トウリとシキは?
一緒に住まないの?
シキはマイペースだけど、トウリが言えば合わせると思うけど?」
「うん。
今はタイミングを見計らってるとこ。
マイペースだけど、私のペースにも合わせてくれるから、
って、私の話じゃないんだけど。」
「お互いのペースを考えられるっていいよね。
トウリはいつ頃一緒に住もうと思ってるの?
引っ越し祝い何がいい?」
「んー、はぁ。
とりあえず、誤解してないかは聞いて、誤解してるようだったら、ちゃんと言った方が良いから。」
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パーテーションルーム2
アオバが談話室に入ってきたとき、奥のパーテーションスペース3が使用中だったため、すぐ横のパーテーションスペース2に入った。
その後、パーテーションスペース1に入ってきて話しはじめたのが、タクトとシキだった。
ヒトに興味をもつタイプではないアオバだったが、偶然耳に入った1つの情報に考え込んだ。
「そうか、シキさん引越しするのかな。
何か引っ越しのプレゼント、、、
メガネがよく汚れているからメガネクリーンセットでもプレゼントするか。
そう言えば俺も欲しかったな。
2つ買っとくか。」
アオバは飲んでしまったアイスコーヒーのカップを持つと、パーテーション2の扉を開けた。
扉のスライドプレートを 空き に変更し談話室の出入り口に向かったが、パーテーションスペース1の扉の前まで歩くと正面を見たまま左手で横の扉をコンコンと叩いた。
「はい。」
返事をしたのはタクトだった。
「シキさん、後でミニゲームの仕様変更の件でコード内容の相談があります。
時間調整をお願いします。」
返事は待たず言うことだけ言って、そのまま談話室から出て行った。
その後すぐに、タクトとシキが出て行き、アオバを追った。
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パーテーションスペース3
「アオバに聞こえてたかな?」
「さっきのトウリの話?
アオバなら平気でしょう。
シキが引っ越しすると思ったのなら、シキの引っ越し祝いくらいは考えたかもね。」
二人の女性のクスクスと笑う声が続いた。




