26.広場の曲芸
ジミールとガイに繋がれた両手をドウシクランが、思いっきり手を上下にばたつかせて無理矢理引きはがそうとしていた。
それこそ三人で大振りのマイムマイムを踊っているようだ。
「何の真似だ?わからないのか!!??」
ドウシクランは顔を真っ赤にして叫んだ。
「おまえら恥ずかしくないのか、こんな広場の真ん中で!
でかい男三人で手を繋いで、うっとおしいし、恥ずかしい!
みっともないったらありゃしないじゃないか!」
ドウシクランは叫びながら何とか二人の手を引きはがそうとジタバタしている。
「「何が恥ずかしいんだ。」」
ジミールとガイは引きはがされないように両手でがっちりとドウシクランの手を掴みなおしてしまった。
近くにいたミズマリは、いつの間にか三歩下がって、他人事のように三人を見物している。
ミマリはそれを見ずに、タクト殿下の後ろで花屋のおばさんにポケットから出した銅貨を渡していた。
そして、何かのパフォーマンスだと思ったのか、広場にいた人々が集まってきていた。
目を丸くしているブランシュはその様子を見ながら、更にでそうな笑い声を抑えようとして両手で口を押さえている。
「ハッハハッ、いま、いい雰囲気の流れになっていたと思ったんだけど。」
ブランシュの様子にまぁいいかとばかりに、タクト殿下はミマリの方を振り向き、腰に両手の甲を当てて首を少し傾げながら伝えた。
「ミマリ、仲良し三人組アピールはもういいから。
ドウシクランを自由にしてやれってジミールとガイに伝えてくれ。
とりあえず今の段階でのゲームオーバーのフラグは折れたみたいだし。
これ以上人が集まって、目立ちすぎても困るから。」
「承知しました、殿下。」
ミマリが三人の近くにいたミズマリに近づき耳打ちするとすぐに戻ってきた。
ミズマリは三人の前に歩いていき、ドウシクランの手を掴んでいるジミールの両手とドウシクランの手を掴んでいるガイの両手の上に自分の手を乗せた。
そして、ガイとジミールに2、3言伝えると、二人はドウシクランの手を離し、その瞬間にバク転で宙を舞った。
重そうな体つきとは裏腹に、軽く人の頭を越えるくらいの高さでラクダ色のマントを翻して舞う二人は圧巻だった。
ズサッという音とともに、見事な着地まで決めている。
着地と同時に、ミズマリがドウシクランの手首をつかみ高く万歳をするように持ち上げた。
すると、ポンッと音がして、ドウシクランがあげた両方の手に真っ赤なバラの花束が握られていた。
周りから、おーっと歓声があがり、拍手の音が響いた。
呆然とするドウシクランをしり目に、三人は周りの観客に頭を下げてから、こちらに向かって歩いてきた。
とりあえず、パチ、、、パチ、、、と手を打つタクト殿下の顔は薄っすらとしたつくり笑顔だ。
「いや、目立ちなくたかったんだが。」
パチパチパチパチッ
後ろで小さな拍手が聞こえる。
見るとブランシュが、強い尊敬を表すような目を向けて拍手をしていた。
「さてと、うちの従者は後どんな芸を隠していたっけ?」
ブランシュを喜ばせるために、もう一芸をしてもらっても良いかとも思ったが、それよりも、ハンカチを城に届けてもらうように仕向け無ければいけないことを思い出した。
ゲームを進めるためには、ブランシュが必ず城に訪ねてくる必要があり、そこで黒髪ポニテのレアリアと友だちになってもらわなければならない。
そこからの伝手で平民のブランシュが城で働くことになるからだ。
ひと通り拍手がなりやむと、ミズマリが満面の笑みの兵士二人と、赤い顔をした兵士一人を引き連れて戻ってきた。
そのまま、兵士三人を少し離れたところで待機させて、ミズマリは括った髪に風を受け、涼やかな笑顔で花屋のテントの前で待つミマリの横に立った。
「相変わらず、ミズマリの隠し技は見事だな。
ドウシクランも大人しくなったし、ゲームオーバーも回避できたかな?助かった。」
タクト殿下の誉め言葉に、ミズマリの笑顔が更に増した。
「有難うございます。
ところで、そちらのお嬢さんは、やはり西の森であった方ですね。」
ブランシュを見て、ミズマリがそう言うとミマリもブランシュの方に目を向けた。
タクト殿下越しではあるが、金髪碧眼の美青年二人に作り笑顔で上から圧をかけられたブランシュは、恐れおののくように一歩後ずさっている。
「おい。
二人とも、その辺にしておいてくれ。
西の森でもおまえら怒ってただろう?
ブランシュが怖がっているから笑顔で圧をかけるな。
おまえたちの笑顔の圧は、精神に異常をきたすくらい怖い。」
ミズマリがブランシュからタクト殿下に顔の向きを変えて、無表情な顔をとり繕った。
「失礼いたしました。」
恐いと言われたことが心外だったのか、ミマリは笑顔を作り直してブランシュに話しかけた。
「そう言えば、あの時、あなたの籠にタクト殿下が ”うっかり” 入れてしまったハンカチには王家の紋章が入っていたはずです。」
「えっ!」
まったく気がつかなかったようで、ブランシュは顔色を青くして驚いている。
「あれが人に渡っては困ります。
これから私たちが取りに行きましょう。」
ブランシュの動揺を全く意に介さずに、ミマリがタクト殿下の前に出ようとすると、タクト殿下はそれを遮った。
「はぁ、
おまえたちが行ったら目立って仕方ないだろ?
だから、この間も、ブランシュの家の近くまで行って、遠くから家に入るのを見届けただけにしただろ?」
今は、ブランシュは平民の町娘なのだから、ミマリとミズマリが警戒するのは仕方がない。
あくまでも、今は、だが。
「ブランシュ、すまないが、明日迎えをよこすから城に届けてくれないか?
ハンカチを洗ってくれたんだろう?
その例もしたいから。」
ミマリとミズマリが、タクト殿下のその言葉に驚き声をあげた。
「「殿下、何を。」」
真っ青な顔でブランシュは身体を固くして、何とか言葉を吐き出した。
「で、ですが、私なんかがお城に行くなんて、分不相応です。」
ブランシュを落ち着かせようと、ブランシュの目線まで体をかがめて笑顔を作る。
「大丈夫、使いをやるから、何も問題ない。
それに、城に来てくれたら、ミズマリの芸をもっと見せてやってもいいし。」
後ろの二人のため息が聞こえたあと、諦めたのか、ミマリとミズマリが交互に後ろでぼそっと呟いた。
「殿下、声は落ち着いているようですが、内心必死なのが手に取るようにわかりますよ。」
「やはり、先日の西の森でひとめぼれで・・・」
それを遮り、ブランシュに再度伝えた。
「ブランシュ、明日、人を送るから。」
そしてタクト殿下はまた、二人の手を取り、広場の方にズカズカと歩き出した。
「城に戻るぞ!」
離れていた三人の兵士がタクト殿下と二人の従者の後を追う姿をブランシュは呆然と見送った。
「本当に、お城に?私が?」
街に入る手前にある宿屋の、馬を預けていた馬宿まで戻ってくるとタクト殿下は双子の従者の手を離した。
後ろからドウシクランが来ていたため、ゲームオーバー回避のために念には念を入れた。
「この間、陛下の寝室から戻った後にクラウドとレアリアのイベントが無事発生していたからな。
クラウドを使いにやったら、デートよろしくレアリアと一緒に行ってくれるだろう。」
兵士三人が馬を受け取りに行って、待っているタクトがこぼした言葉にミマリが反応した。
「殿下の城内での護衛兵士のクラウドがどうかしましたか?」
「ああ、先日彼女ができたようだから、使いに出させる体で少し休暇でもやろうかと思って。」
その言葉に、今度はミズマリも一緒に反応していた。
「「さすが殿下です!
兵士たちの休暇はあって無いようなものですから、きっと喜ぶことでしょう。」」
その二人の満面のきらきら笑顔に、タクトはもの悲しさを感じた。
「おまえたちも、休みなんてないよな?
ずっと、王子と一緒にいて、夜は交代で寝ずの番だし?
王子の徹夜仕事も当たり前で、ここは、とんだブラックだよ。」
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城に戻ると、サイクラン宰相が私室の前で待っていた。
「サイクラン宰相、どうしたんだ。
父上に何かあったのか?」
タクト殿下の後ろには二人の従者、その後ろにラクダ色のマントを羽織った兵士が三人ついてきている。
城外の兵士の色であるこげ茶色のフードは後ろに下ろしたままだ。
「いえ、急ぎお伝えすることがありまして。」
サイクラン宰相は首を軽く振って陛下のことを否定しながらも、一番後ろ方ついてきていたドウシクランに鋭い視線を投げた。
後ろにいるためドウシクランの表情は分からない。
「急ぎとは?」
タクト殿下が宰相に問い返すと、視線を目の前のタクト殿下に戻した宰相が、わざとらしい困り顔を作った。
「はい。
実は、隣国、ローズウエスト王国の第三王女が、明後日こちらに到着するそうです。」
「はっ?」
思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
「ああ、うん。
設定上、早めに来るだろうことは分かっていたが、明後日なのか。
早すぎるだろう。
今日、街に行っといて正解だったな。
サイクラン宰相、確か到着は2週間後だと聞いていたと思うが?」
「はい。
その予定でした。
何分、こちらに持ってくる荷物が多いようで、支度に手間取るとお伺いしておりました。
が、気が変わられたようでございます。
一国の姫ですから、そのようなこともありましょう。」
「そうか、何か理由があるのか聞いているか?」
一応聞いたが、理由は分かってはいる。
青い髪のユージンに懸想しているため、第三王女ができるだけ早くと我儘を通したのだろう。
「恐らく、タクト殿下にできるだけ早くお会いしたいのでしょう。」
宰相は、腕を後ろで組んで、にっこりと笑い、口元にいくつもの皴を作っている。
「ハハハハハハハ。
そうか?
ソウダトウレシイナ。」
このゲームの中で赤茶の髪で唯一と言っていいほど平凡な顔の俺に会いたがるわけがないだろう。
という言葉は飲み込んでおくことにした。
「わかった。
明後日だな。
迎える準備を滞りなく行っておいてくれ。」
タクト殿下がそう言って、部屋の前にいた護衛兵士のクラウドに扉を開けるように手を挙げると、宰相がここぞとばかりに言葉をつけ足した。
「そうそう、先ほど、カイコクラン伯爵を呼ぶようにしました。
第三王女のためにドレスなどプレゼントするのもよいと思いまして。
きっと、伯爵の献上する手触りの良い生地を気に入っていただけるはずです。」
「ああ、わかった。」
開けられた扉の前で返事をすると、宰相は意気揚々と去って行った。
通常、ゲームのNPCは、プレイヤーが勝手にコントロールすることはできない。
決められたパターンの動作をしたり、選択肢によって複数の動きをするくらいだろう。
だが、このゲームのNPCはコントロールできないだけでなく、まったく自分勝手に動きすぎだ。
宰相が立ち去ると、扉を開けてくれた甲冑の兵士に声をかけた。
「クラウド、頼みがあるんだが。」
クラウドは、足を揃えて、ガトリングをつけた手を胸にビシッとあてて礼をした。
「はい。
お申し付けください。」
「明日、街に出てブランシュという女性を迎えに行って城まで連れてきて欲しい。
できるだけ急いで。」
クラウドは思わぬ頼みに驚き、ギギッと甲冑の頭を上げてしまった。
「えっ?
もしかして、平民の女性ですか?
それは。」
バイザーの奥の黒い瞳を見ながら、タクト殿下はいい笑顔を作って、クラウドが断れないもう一言を付け加えた。
「レアリアと一緒に行ってくれ。」
「れ、レアリアとですか?
何故、私は別に、その、」
レアリアの名前を聞いた途端にクラウドの声が裏返った。
「レアリアに頼んで、メイドの服をサイズ違いで何着か持って行って、着替えてもらってから連れてきてくれ。
多分レアリアと同じようなサイズだと思うけど、念のため。」
「あぁ、そ、そのためなのですね。
しょ、承知いたしました!
れ、レアリアと、レアリアを誘って、いや、レアリアにタクト殿下の命と伝えて、行ってまいります。」
言い訳がましいが、とりあえず了承させた。
「できるだけ急げよ。
第三王女と鉢合わせなんてさせたくないからな。」
いずれは顔を合わせることになるのだが、今はそっとしておいてほしい。




