24.グループ通話での墓穴
「シキとトウリにはさっき話したから、内容が被るけど、アオバがタクトの彼女を見たことあるって言ってたの覚えてる?
バイトで入ってたシステム会社の人と連れ立って歩いているのを見たって。」
「はい。
彼女って元カノですね。
えっと、彼女の会社付近にって、キヨカもシステム会社に努めてたってことですか?」
タクトは、キヨカがどんな仕事をしていたのか、自分が知らなかったことに驚いて聞き返してしまった。
「「「・・・・・」」」
リーダー、シキ、トウリ、三人ともが押し黙ってしまった。
タクトが知らなかった事実は、タクト以上に三人を驚かせたようだ。
フー、と長い息をする音がトウリのマイクから聞こえた。
「タクトがそんなことも知らないモトカノの話、今は置いとくことにして、リーダー続きをお願い。」
トウリが”モトカノ”を強調して言っているのが何故なのかわからないが、声に怒りを含んでいるように感じ、タクトは「すみません。」と一言返した。
「トウリ、ありがとう。
それで、続きだけど、最近アオバに、その男から接触されていて困ってると相談をされて。」
アオバ曰く、
「アルバイトと言っても、1、2カ月だけだったんですけど、俺の顔を覚えてたみたいです。
その人に、俺がこのビルに入るとこ見られたみたいで、話しかけられたんですよ。
このビルで働いているプログラマーを紹介して欲しいって。
断っても、ビルの近くで待ち伏せされて、しつこいんですよ。」
「その男を逆スカウト?
だめでしょ、あの人は。
営業兼システムエンジニアとか言いつつ、あんまりプログラムのこと知らないんですよね。
なのに、知ったかぶりして、周りに迷惑かけてる人だったと思います。」
「どういう風に、ですか?
何というか、お客さんと話しのできる人ではなかったと思います。
だから、お客さんが、あーして欲しい、こうして欲しいっていうことを、全部鵜呑みにして、見積、仕様書作成に回してたみたいで。
1、2カ月しかいなかった俺でもわかるくらい、俺の上司のプログラマーがえらく迷惑被ってました。」
「性格?
別部署だったし、上司に迷惑をかける人くらいの認識でした。
悪い人ではないと思いますけど、悪意のない善意を押し付けるみたいな?
お客さんの為だからって善意でやってるみたいなこと言って、だから、自分の依頼を誰もが引き受けて当然みたいな考え方で、それを拒否する人は、親切心が無い奴だと思ってる、みたいな?
俺は周りの空気読まないんですけど、その人は、空気読んでよって押し付けてくる人ですかね。」
「人柄?
一見柔らかい物腰をしているような人に見えました。
仕事以外のことであれば、基本的に親切な人だったと思いますよ。
女性に甘いものの差し入れとか、よくやってたみたいですし。」
「仕事先?
大学からバイト先として紹介されただけのとこだったんで、ここは無いなと思って、早々に他の人に変わってもらいました。
偶然でしたけど、こっちに来て正解でした!
シキさんのソース見たときには、心が震えました!!」
リーダーがひと通りアオバの語りを説明してくれた。
「という感じで、アオバが語ってたんで、実際にどんな対応ができるか確認するために、偵察に行ってきたの。」
「偵察?」
タクトにはリーダーの偵察という言葉が危なげな単語に聞こえた。
「アオバも困ってるし、プログラマーを引き抜かれても困るし、何より、この天然記念物に近づかれても厄介だから。
アオバと、他メンバーを誘って、どんな人物か様子見にちょっと行ってきた。
アオバは顔が知られているから、その男が出てきた段階で隠れてもらったけどね。」
「偵察なんて、リーダー自らそんなことしなくても。
危ない目にあったらどうするんですか?」
本当に心配もしているのだが、あの夕暮れ時にリーダーと一緒に歩いていたのは、やはりチーム内のメンバーの一人だったかと安堵もしていた。
タクトの心配の声に、少し笑いが混じった声でリーダーが答えた。
「一人では行ってないって。
それに、アオバに聞く限りでは暴力的な人ではなさそうだったし。
思い込みの強い、困った性格ではありそうだったけどね。」
「それでも。」
「タクトは多分顔が割れてると思ったから、誘わなかったんだよ。
気を悪くした?」
「いえ。」
そんな風に言われると何も言い返せなくなってしまった。
「それで、アオバたちと一緒にその会社の近くで待ってたら、当人が女性と一緒に出てきたのを見つけて。
二人の少し後ろを歩いてたんだけど、その男が、女の人に○○会社に優秀なプログラマーがいるみたいだから、様子を見てきてくれと頼んでた。
相手の女性は渋い顔をしてたみたいだったけどね。
その男も道端でそんな話をしても気にしない当たり、考えが足りないんだろうなぁ。」
リーダーは、最後はあきれるような声を出していた。
「今時、スカウトや引き抜き、転職、副業、掛け持ち、許容できる会社増えてるみたいだし。
秘密事項という概念ではないのかもしれないね。」
トウリも呆れ気味に話している。
マシロのアイコンが続けて点滅した。
「うちだけにターゲットを絞っている訳じゃなさそうだから、そのうち諦めてくれるとありがたいけど。
続けられると、アオバがかなりストレスになっているようだから、どうしようかなって。」
「そう言うことだったんですね。
企業間で云々ではなくて、その男が勝手に突っ走ってるだけというような。
そんな感じなんですね。」
タクトは、リーダー達が付けていた男が、茶髪の女性に何か言っている様子を思い出して、納得した。
「どうも、アオバの上司だったプログラマーが半年前かな、辞表出したらしくって、延ばしに延ばされたが最近辞めたらしい。
それで、余計な親切心を出したその男が、かわりのプログラマーを見つけると張り切っているそうだ。
別の日にその男と一緒に歩いていた女性にコンタクトを取って聞いたら、自分も会社を辞めたいそうで、躊躇いもなく教えてくれた。」
プログラマーが辞表を出した半年前というと、キヨカがタクトの目に入り出した時期かもしれない。
「コンタクトを取ってって、その茶髪のじょ、、、」
タクトは茶髪の女性と言いかけて、口を抑えた。
女性が茶髪であることを何故知ってるのかと問われたら、キヨカと一緒に見ていたことを答えなければいけなくなる。
そのことを言いたくないタクトは、話を逸らす言葉を頭をフル回転させて考えた。
「「何?」」
トウリとリーダーが素早く反応しアイコンが同時に点滅している。
「チャパツノジョって、何?」
続いてシキのアイコンも点滅したが、シキが言うと全く異なることばに聞こえた。
「ちゃ、チャンスなんで、会社の近くに引っ越しでも進めましょう、アオバに。
そう言えば、リーダーも引っ越さなければいけないと言ってませんでしたっけ?」
「なに、急に?
何がチャンスなの?」
トウリの冷えた声が返ってきた。
無理があるのは百も承知してるが、タクトは引っ越しの話題を続けてしまった。
「二人で住むためには、自分も引っ越さなければいけないって。
戸籍どうしようかなって、ずいぶん前に言ってませんでしたっけ?」
タクトはいくら話をごまかすためとはいえ、出した話題がよりによってこれかと、自分の言葉で自分を串刺しにしていると思った。
マシロのアイコンが点滅し、リーダーの不思議そうな声が聞こえた。
「引っ越しの話、タクトに話してたかな?
お互い再婚になるから色々ものが多いのと、いい物件が見つからないって言ってたから、私も引っ越しはもう少し先になると思うけど。」
「さ、サイコンですか。
知らなかったです。
すみません、以前ミーティングの中休みにリーダーが他メンバーと話してたのが耳に入っただけなんで。」
再婚という言葉に驚きつつ、リーダーのことをほとんど知らない自分が、好意をよせてるなんて死んでも言えない。
「ああ、タクトがこの間言ってた、興味があることが耳に入ってしまうカクテルパーティ効果ってやつ。
タクト、私の引っ越しに興味があったの?」
また、墓穴をさらに深く掘っていることに気がついたタクトは、なすすべもなく黙り込んでしまった。
とりあえず、全員のカメラがオフになっているため自分の表情が相手に見えないことについてシキに感謝をしていた。
「二人とも、今は、例のアオバにしつこくプログラマーのこと聞いてくる人への対策を考えるのが先でしょ?
こんなとこで、話題逸らさないで。」
呆れたようなトウリの声が間に入った。
心の中でタクトはトウリにも感謝した。
「こんなとこって、みんな自宅だろ?」
さらにシキの何気ないボケにも続けて感謝をした。
「俺が思うに、人のことなんてわからないから、アオバはアオバのしたいようにしたらいいのでは?
シツコクつきまとわれるのがいやなら、その男の知りたいプログラマーに合わせて断らせたらいいんじゃないか?」
「「「・・・・・」」」
今度は、タクト、リーダー、トウリ、三人が押し黙った。
「それが自分だと、気がつかないのがシキだよな。」
「俺?
なんで?」
「でも、アオバがしたいようにしたら、相手の男の人のことボコりそう。
一発殴って、理づめで追い詰めて、袋小路に追い込みそうだ。」
トウリのアイコンが点滅した。
「追い詰められたら、普通は闘争心を燃やして更にしつこくなるか、逃走心覚えて逃げるかだと思うけど、どっちかな?」
リーダーのアイコンが点滅した。
「どうかな、闘争心燃やされるのは困るけど、理詰めで相手を追い詰めるタイプの人ならアオバ以外にもいるから、心折らせることのできる人を抜粋する?」
二人の恐い会話は置いといて、聞けば聞くほどタクトには疑問がわいてきてしまい、ついそれを口に出してしまった。
「聞いてるだけなら、仕事のできない、思い込みの強い男に聞こえるけど、キヨカは何であんな男が好きなんだろう。」
しまったと思い、また自分の口をふさいでだが、そこにリーダーの冷たい声がかえってきた。
「キヨカ、か、アオバの話と違って、清純そうな名前ね。
タクトの元カノ?」
「えっと、清純の清という漢字じゃなくて、白い花と書いてキヨカと読むみたいです。」
思わず、棒読みで答えるタクト。
「タクト、リーダー、その話はやめましょう。
どっちも墓穴っぽくて聞いてられませんから。
話の続きは、次のミーティングの時に、アオバを呼び出してしましょう。
タクトも、ゲームオーバーで、やり直しさないといけないし。
そうよね?」
トウリが話に入ってきたおかげで、自分でも墓穴を掘り続けていると思っていたタクトは、胸をなでおろした。
「そうだな。
今日はゲームオーバー前までのチェックリストとレポートを書いて、明日続きをやるよ。」
「それじゃ、お疲れ様。」
トウリが通話グループから抜け、アイコンが通話オフに変わる。
「次のミーティングで。」
続いて、リーダーが通話グループから抜け、マシロのアイコンが通話オフに変わる。
「・・・・じゃ。」
三人目のシキが通話グループから抜け、アイコンが通話オフになった。
最後にタクトが通話グループから抜ける。
「俺の墓穴は分かるけど、二人共の墓穴って何だろう?
トウリに俺が墓穴掘ってるのが分かったということは、俺がリーダーをどう思ってるかわかってるってことか。」
自分でも最近自覚したことを、トウリは以前から気がついていたようだと気づき、頭を抱えた。




