23.そこまで俺話してましたか?
<<城に戻った従者と二人の兵は、宰相から責任を問われ処刑されてしまいました>>
<<国王も間もなく死去し後継者もいない国は、宰相によって周辺諸国に領土を売り渡され国は無くなってしまいました>>
<<ゲームからログアウトします>>
白い文字のプロットが数回点滅を繰り返し、いつもの引き戻される感覚を虚脱とともに感じた。
アイマスクをヘッドセットの上にスライドさせると、暗い閉じた瞼の中にも光が飛び散る様に入ってくる。
「はー、、、、ゲームオーバー。
失敗したな、あいつら処刑されるのか。」
タクトは黒いカウチに仰向けのまま、ヘッドセットを頭から外して自分の胸の上に置いた。
「おい!」
沈んだ気持ちでいると、ホワイトタイガーが呼びかけてきた。
ヘッドセットを胸の上に抑えたまま、頭を横にして声のする方を見ると、PCディスプレイの中から生暖かい目を向けてくる虎がいた。
生暖かい目に、冷静さが沈んだ気持ちより勝ってきた。
というより、どうでもいいような気持ちがさらに勝り虎をジト目で見返した。
「ゲームオーバーなんて、情けない奴だな。
俺が助言をしてやってもいいぞ。」
俺様なホワイトタイガーが、胸より下で両腕を組んでダメな後輩を慰めるよう声をかけてくる。
天井を見て、もう一度大きくため息を吐いた。
ピコン!
「メッセージの音?
シキ?
まだ、データはアップロードしてないよな?」
ノートPCの方を見ると、ゲーム終了のメッセージが表示されていた。
「なんだ、終了メッセージか。
キャラが出てから、遅延表示されるのか。」
そのメッセージウィンドウの後ろで両手を組んだ虎が、ディスプレイ上を二足歩行でうろうろと歩き回っては、時々、こちらをチラ見している。
その姿は可愛いと言えるかもしれない。
仰向けのまま右手だけをノートPCまで伸ばし、メッセージの終了ボタンを押す。
ホワイトタイガーがディスプレイの前面まで走ってきて上半身がアップになる位置で止まった。
「わかった。
今はお別れだ。
次も、俺を選べよ、じゃぁな!」
短い手を精一杯伸ばしながら虎が別れの言葉とともに、ディスプレイの中心めがけて、今度は四足歩行でしっぽを振りながら走り去った。
ホワイトタイガーが見えなくなると、すぐにデータアップロードのプログレスバーが表示された。
「ゲームオーバーの時は、三毛猫に慰められる方が良いかな、執事犬は、同情して元気づけてくれそうな気もするけど。
実際にはどうだろう?
二度とゲームオーバーにする気は無いから、確かめられないか。」
胸に置いたヘッドセットを抱えながら、体を起こしてカウチに座り、プログレスバーの消えたディスプレイを眺めた。
しばらく待ったが、いつもすぐにくるシキからのメッセージが来ない。
通話アプリのアイコンを見てみると、シキのアイコンに通話中のマークがついていた。
「通話中か、当分は連絡してこないかな。」
ヘッドセットをローテーブルの上に乗せ、カウチから立ち上がろうとしたが、そのタイミングで、ピコンッとシキからのメッセージが入った。
メッセージを読むと、シキ、トウリ、リーダーと通話中だがそのグループ通話にタクトも入らないかという誘い文だった。
「えっ。
3人?リーダーも。」
戸惑いながらも、OK とメッセージを返すと、グループ通話の招待状が発行された。
発行されたURLから通話アプリを起動させ、カメラをオフにして通話に参加した。
カメラ機能をオフにしているのは、シキが嫌がることを知っているからだ。
通話画面で自分で自分の顔を見るのも、相手に同様に見られるのも苦手らしい。
通話に参加すると、シキ、トウリ、リーダーともにカメラがオフになっていて、画面には参加者の丸いアイコンに名前だけが表示されている。
紫稀、桃里、蒔白、滴黒吐
「タクト、お疲れ様。
思ったより早くログアウトしたみたいね。」
マシロのアイコンが点滅している。
「リーダー、お疲れ様です。
はい、実はゲームオーバーで。」
数日ぶりのリーダーの声に少し緊張してしまい、余計なことまで言ってしまった。
トウリとリーダーのアイコンが点滅しているのに、声が聞こえないのは、恐らく息だけがマイクにかかっている状態だからだろう。
シキのアイコンも点滅しだして、スピーカーから声が流れてきた。
「タクトがゲームオーバーになったのか。
1回目は一度もゲームオーバーにならなかったのに。」
「1回目は一番短いルートだったから。
今回は1番長いルートで、しかも、NPCがいろんな言葉に反応してくる。
って、二人のアイコンまだ点滅してる。
トウリ、リーダー、二人とも声出してないけど、笑ってるの分かってるから。」
二人のアイコンの点滅がなくなった。
「どこでゲームオーバーになったんだ?
難易度高過ぎ?」
シキだけが真面目な声を出して質問してくる。
「王城から出て、街の大広場に行った時かな。
あのごった返して無秩序な様子を見て、云々言った言葉がひっかかったみたいだ。
難易度は高いと思う。
情報公開は早めにしといた方が良いとは思うよ。」
トウリのアイコンが点滅した。
「あ、私もそこで一度やられた。
あそこでは、宰相の名前や街の整備系のことを言うと、宰相の駒のドウシクランがアクションを返すから。」
トウリはすでに、暴君ルートを行ったらしい。
「それじゃ、その発言の後でセーブしたポイントをロードしても、また同じ結果になるかな。」
「いや、そこはドウシクランのアクションを阻害するようなことを伝えられたら、回避可能だ。
例えば、今の状態を肯定する言語だ。」
シキが真面目に答えてくれたのはいいが、回答がアバウトすぎる。
シキはよく、真(True=正しい)、偽(False=間違っている)、空(Null=何もない)に近い状態の回答をしてくるので、具体的な例は自分で考える必要がある。
ようするに外部から与える(コントロールする?)値は自分で考えなくてはならないということだ。
「わかった。
セーブポイントがぎりぎりだと思うから、何か考えてみる。
ところで、トウリは何を言ってゲームオーバーになったんだ?」
「私?
多分タクトと同じようなことだと思う。
あの広場って、好きなところに好きなように露店を出されてるじゃない?
見てまわろうにも、ジグザクになるし、露店楽しめないしで、めんどくさいと思ったの。」
「それは言えるな。」
「だから、場所を決めてきちんと整列できるように、場所も許可制にしたらいいとかなんとか従者たちと話してて。
多分、宰相の否定より、賢さ判定でアウトだったと思う。」
シキのアイコンが点滅しだした。
「そこでは、宰相が国を好きにするために、宰相を否定したり、宰相が抑えられない君主になる要素だと見なされると、排除しにかかるようにしているから。」
シキが物騒な仕様をつらつらと教えてくれる。
「排除か。
それで、双子の従者も処刑されるのか。
最後の一文に刺されたよ。」
カメラがオフなのをいいことに、思いっきり嫌な顔をした。
マシロのアイコンが点滅した。
「タクトとトウリらしいな。
雑多なものを見て、思わず整備する内容を言ってしまうなんて。
片付け好きなプレイヤーならみんなひっかかりそう。」
リーダーが納得の声を出していた。
トウリのアイコンが点滅した。
「私は街に入る前にセーブポイント作っておいたから、やり直しではそこから。
で、攫われるのを防ぐために、ずっと双子の従者と両手を繋いで、両手に花で回避したわけ。」
トウリが得意げに言った回避方法は、プレイヤーの性別が女性だったから花なのだろう。
「それは、俺には無理かな。
やってもいいけど、ゲームとは言え絵的にどうかな。
性別を女性で入ったらよかったかもしれないけど。
金髪碧眼の二十代前半の従者と、赤茶色の18歳の平凡な容姿の青年とじゃ。」
「タクトの従者は、金髪碧眼なんだ。
私の双子の従者は、どちらも黒髪に黒い瞳のお姉様かな。
そう言えば、タクトは双子の従者の名前何にしたの?
あの二人だけは、名前をどうするか、プレイヤーが決められるじゃない?」
「俺は、ミマリとミズマリ、最近読んでいた小説の主人公の従者と同じ。
気に入った名前だったからそのまま使わせてもらった。」
「18歳の平凡な容姿の青年ってことは、プレイヤーの性別は男だよね?
従者も同じ性別になるはずだけど、女性名っぽいね。
読んでいた小説の従者は女の子だったりする?」
「ああ、うん。
女性名だったのか、意識してなかったな。
最近読んでいたから、従者の容姿が影響されたみたいだ。」
答えはしたものの、元カノから勧められた小説の話をここではしたくなかったので、話を逸らしてみた。
「ところで、ゲームスタートのキャラクターの犬、変わってましたね。
犬種がイタリアングレーハウンドからゴールデンリトリバーに。
執事的キャラっていうのも変わったんですか?
リーダー。」
マシロのアイコンが点滅した。
「んっ?
ゲームスタートのキャラ?
イメージをCGチームに編集してもらっただけで、他は変えてない。」
「俺は好きなんですけどね。
イタリアングレーハウンドって犬種。」
「それは、聞いてたから知ってる。
私もあの犬種はスマートで可愛いと思うし、モフモフが被らないから採用してみたけど不評だった。」
リーダーの声のトーンが落ちたのは、以前のミーティングで皆に反対されたことを思い出したからだろう。
シキのアイコンとトウリのアイコンが同時に点滅した。
「俺は犬種が何でも気にしないし、そのなんとかハウンドでもよかったと思う。」
「リーダー、何でタクトの好きな犬種知ってるんですか?」
マシロのアイコンが笑い声とともに点滅した。
「シキ、ありがとう。
普段そんなことをしないシキに慰められるとなんだがくすぐったいな。
トウリ、スタートのテスト用のオープニング曲をもらったときに、タクトにどんな動物が好きか聞いたから、かな。
ネコだと、ミケで、犬だとイタリアングレーハウンド、って確か言ってたよね?
タクト。」
リーダーのタクトの言ったことを覚えている発言に動揺しながらも嬉しさが胸の中に滲む。
「はい。
確かに、そう、言った、記憶、が。」
タクトは緩む口元を抑えながら、平静な声を出すために、ゆっくりと答えた。
「タクト、なんだかうれしそう?」
どちらかと言うと他人の気持ちに触れることをしないシキが珍しく突っ込んできた。
「嬉しそうだったか。
うん、自分の好きなものを覚えてくれてて、それが反映されるのは、嬉しいだろ?
しかも、リーダーに。」
シキにも悟られるくらいなら、他の2人もわかっているだろう。
タクトは平静を装うのを諦めて、素直に認めた。
マシロのアイコンが点滅した。
「このゲームは、プレイヤーの好きなというか、影響されている人物の容姿が反映されるから、PCの方で案内するキャラクターは人外にする方針だったんだ。
それで楽曲を受け取るときに聞いて、種類を参考にさせてもらったの。」
「なるほど、そう言うことでしたか。
覚えていたというより、目的があったのでってことですね。」
明るい声を出しながら、タクトはシャツの胸をギュッと掴んだ。
マシロのアイコンが続けて点滅した。
「そう言えば、タクト、小説って、元カノから勧められたって言ってたやつ?」
トウリのアイコンが点滅する。
「え、そうなの?
もう別れたんだよね?」
「なっ。
えっと、そう、別れた。
えっ、勧められたやつ、そうですけど、そこまで俺話してましたか?」
リーダーとトウリに連打され、この一瞬でかなりヒットポイントを削られた気がした。
「聞いたよ?
以前、みんなで飲みに行ったとき、子ども云々って話の後。
覚えてないのか、ちょっと酔ってたみたいだし。
借りた小説に私に似た登場人物がいるってことも言ってたけど?」
タクトの頭にプロジェクトメンバー数人でカフェバーに飲みに行った時の記憶が蘇ってきた。
カウンター席とテーブル席幾つかに別れて座り、その時タクトとリーダーはカウンター席で話をしていた。
「す、すみません。
あまり覚えてなくって。」
記憶は蘇ったのだが、ここでそれを認めてしまうとまずい。
ゲームのヒロインの容姿がその登場人物だから、そこまで言わされると、とにかくまずいと思った。
「まぁ、覚えてないならいいか。
話をタクトが通話参加する前に戻すけど、そのタクトに小説を進めた彼女の会社付近に、この前行ってきた。」
タクトは言葉を飲んだ。
数カ月前、キヨカに最後に会ったときに見かけたのは、やはりリーダーだった。




