15.主人公の決断
本編と関係があるような、無いような話です。
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私の名 ブラン と言う。
この名前は父王が母上の名前ブランシュから、とってつけたと聞いている。
今年18歳になった。
銀色の髪に濃いグレーの瞳の私が生まれたとき、父王は、瞳の色が少し濃いが、母上にそっくりだと本当に喜んでいたとも聞いた。
私が覚えている限りでも、とても仲の良い夫婦だったと思う。
9歳のとき、母であるブランシュ妃が父王から突然国外追放を言い渡された。
当時、父王の即位十周年祝賀パーティーが開かれていたのだが、わたしはまだデビュー前だったためパーティーには参加できなかった。
翌日、母上の追放を聞いたときには何が何だか分からなかった。
幼い私は、剣の指導を3歳から受けている師匠、クラウドに聞いた。
「どうして、母上はいなくなったんですか?
父上が国外に追放したというのは本当ですか?」
剣の稽古の途中で一休みして汗を拭いているときだった。
クラウドは青い色の髪をクシャッとかき上げて渋い顔をした。
声の届く範囲には、同じく剣の稽古を受けているクラウドの息子だけがいたのだが、そいつがあどけない顔でとんでもないことを言った。
「ブランシュ妃は、浮気したって噂を聞いたよ。」
「うそだ!」
「知らないよ。
さっき厨房におやつを取りに忍び込んだときに、ピンク頭の奴がみんなにしゃべってたのを聞いただけだ。」
9歳の私が本当のことを知るすべもなく、クラウドも真実は分からないと言っていた。
私はそんな噂を信じないし、クラウドもその噂を信じていない。
父王は母上追放後、滅多に私に会いに来られなくなった。
だから当時、ほとんどが、使用人と、クラウド、そして私の遊び相手のクラウドの息子で同じ歳のスカイと共に過ごした。
王子としての勉強の合間に、皆に内緒で城を抜け出し、スカイと一緒に王都を見て回ったりもした。
そんな時、父王に城内で偶然お会いして、「城の外はどうだった?」など何もかも見通しているようなことを言われヒヤッとしたことを覚えている。
私が15歳になった年、政務に少しずつ関わるようになった。
そこで驚いたのは父王のあまりの不出来さだ。
私には父王が何を考えているのか分からなかったが、政務に関わり出してわかった。
「なんて、優柔不断な王なんだ。」
私は、腹立ちまぎれに足音を大きくして歩いた。
父王の執務室の前に立ち、警備をしている近衛兵を押しのけて、重厚そうな観音扉の左右をそのまま両手でバンッと押し開けた。
見た目に反して軽い扉はすぐに左右に開き、開ききったところでユラユラと揺れた。
入ってすぐに左側の奥の執務机に座る父王の前にズカズカと歩いて行った。
「父上、北の森の伐採はやめたと言われたのに。
二転三転させて、結局伐採されてしまい、今度は西の森の伐採まで許可されたのですか!」
隣に立った宰相の説明を聞いていた赤茶色の髪をした父王が、自分に真っすぐに歩いてくる私の顔を見た。
私と同じグレーの瞳が揺らめいて、その瞳が何かの迷いを表しているように感じた。
「ブラン、なんのことだ。」
父王は首をかしげている。
代わりに答えたのは、隣にいる老齢の宰相だった。
「西の森は橋に適した良質な木が沢山あり、北の森のモノとは種類が異なります。
ですので、ほんの少し伐採し、伯爵領の大きな川に橋をかける材料にすることになったのです。
こちらの資料に書いてあります。」
宰相が書類を差し出すが、父王の様子がおかしい。
まるで初めて見たような顔をしている。
「そうか。
そんな許可出したかな。」
父王は首をさらに傾げながら、宰相が出した資料の束を受け取っている。
宰相は、うやうやしく腰を折って頭を下げているが、仰々しさを演じているようでわざとらししい。
「はい、陛下が許可されております。
表紙を見ていただければお分かりのように、陛下の印象が押されております。」
父王は、書類のことを覚えていない。
本当にそうなのか?いや、明らかに謀事だろうと思った。
「父上。
私は森を見てきました。
ほんの少しではなく大半が伐採されてしまい、森を追われた動物たちが田畑に被害を与え、大きな獣が人を襲っています。」
「それはいけないな。
宰相、これ以上の伐採を止めることはできないのか?」
慌てた父王は、宰相に向き直り止めに入ってくれた。
「難しいですね。
すでに、伐採が進んでおりますし、橋が完成しなくなります。
橋が完成しないと、川を挟んだ地に住むスイーツクラン伯爵の領民が困ります。」
残念そうな顔をした宰相が、さらっと答えた。
それを聞いた父王がまた、私の方を見て意見を変えた。
「それはいけないな。
ブラン、聞いての通りだ。
伐採をやめることはできない。」
「では、獣の被害を受けている民はどうするのですか!」
コホンッと咳払いをした宰相が、父王の耳元に顔を近づけて提案を告げた。
「それは、討伐隊を組んではどうでしょうか?
田畑の被害は獣の駆除をする兵を派遣し、人を襲う獣は現地の狩人を雇い狩るようにしましょう。
後ほど案を整えて予算を申請いたします。」
父王は、宰相の顔を片手で押しのけながら、私の方にとても明るい笑顔を向けた。
「そうだな。
亡き父より年上の老人に顔を近づけられても困るが、その案であれば橋の近隣に住む民も、獣害に悩む民も救われるな。」
「父上、お願いです。
一度でいいから、現地に足を運んでください!
あの惨状を実際には見ていらっしゃらないから分からないのです。」
そのときの父王は、少しとぼけた顔をしていた。
その、まるで「あっ、いや、見て知ってる」とでも言いたげな笑顔を腹立たしく思い、なおも食い下がるが、宰相が執務机の前に出てきて立ちはだかり、私を見下ろした。
「ブラン殿下、タクト陛下のお仕事を邪魔してはいけません。
何かあるのであればきちんと書面を作って申請を通してください。
いずれ、あなたがこの仕事を引き継ぐのですから。」
宰相の背に隠れた父上の反応は分からなっかったが、どちらにしろこの宰相に丸め込まれてしまうだろう。
「わかった。」
諦めきれないが、そう返事をして、ズカズカと足音を立てながら父王の執務室を出た。
父王は何も意見を聞いてくださらない訳ではない。
ただ、より正しいだろうと思う方にフラフラと意見を変えられてしまう。
きっと、このときも、宰相がいなければ、私の意見を聞いて伐採を止めてくれただろう。
あの宰相がいるかぎり、いや、父王の性格では、いずれこの国はだめになる。
その夜遅く、暗殺者が私の寝室に忍び込んできた。
スカイらが気づいて飛び込んで来てくれなければ、間違いなく殺されていただろう。
本来なら王子の部屋の隣は従者の控室だが、従者のいない私はスカイに部屋を提供していて、それが幸いした。
隣の部屋で、天井を這うような音に気がついたスカイが、私室の前の扉を警護していたクラウドのもとに行き、二人が私の寝室に入ってきたのは、私が人の気配に気がつき、目を開けたのと同じタイミングだった。
目をあけた途端、私が寝ているベッドの上から数人の男が降ってきた。
「ブラン殿下!」
クラウドが、降ってくる男たちを足で蹴り飛ばし、そのまま切りつけていた。
「ブラン、剣を取れ!」
スカイも負けじと、降ってきた男に体当たりをして、私の上からどかしている。
ベッドから降りて素早く、その下に置いていた、3歳のときに父と母にもらった王家の剣を取り出した。
最近、身の回りが不穏になっていることを感じていたため、剣を近くに置くようにしていたのだ。
カキンッ、カッーキーンッ、カンカンカン、剣の音が寝室に響くが、一向に誰もこない。
「ブラン殿下、兵舎の兵どころか、廊下に控えているはずの兵でさえ来ません。
変です。
ここは逃げましょう。」
クラウドが、剣で敵を切りつけながら、私に叫んだ。
この王家専用の居住区の天井から来たということは、王家の隠し通路を知っているものが手引きしたということだ。
まさかとは思うが、父上が?
信じたくない。
きっと、何らかの手段で宰相が隠し通路を知ったのだ。
「ブラン、廊下は怪しい、窓から逃げるぞ。」
スカイがそう言うと、非常用の縄梯子を窓にかけて勢いよく下ろした。
「俺が先に行って下で待つから、次はお前がこい。
最後に父さんが来てくれる。」
早口でそう言ったスカイは父親であるクラウドに目を向けて頷くとすぐに縄梯子を降りて行った。
その間、クラウドは三人の男たちを切りすて4人目に立ち向かっていた。
私も窓に上り梯子に手をかけて、4階の寝室から下に降りていく。
真っ暗な中、まるで地獄に堕ちるような感覚だったが、先に降りていたスカイが叫んだ。
「大丈夫だ!
俺たちがついている。
俺も父さんもお前を守るから心配するな、落ち着いて降りてこい。」
何とも心強い幼馴染だ。
そうして暗闇の中私たち三人は、城外に逃げ出した。
暗闇の中、父王の声が聞こえたような気がしたのは気のせいだろう。
「ブランシュによろしくな。」
城外に逃げた私たちは、暗殺者が追ってくることを警戒したが、杞憂だったようで城外までは追ってこなかった。
「ブラン殿下、お怪我はありませんか?」
クラウドが馬上で剣についた血を振り払いながら、さやに収めていた。
逃げる途中の厩で馬を手に入れることができたのは幸いだった。
夜中でも開いている使用人や商人専用の出入り口があり、そこを警護している兵の呼ぶ声を無視して、三人とも剣を片手に馬で突っ切れた。
「大丈夫だ。
問題ない。
しかし、やはり今日、父上のところに西の森の件で出向いたのが気に障ったのだろうな。」
「おまえ、そんなことしたの?
ただでさえ、最近宰相に目をつけられて、警護の人数減らされていたのに。
この間は、お茶に毒入ってたんだろう?」
スカイが驚いて小声でわめいている。
「スカイ、タメ口をやめろ。
不敬だといつも言っているだろう」
クラウドがスカイの態度を叱咤するが、私の幼馴染はまったく気にしていない様子だった。
青い髪に、黒い瞳、親子だと一目でわかる二人だ。
そんな二人のやりとりを見て、私は少なからずホッとしていた。
城で常に一人だった私にとって、スカイはたった一人の心を許せる友人だった。
それを本人もわかっているのだろう、私と二人の時に敬語を使うことはなかったから。
「殿下、王都も治安が悪くなっています。
このまま、外で夜を過ごすのは危険だと思いますので宿をとりましょう。
郊外ではありますが比較的安全な宿に心当たりがあります。」
「クラウド、わかった。
そうしよう。」
私が生まれる前から少しずつ国の治安が悪くなり、特に母上が追放されてからは、無駄な工事が増えてその度に増税され、いくら働いても困窮する民は犯罪にはしる者が増えている。
クラウドが心配するのも無理はない。
翌朝、私は決心していた。
「クラウド、スカイ、私は、私が9歳のときに追放され今は隣国にいる母上のもとに行こうと思う。
力のない私では、このまま城に戻っても、いずれ殺されるだけだから。」
「ブラン殿下、よく、決心なさいました。
私もついていきます。」
クラウドが片膝をついて頭を下げた。
「俺もいくよ。」
その隣で、頭の後ろで手を組みながら笑顔で気軽に応える友人がいた。
そうやって、私は二人と一緒にこの国を後にしたのだ。
朝日の中、父王の声が聞こえたような気がしたのは気のせいだろう。
「もうちょっとでゲームクリアだ」




