13.落ちた
たとえて言うなら4DXだろう。
ダイジェストムービーが流れてそれをポップコーンでも食べながら見るような感じかと思っていたのだが、そうではなかった。
婚約式の前日、ベッドに横になるとすぐに、婚約式の朝を迎えたのだが、上下左右がスクリーンになっているかのように回り中がよく見えている状態だった。
すでに婚約式の衣装に着替えて姿見の前に立ち、回りのメイドから、美しいです、素敵です、よくお似合いです、などの誉め言葉を浴びているところだった。
自身は具現化されていないため、外身が勝手に動く、中の人状態とでもいうか、まるで大型の人型マシンに乗り込んでいる気分だった。
4頭の馬車が引く王家の豪華な馬車に乗り込み、座り心地のよさそうな椅子に座り、窓から街道沿いの人々に、にこやかに手を振りながら城から大聖堂までの道路をゆっくり進む。
クッションのきいた椅子は座り心地がよさそうで、ほとんどの振動が吸収されているが、そのわずかな揺れを感じることができる。
そう、人々の熱気、窓から入る風、馬車の振動などが体感(?)できた。
王子が馬車の窓から半分顔をだしたので、前方に軍馬に乗った近衛騎士が二人、馬車の両横に甲冑の兵士が2m間隔くらいで馬を並足で歩かせているのが見えた。
王子は今度は馬車の後ろを振り返り、軍馬に乗った近衛騎士の精鋭10人が5人ずつに2列になってい着いてきているのを見た。
上を見ると青天が広がり、白い道路の両脇にある、ありとあらゆる建物、家屋から白い花びらがまかれ、降ってきているのが見える。
王子の顔の動きに合わせて、周りから歓声が上がった。
赤茶色の毛にグレーの瞳の王子より、前後にいる近衛騎士の精鋭の方が容姿に優れているように思うのだが、今はこの行進の主役である王子にすべての視線が注がれているようだ。
大聖堂に行って、婚約式が終わり、城に帰ってくるまではプレイヤーの意志で動くことはできず、プログラム動作となる。
「なるほど、ただの流れるだけのムービーではなく、こう来たか。
視界が王子の視界だけと限られているから、見たい方向が見れない。
必ず気がつかなければいけいないことがあれば、そこは強調表示される。
それはそれで便利なのか。」
街道沿いや、近衛騎士、兵士などの様子を伺っていると、大聖堂についた。
馬車が大聖堂の前に止まると、近衛騎士たちがさっと馬から降りて、すぐに大聖堂の階段に花道を作るように、両脇に6人ずつ、下から上まで等間隔に並んだ。
近衛騎士の後ろには甲冑を着た兵士も並んでいる。
王子は右手を左胸にあてて頭を下げている近衛騎士の間を一歩ずつ上って、開け放たれた大聖堂の正面の大きな扉から中に入った。
中に入り真っすぐに正面を見ると、20mはあるだろう先に教壇があり白い神官服を着た神官が立っている。
神官の後方の壁一面には、白いグラデーションのステンドグラスが見えた。
天井に届く位置まで、三角、逆三角を並べた銀の枠縁にガラスがはめ込まれており、下から陶器のように濃い白で始まり、上に行くにつれて透明に近くなる白いグラデーションだ。
そこから白い光が差し込んでいるため、光を背にしている神官が神々しく見える。
そんな大聖堂で、両脇に並ぶ多くの貴賓客、国内の貴族、有力商人が挟む中央の白いカーペットの上を一歩一歩進む。
教壇まで伸びているステンドグラスからの光の中に、ブランシュ姫もいた。
銀の髪に、銀の枠にはめ込まれたガラスの装飾の冠をかぶり、白いドレスにガラス玉が散らされて、白い光を受けてさまざまな方向に反射している。
「ま、まぶしい。
天使のようだ。
いや、天使だろう。」
そのブランシュ姫の隣に王子が立つと、ブランシュ姫は、前日の儀式で受け取っていた白いマントを王子の肩に掛けて、左右の白い組みひもを胸元で結んだ。
二人が神官の前に並ぶと神官が手に持っていた本を開き、朗読を始める。
それが終ると、婚約の契約書が運ばれてきて教壇の上に置かれ、王子とブランシュ姫はその契約書にサインを行った。
サインを行った契約書を神官が受け取り、白いステンドグラスの前の段差に持っていって飾った。
段差に置かれたのは、楽譜を置く譜面台のようなものだが、これもガラスでできており、譜面を置く場所に契約書が乗せられている。
婚約契約書はそこの位置で1週間そのまま置かれる。
ステンドグラスの光が届く範囲には神官以外、誰も足を踏み入れることはできないので、異論がない限り婚約契約書が移動することはない。
そして、神官がこの婚約が成立したことを宣言すると、大きな拍手が沸き上がった。
「視点変更」
中の人であるタクトが思いついてキーワードを唱えると、引き戻される感覚を覚えた。
現実の自分の体の感覚が戻っており、いつものようにカウチに横になっている。
真っ暗な視界は、ゲームシステムをはめているためだ。
「えっ?
落ちた?」
アイマスクをあげてヘッドセットを外しローテーブルに置くと、すぐにPCの画面を確認した。
予想通り、ウィンドウにはエラーメッセージが表示されていた。
「予期せぬ問題が発生したため終了します。」
アラームが鳴る20分前だったようだ。
「やっぱり、落ちたのか。
何が原因だ、視点変更か?
中の人状態での視点変更は想定外ということか。」
反射的に落ちた原因を考え分析しようとしたが、セーブできていないことを思い出しがっくりと頭を垂れた。
「これは、、、、痛いな。
よりによってセーブも何もできないときに、落ちるなんて。
いや、そんな時だからか。
従者たちにきつい言葉言われたときより、くる、刺さる。
もう一度、あの婚約式前々日の大広間の説明会からやることになるのか。
プロポーズのセリフを不具合とか言ってるのと訳が違う。
致命的なエラーだ。」
諦めてパソコン画面をもう一度見た。
ウィンドウに映るエラーメッセージは変わらない。
もう、OKボタンを押すしかない。
すでにゲームから離脱しているので、何もあがきようがないのだが、タクトはやるせない気持ちでOKボタンを押した。
データ送信中のプログレスバーが表示され、すぐに消える。
そのまま、パソコン画面を見ていると、ピコンッとシステム音が鳴りテキストのメッセージが届いた。
「やっぱり来たな。」
スピーカーをオンにすると、すぐに通話アイコンを押した。
「あれ、チャットじゃなくてすぐに通話してくれるなんて珍しいな。」
スピーカーから聞きなれたシキの声が聞こえてきたので、即答した。
「落ちたからな。」
「え、やっぱり?
終了がセーブの後じゃなかったようだったから、おかしいと思ったんだ。」
シキの声が思ったより落ち着いていたのは、予想がついていたからのようだ。
「そこまで確認してから連絡してきたのか。
早いな。
データがサーバーにアップされるのを待ち構えてでもいたのか?」
「うん。
まぁ、待ち構えていたのと同じだな。
テスターのみんなが今日は6時間マックスでやってくれてて、終わるタイミングが重なってたから。
ちょうど他メンバーのアップされた結果を順番に見ていたら、タクトのデータがアップされたのに気づいて。
確認したら、終わり方がちょっとおかしいようだったから連絡した。
で、どこで落ちた?」
「婚約式で大聖堂から出るとこで 視点変更 したんだ。
そしたら、落ちた。」
「えっと?
なんでそんなとこで視点変更したんだ?
自分で動けないし、周りはちゃんと見えてただろう?」
やはり想定外だったらしく、シキの言葉が疑問文で返ってきた。
「なんとなく。
そう言えば、理由はなかった。
せっかくなので、空の上から見てみたいとか、そんな風に思ったような気がする。」
「他メンバーはそんなとこで 視点変更 なんかしてなかったけど。」
「俺はしたな。」
スピーカーの向こうでシキが考え込んでいる様子が伺える。
「とりあえず、わかった。」
シキは数十秒考え込んでいたようだが、了承したようだ。
「内容まとめたあとに、チェック項目入れるから、次のミーティングまでに対策してくれ。」
そう、これから、チェック項目の入力がある。
まだまだ先は遠い。
「そうする。
他の場所でも、呼び出しているコマンド使ってると思うから、他のプログラマーにも確認する。
・・・落ちるのはまずいよな。」
シキのため息が聞こえた。
「そう言えば、クラウドにプロポーズするメイドの言葉、あれは無いだろう?
あれも、直す項目にいれるぞ。」
ふと思い出して、もう1つ気になっていたことを伝えた。
「えっ。
別に俺はどちらでも構わないけど、直せるかな?」
シキから、なにか、間の抜けた返事が返ってきた。
「直せるかなって、どういうことだ?
俺は仕様不具合かと思ったけど。
何か意味があるか、誰か反対するのか?
いまどき、責任取って、はないだろう?」
不思議に思って聞き返してみると思わぬ答えが返ってきた。
「おれはどっちでもいいけど、あの案いれたの、リーダーだったと思う。」
「なんで?」
「さぁ?」
「リーダー?
間違いじゃないのか?」




