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討伐される暴君作成ゲーム  作者: かさのした
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1.テストの話




「討伐される暴君になるゲーム。

もうちょっとマシなタイトルは思いつかなかったのか、シキ?」


直径1M 程の白い丸いテーブルを囲んだ3人の男女が、それぞれ手に持っている紙コップをテーブルの上に置いた。

腰より少し高いテーブルに椅子はなく、そのまま立って話を続ける。


「まだ、仮タイトルだから。

俺にネーミングセンスが無いのは、タクトも知ってるだろ。

1回目のテストステージの結果で、正式タイトルをチーム内で決定する予定だ。」


シキと呼ばれた男性は、横に抱えていたノートPCを左腕に乗せた。

右手で、少し下がった黒縁メガネを整えてから、左腕に抱えたPCのディスプレイを開けて説明を続けた。


「プレイ人数は、1人。

プレイシステムは、ブレインリンクシステムってやつ。

対応言語は日本語。

データのセーブはクラウドになるけど、テストモードの時は社内のテストサーバーにしている。」


少しボサついた前髪が黒縁メガネまでかかっているが、シキは気にせずにウィンドウを見る。

セキュリティ画面で顔認証が承認され、ログオンに成功する。


ディスプレイを開けた右手をそのままキーボードの上に移動させ、いくつかのキーを打つと、サーバーアクセスのためのセキュリティウィンドウが開いた。

さらにいくつかのキーを打ち込む。


「だから、テストの時はそっちにログオンできるように設定している。」


そう言いながらシキは、タクトと呼んだ男性の方に画面を向けた。


「ほら、これソースコード。

見たいって言ってたろ?

テスターのタクトになら見せてもいいって、チームリーダーから許可もらったから。」


シキより頭一つ長身のタクトは、左腕をテーブルに乗せ少し身をかがめて画面を覗き込んだ。


「これがそのゲームのソースコードか。」


ノートパソコンのディスプレイに向けた右手の人差し指を、アプリケーションの中で複雑に並んでいる文字の羅列に合わせて動かした。

その羅列を目で追っていたタクトだが、だんだん顔が歪んできた。


「ちょっとまて、これ、コード深すぎるだろ。

コーディング何重になってるんだ。

何人がかりでやったんだよ。

ちょっと貸せ。」

タクトはシキの持っていたノートパソコンを奪い、自分の左腕に乗せ変えた。

右手で画面をスクロールさせながら、忙し気に目を動かしコードを追って、さらにいくつものウィンドウを開きリンクを追っている。

そのやりとりを見ていた、三人のうちの一人の女性が口を開いた。


「それ、彼の、会心作だから、、、、プログラマーのチーム死んでたわね。

彼以外は。

ちなみに、私も見たけど、途中でコード追うのを諦めたわ。」


そう言った後、湯気の立った紙コップを取り、ふうっと息を2、3回吹きかけ、一口コーヒーを飲んだ。

シキも、空いた手をテーブルの上の紙コップに伸ばした。


「タクトのスケジュール、都合どうかな?

いつもみたいにある程度のコードを覚えてテストに入るなら、待つけど。

テストスタートにどのくらいかかる?」


淡々と確認の言葉を言い終えると、シキは手に持った湯気の立つコーヒーをそのまま飲んだ。

一口飲んだコーヒーにさらに息を吹きかけていた女性がそれを見て目を丸くした。


「博士、それ、熱くないの?舌大丈夫?」

「俺?熱いの平気だから、大丈夫。

モモは熱いのだめだったっけ?

でもこれ、コーヒーフレッシュを2個入れたから、モモのブラックよりは温度下がってると思う。」


シキはそう言って、テーブルより少し離れた位置にある社内用コーヒーサーバーの横に設置されている小さなゴミ箱の中を指した。

コーヒーフレッシュのカラが2つ入っていると言いたいのだろう。

モモと呼ばれた女性は肩まであるストレートの黒髪を耳にかけながら、ゴミ箱の方を見た。


「中、見えないけど、そうなんだ。

ふーん。

ミルク入り一口飲ませて。」


女性が、黒縁メガネの男性のコップに手を伸ばしかけた時、パソコンを除いていた男性が、顔をあげた。


「会社の休憩室でいちゃつくなよ。

紫稀( シ キ )桃里( トウリ )

その、博士とモモって二人だけの呼び名も、社内ではややこしいからやめてくれって言っただろ。」


言い終わると、タクトはすぐにパソコン画面に目を戻した。


シキは先ほどの淡々とした様子が消え、焦った様子で口をパクつかせている。

「い、いちゃついてって、」


タクトは焦ったシキをスルーして、目でソースコードを追いながら答えた。

「いつもみたいに、ある程度覚えてテスト、、、は、無理だな。

今回は。

俺が追えるレベルじゃないってのがよくわかる。

だから、最短でテストに入れる日にスタートする。

なんだ、このバカみたいなプログラムコード、ありえないだろ。

見かけは名前負けしてそうなのに、してないよな。

紫稀( シ キ )。」


タクトにトウリと呼ばれた女性が嬉しそうに抱えていたバインダーをタクトの前に差し出した。


「今回ばかりはそう言うと思って、仕様、設定の紙版持ってきた。

博士の会心の作だから、ソースコードだけ見ても追えないかなと思って。

サーバーに同じデータもあるから、見やすい方で見て。

それとこれは、テスト中は持ち帰ってもいいけど、機密文書扱いね。」


「えっ?紙?印刷したのか?」


驚いたタクトはパソコンをテーブルに置くと、その10cmほどの厚さのバインダーを受け取り、急いでページをめくって、さらに驚愕した。


「なんだこれ、手書きじゃないか。」


紙には、文字の羅列、記号、それを繋ぐ矢印、記号から記号を繋ぐ線が遺伝子記号のように際限なく何ページにも渡って書かれている。

上下左右に伸びているため、ページ番号が役に立っていない。

各ページに格子が薄くひかれており、格子ごとにアドレスが振ってあり、何ページのどのアドレスにつながるか書かれている。

さらに、パラパラとめくって、目を通しながら、タクトは大きくため息をついた。


「これ、シキが書きなぐったやつそのままだろ。

そこにアドレスつけて、まるで地図帳のようだな。

サーバーの同じデータって、これ、スキャンしたやつ?」


トウリが大きく頷いた。


「人物設定のイメージイラストが少ないな。

プレイヤーの操作するキャラと主人公だけだな。

あとは、特徴の詳細記述だけで、、、

ああそうか。

それで、さっきPCの方でみたコードの深部につながるのか。

その特徴を拾って、プレイヤーの中で最も近いイメージの人物を投影するのか。」


一瞬前まで焦っていたシキだが、タクトの言葉を聞いて口元を少し上げた。

「正解、さすがだ。

こんな資料だけで、そこまで読みとれるって。

ノン プレイヤー キャラクター、NPCの人物像は、個人の脳の世界で作り上げてもらう仕様にしてる。

プレイヤーの意識下にある人物像の外見の情報を集めて構成するようにしてみた。

だからプレイヤーの周りの人物は、その設定に近いイメージで、プレイヤーの意識から投影される。

はず。

初めてのコーディングだから、その辺を重点的に、テストで報告してくれるとありがたいかな。

プレイは、これは夢だと自覚を持って見る夢みたいな感覚かな。」


「こんな資料って、、、

おまえが書いたんだろう。」


タクトは、あきれながら上着のポケットからスマホを出すと、画面をスワップしてスケジュールを確認する。

「テストね。

これ、結構時間かかりそうだな。

時間的には、リアル世界の10倍のスピードで進行するといっても、ロールプレイングだから。」


「ルートは4つで、どのルートも時間のかかる程度は、ゲーム内でNPCとどれだけやりとりするかによる。

的絞ってやっていっても、2カ月はかかると思う。

スケジュール、つくか?」


思案しながら言うシキの手から紙コップを受け取ったトウリが、そのままシキの耳元で話した。


「多分大丈夫。

最近、彼女と別れて、そっちの予定入らないらしいから。」


タクトの肩がピクッと動く。

「そうだよ。

だから、目の前でいちゃつかないでくれるかな。」


シキはタクトの様子を見て、また、焦っている。

「悪い、今回のテストが無理なら、他のテスターあたるから。」


トウリは、シキのコーヒーを一口飲んだが、すぐに焦るシキの手に紙コップを返した。

「私には、まだ、熱いかな。」


シキが紙コップをしっかり持ったのを確認したトウリは、タクトに真面目な顔を向けて聞いた。

「付き合っていた女性が、バツイチで子連れだったんで、悩んでたら、他の男性にとられたんだって聞いたけどほんと?」


タクトは、ため息をついた。

「そのとーり。

バツイチも、子連れも知らなかったんだ。

いきなり、息子に会ってくれって言われて、焦るだろ?

気持ちの整理をつけたくて距離をおいたんだ。

いざ、会おうと思ったら、お別れのメッセージが届いたってわけ。」


シキはさらに焦っている

「え、じゃ、なおさらこのゲームのテスターやめとくか?

これ、プレイヤーが王様になるけど、最終的に王が息子に討伐されないといけないゲームだから。」


「いや、息子にって、そこは関係ないだろ。」

タクトはシキが焦って口走った内容に苦笑する。

「テストはやるよ。

おまえのゲーム面白いから。

って、やっぱ、リーダーに愚痴るんじゃなかった。

まさかと思うけど、チーム中にまわってるのか?

その話。」


タクトは半笑いし、そう言うと、スマホに文字を打ち込んでいる。


「えっ?

リーダーから聞いたんじゃないわよ。

この間、数人でカフェバーに飲みに行った時に、リーダーに愚痴ってたんでしょ?」


トウリが答えると、タクトはスマホから目を離さず聞き返した。

「あんな騒がしいとこで誰に聞こえるっていうんだ?」


「カクテルパーティ効果って知らない?

興味関心のある話題は自然と耳に入るってやつ。

他人の恋愛話に敏感な人は多いって。」


タクトは、また、ため息をついた。

「スケジュール入れたから、それでよかったら、スケジュール了解しといてくれ。

ほら。」


持っていたスマホの画面をシキとトウリに向けた。

画面にはプロジェクトと個人のスケジュール管理のアプリが表示されている。

それをトウリが覗きこんで確認している。


「この期間ね。

1回目テストステージで、ミーティング5回くらい挟む感じかな。

私は大丈夫。

後でログインして了解しておく。」

「俺も大丈夫かな。

他メンバーも全員了解が入ったら、調整なしでそのままスタートするから、テストできるよう用意しとく。」

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