独断と偏見による 手話ってジェスチァーサイン?
さん角帽の屋根が特徴的な喫茶店。日が沈んだ余り混む事のない時間帯に数名のグループが入ってきた。そのグループは騒ぐことも話す声もなく淡々と紙で注文を交わしては、先に会計を申し出た。
「はぁ、喉が痛くて声が上手く出なかったから、ちょっと良かったよ」
「あはは、昨日からおかしかったもんねぇ」
喉を触りながら話すあじゃに、アメリーは笑いながら答えた。
「そんなに痛いなら、ジェスチァーでやったら?」
「えっ?そうだねぇやってみますか」
あじゃはアメリーの言う通りにジェスチァーで話かけた。
「は?わ?、あ?わ?ん?、、わ、た、、、??ムリムリわかんない」
腕や顔、体全部を使って伝えようとするあじゃに対して、アメリーは両手でバツを作り顔を横に振った。
「えーわかんなかった?」
「うん、何て言ったの?」
「ハムスター!!」
「はい?ハムスター?意味わかんない」
「あははは、それにしても伝わらないもんだねぇ」
あじゃは両手を広げて“わかんない”とポーズをするアメリーを見ては笑っている。
「はいはい、遊んでないで片してよね」
話をする二人に、ヨークは少し怒るように声をかけた。二人は、「ごめんなさーい」と謝り、カウンターに置かれるカップや残しものを片付けながら、ヨークに話かけた。
「ねぇヨーク、あじゃが喉痛いって言うから、ジェスチァーでって話になったんだけど、もっと簡単に伝えるのってない?」
「え?それなら、手話とか筆談とかあるじゃない」
「ほーぅ。うん、筆談は解るけど、手話ってよくわからなくない?」
「え?何言ってるの?手話は元々ジェスチァー的な感じで互いに伝えてたのよ」
「え?そーなの?」
アメリーとあじゃは驚いた表情をしては、「どうゆうこと?」とヨークに聞いてきた。
ヨークは、カウンターの上を片付けてはトレーをダスターで拭き、二人の顔を見た。
「えっと、何がわからないの?」
「手話って何?」
あじゃとアメリーは声を揃えた。
「そうねぇ、形よりもまずは、手話の生い立ちからよね。二人共手話は耳の不自由な人達が、全ての人達と話す手段として用いられてるのは知ってるわよね?」
ヨークは二人の顔を目で確認しては、あじゃとヨークは“うん”と頷いた。
「手話は元々、耳の不自由な人達の間で始まったコミュニケーションの一つだったのよ。互いに伝わるようにね。誰かが作った訳じゃないのよ」
「へー」
「だから、全ての人達が解る“手話”ってのは、なかったのよね。」
「なんで?」
あじゃとアメリーは、ヨークの話に前のめり体を寄せてきた。
「なんでって、国や地域の言葉が有るように、手話にも国の手話、家庭の手話が有るのよ。英語やスペイン語に私達の話す日本語のようにね。海外は海外で歴史が有るように、日本にも歴史があるのよ」
「どんなの?」
「日本に手話が始まったのは、明治時代の京都、史上では明治11年に学校を作ったと言われてるわ。最初の頃は、各家庭で使う“手話”つまりジェスチァーよね。身近な人だけが解る“サイン”が使われていたんだけど、全員が解るようにと、その時の先生達が各家庭の“サイン”を用いて学校内での統一をしていったのが、日本の手話の始まりと言われてるわ。世界だと、1760年代、パリに学校が作られ、D,レペ神父が、彼らの“サイン”を使用しながら、読み書きを教えていったのが始まりらしいのよ。それ以前にも沢山の“人達”がいたのだけれど、史実上、残っている文献だと“ここ”が始まりで、各国に広がっていったのよね」
「ほー」
あじゃとアメリーは左手を皿のように広げては右手で拳を握り、右手で左手を叩いては言葉をはいた。
「そうね、そんな感じね」
ヨークは二人のする“サイン”に右手で“OKサイン”を作っては笑みをこぼした。
「でも、“言語”として認められるまでは、かなりの時間、年月がかかってるのよね。解りやすく言えば“差別”よね」
「えー、ひどくない?」
「非道と言えば非道だけど、昔の人達は、固定概念や宗教的な意味合いが強かったから、なんともえいないんだけどね。でも今は、立派な“言語”として確立されているわ。“新しい言語”として取り入れられているの。1960年代に“独立言語”を発表してから、2010年には、ニュージーランドの公用語として認められるまでになったのよ。日本では、ドラマや歌によって広く認知されてきているのよね」
「すごーい。」
「広まり認知されてくるのは良かったんだけど、それと同時に問題が出てきたのよね」
「問題って?」
あじゃとアメリーは首を傾げて互いに顔を見あっては、互いに「わかんない」と顔をしていた。
「それはね、言語と同じで“手話”が“独立”していってしまうの」
「独立?」
「そう、独立。有る一定の“手話”はある程度まとめて“私達”にも覚えられるように作られてきたのだけど、文化や歴史と同じように言語も“手話”も“進化”していくのよ。これから覚えようとする“人達”に“壁”を感じさせてしまって懸念されてしまうのよね。アメリーが言ってたように“わからない”ってなるのよね」
「うー、、、」
アメリーは少し複雑な顔をしてはうつむいた。
「でもね、“手話”は“ジェスチァーサイン”なのよ。どんなことでも“伝える”“伝えたい”って気持ちが“手話”なんだからね」
「うん。そうだよね。“言葉”でも“手話”でも“伝える”“伝えたい”ってのが全ての始まりだもんね」
アメリーはあじゃとヨークの顔を見ては元気一杯に拳を上げては笑顔で笑った。
アメリーは、キッチンで洗い物をしているF.りかに「ねっ」と笑顔で今の“気持ち”を表した。
F.りかはアメリーに対して黙ったまま、顎で指図した。アメリーはF.りかの姿を見ては
「はい、、あいたお皿下げてきます」
と言ってホールに出ていった。
今日も四人のアルバイトが、明日の準備に腕を奮っている。




