母の昔話
うちの娘は変わっている。
大人びたという表現では足りないくらいに大人びている。
まだ、年長だというのに、家の手伝いを積極的にやり、甥の小学生時代のドリルなどをバンバンやっている、少し異常とも言える子だ。
まあ、可愛いからいいのだけど。
あと、同年代の子たちと遊ぶのが苦手なようだ。
孤立はしておらず、好かれていると保母さんも言っていたのだが、おままごとなどの遊びが好きではないらしい。
家にいる時は、本を読んでいるか、ピアノを弾いている。
入園する前から、我儘もろくに言わず、大人びた子なので、娘が年少の時に保母さんにうちの子は馴染めているかと聞いた事があった。
そうしたら、少し目を逸らして、馴染んでいるというか、息をするように世話をしていますと言われた。あの時は笑った。
そういえば、うちでも陸の世話を息をするようにしているなあ、と。
たぶん、私は変わっていて、夫も含めた義実家は大らかなのだろうと思う。
普通、あんな変わった子は気味が悪いと思うのではないかなと思いつつも、全くそんな風には思わないのだ。
ただ、小さいくせに大人びて、変に真面目な娘が可愛くて仕方ない。それだけだ。
お遊戯会で、皆で踊る練習など、全く楽しそうではなくだるそうな顔をしているのが、とても可愛い。
そのくせ、家でも真面目に自主練習をし、なんでこんなことー……なんて独り言ちながら練習している風景を覗くのは私の癒やしだ。
夫、義両親、義兄夫婦、娘、息子に囲まれた今は少し前の私には信じられないくらい幸せだと思う。
17歳の頃の自分に今の幸せを言っても絶対に信じてもらえない。それくらい幸せだ。
未だに、寝て起きたら昔のままの自分がいて、この幸せは夢なんじゃないかなんて思うくらいだ。
母親は愛人を取っ替え引っ替え家に連れ込み、高校に行かせてやったのは俺が金を出したからだ。だから、学費は身体で返せと知らない親父に迫られ、ぶん殴って家を飛び出て、悪友の家を転々とする日々。
父親に頼ろうとも、誰が父親かさえ知らない。悪友の家といえども、両親が揃っていてなんだかんだ幸せそうな家庭に混じって摩耗していく。
そんな毎日だった。
あの時、夫に出会わなければ、助けられなければ、と考えるとゾッとする。
家、家庭、というものの暖かさと尊さはこの家で教わった。
温かい食事の喜びと、褒められる喜びは、義両親から教わった。
小学生、いや幼稚園児でも知ってそうな喜びも18を過ぎてからこの家で教わった。
言葉では言い表せないほど感謝をしている。
だから、この人たちの幸せを守るためなら死んでもいいと思い、そう伝えたところ、怒られた。
アンタが死んだら幸せになれるわけないでしょ! と。
ちょうど、空が産まれた時だ。嬉しくて嬉しく涙が出た。
だから、矛盾しているのかもしれないけれど、この幸せを守るために命をかけて大往生してやるんだと誓ったのだ。
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「誰の言葉だったか、人生の幸不幸は丁度、プラスマイナスでゼロになるようにできてるんだって言ってたねえ。千砂さんは、今までずっと大きくマイナスだったから、これからはずっとプラスでしょうね」
空が卒園し、それに合わせてマイホームを購入。
家を出る最後の夜に今までの感謝を伝えたらそう言われた。
今まで大嫌いだった名前も、義母たちに呼ばれると嬉しくなるから不思議だ。
「千砂さん、空に悪い虫がつかないようしっかり守るんだぞ」
義父は、孫娘である空が産まれてから笑ってしまうくらい孫バカなお祖父ちゃんになった。
「ふふ、任せてください」
「政次も忙しいのは分かるけど、千砂さんに日頃の感謝や愛は言葉でしっかりと伝えるのよ?」
「……いや、照れくさいだろう、それは」
義母の言葉に、夫が照れくさそうな顔をして目を逸らす。
そういえば、直接そういう事を言われたことが無いなと思ったけど、別に言われなくても伝わってくるから大丈夫だよと言ってあげたくなる。
「あら、お祖父さんなんて今でも寝る前に毎晩、愛してるよって言ってくれるわよ?」
「ちょっ、祖母さん!」
義母した大暴露に、義父が耳まで赤くしてワタワタしている。珍しい光景だ。
夫も予想外な言葉だったのか、目を丸くしている。
「態度で示してくれても嬉しいけど、言葉で言ってくれるともっと嬉しいものよ? それに心から言ってくれる愛は何度言っても安くはならないわね」
「……考えておくよ」
なんともバツの悪そうな顔をして夫がそう答え、この会話は終わった。
その後、なんて言われたかは私だけの秘密だ。
ただ、涙が出るくらい嬉しくて、幸せに寝付けたとだけ言っておく。
あの言葉だけで私はあと30年くらいは戦えるんじゃないかな。あ、でもできれば毎日言ってほしいな。とても幸せだから。
空母から見た空を書こうとしたら、暗くなったり、ジジババのイチャラブを書いたりしていた。
何を言っているかわからねえと思うがry