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22 第5章:暗殺ギルド

第5章 第3節


切り落とされた左腕を自らの肉体へと強引に繋ぎ合わせるという、正気の沙汰ではない実験を成功させてから数日。私の生活は、さらなる狂気と痛みの渦へと没入していった。


古代結界に護られた地下の養殖場において、私の評価は「驚異的な回復力と執念を持つ異端の新人」として、指導官たちの間でひそかに上書きされつつあった。もちろん、腕を一晩で完璧に接合したという不自然な事実を悟らせるわけにはいかない。私は訓練中、治癒したはずの左腕をあえてぎこちなく動かし、重い後遺症に苦しんでいる痛々しい敗残者を演じ続けた。


「四十二番、左腕の動きが鈍いぞ! そんな鈍けた腕では、実戦なら一瞬で首が飛ぶぞ!」


指導官の怒号とともに、重い木剣や仕込み杖が私の背中や傷口を容赦なく叩き伏せる。あえて攻撃を受け、惨めさを晒し、弱者を装う。しかし、その内側で私の思考は、冷徹なまでの計算と自傷再生の理論をさらに深く研ぎ澄ませていた。


誰もいない真夜中の独房。それが、私の「本当の訓練」の場だった。


「ぐっ……あぁぁぁぁ……っ!!」


静まり返った暗闇の中で、私は噛み殺した呻き声を漏らしながら、石畳の床の上に転がり回っていた。

日中の訓練でわざと受けた打ち身、筋肉の断裂、そして自らナイフで太腿や腕の皮膚を切り裂いて作った実験用の傷。それらが、闇の中で『肉体再生』の異能によって強引に修復されていく。


バキバキッ、パキッ……!


骨がて正しい位置へと組み直され、断裂した筋繊維が生き物のようにうねりながら縫い合わされていく。

そのたびに襲い来るのは、脳髄が沸騰し、全神経が焼き切れるような灼熱の激痛だ。一般的な治療魔法がもたらす穏やかな温もりなどそこには一切存在しない。肉体を強引に「正常なパーツ」へとリセットするための、あまりにも暴力的で容赦のない拒絶反応。


「はぁっ……はぁっ……! 狂いそうだ……本当に……!」


あまりの激痛に、視界が真っ赤に染まり、歯が砕け散るほど強く噛みしめた唇から血が滴り落ちる。

再生の異能は、継続的損傷を回避させてくれる最高の保険であると同時に、精神を内側から破壊し尽くす最悪の拷問器でもあった。毎夜毎夜、死以上の激痛に晒され続けることで、人間のまともな神経なら数日で狂気に耐えかねて発狂するか、あるいは自ら命を絶つだろう。


だが、私は狂わなかった。

狂うことすら許さなかった。父親が首を斬り落とされ、母親が陸竜の巨足の下でペチャンコに押し潰されて死んだあの日、私の「まともな人間の感情」はすでに死滅していたからだ。


(痛い……? だからどうした。痛覚など、単なる肉体の損壊を知らせる物理的な信号に過ぎない)


激痛に苛まれ、全身から脂汗を流しながら、私はその地獄のような苦痛を冷徹に客観視し始めた。

痛みに翻弄されるから人間は恐怖を感じ、動作が鈍り、判断を誤る。ならば、その痛みを完璧にコントロールし、むしろ自分の戦闘理論の組み込み要素として利用してしまえばいいのだ。


私は激痛の中で薄目を開き、暗闇の中で自らの震える両手を見つめた。


(再生の真の価値は、単に傷が治ることではない。『死なないこと』を前提とした、常識外の相打ち理論の構築にある)


通常の剣士や暗殺者は、どれほど優れていようとも「自分の肉体を守る」という本能的な制約から逃れられない。相手の刃が首や心臓、あるいは腕に迫れば、無意識にそれを回避するか、防ぐ動作に入る。そこに必ず「隙」と「間合いの限界」が生まれる。


だが、私にはその制約が存在しない。


首や心臓といった一撃即死の部位さえ的確に守り切れば、腕を貫かれようが、腹を抉られようが、骨を砕かれようが問題はないのだ。あえて相手の斬撃や刺突を自分の肉体で受け止め、刃を肉や骨で噛み合わせて相手の武器を拘束する。相手が「致命傷を与えた」と確信し、勝利の油断を生んだその絶好のコンマ数秒の間隙に、私の致命的な一撃を相手の咽喉や眼球へ叩き込む。


——肉を切らせて、相手の命を断つ。


言葉にすれば単純な捨身の戦術だが、これを「再生の異能」と組み合わせることで、解体不可能な絶対のハメ殺しパターンが完成する。相手にとっては、殺したはずの敵が自分の武器を肉体で挟み込んだまま、冷ややかな死んだ目で自分の首を掻き切ってくるのだ。これほど恐ろしい絶望はあるまい。


(ただし、条件がある)


私は荒い息を整えながら、脳内のシミュレーションをさらに緻密に組み立てていった。


第一に、人目のある場所では絶対に異能による不自然な即時再生を見せてはならない。

ギルドの指導官や他の同期に「再生能力」を知られれば、私は即座に検体として拘束されるか、徹底的に対策を立てられて首を撥ねられる。だから、実戦でこの戦術を使う時は、相手を確実にその場で即死させ、目撃者を一人残さず消し去る密室環境でなければならない。


第二に、痛みによって意識を途絶えさせない強靭な精神の維持。

肉体をあえて差し出す瞬間、そして修復が始まる瞬間の激痛は、人間の思考を容易に真っ白にする。その激痛の渦中にあっても、冷徹に短剣を振り抜き、相手の急所を的確に穿つだけの狂気的な集中力が不可欠だ。


「……ふっ……ははっ」


独房の床に伏せたまま、私はかすれた笑い声を漏らした。

痛みで狂いそうになるたびに、私の脳内では冷酷な計算式が次々と組み上がっていく。前世で培った物理学や力学の知識、そしてギルドで叩き込まれた人体解剖学と毒物学。それらすべてが、「自傷再生」という狂気のピースと噛み合い、完璧な殺人の方程式へと昇華されていった。


人間は、美しい理想や絆では強くならず、極限の理不尽と苦痛によってのみ洗練される。

私は毎夜の激痛を、自らの牙を研ぐための「砥石」として受け入れた。肉体が引き裂かれ、修復されるたびに、私の内側から生ぬるい人間性が削ぎ落とされ、より強固で、より冷酷な「殺戮の機械」へと変貌していくのを感じていた。


やがて、夜が明け始めた。

治癒の光が完全に収まり、全身の痛みが引き去ると、私の皮膚はまるで最初から傷などなかったかのように滑らかに戻っていた。


私は冷たい石畳からゆっくりと立ち上がり、血のついた衣服を着替えると、何事もなかったかのように無表情な「死んだ目」を取り戻した。


白亜の城を滅ぼした者たち、私からすべてを奪った他国の軍勢、そして私を買い叩いて地下に閉じ込めたこのギルド。あらゆる理不尽を、この自傷再生の理論をもって地獄の底へとハメ殺してやる。


その確固たる殺意を胸の奥底に秘め、私は今日という新たな拷問のような一日へと、静かに足を踏み出すのだった。

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