18 第4章:闇の養成所と第一の選別
第4章 第4節
暗殺ギルドの地下施設——古代結界に護られたその無機質な空間は、日々、効率的な殺戮の歯車を量産するための冷徹な訓練で満たされていた。私たちが日夜叩き込まれる毒物の調合、人体構造の急所突き、そして微音での潜伏術は、すべてこの瞬間を迎えるための前段階に過ぎなかった。
その日の朝は、いつものように響く無機質な鐘の音ではなく、重く冷たい金属音が地下回廊全体を打ち鳴らすことで始まった。
「全員、中央訓練場へ集まれ。一刻の猶予も許さん」
指導官の低く鋭い怒号が、各独房の鉄格子を叩く音とともに響き渡る。私たちは寝起きの鈍い肉体に鞭打ち、素早く身支度を整えて広大な中央訓練場へと足早に向かった。そこには、これまで過酷なカリキュラムを共に生き抜いてきた同年代の子供たちが、緊張と殺伐とした空気を纏いながら整列させられていた。
訓練場の中央には、普段は見慣れない黒幕で覆われた巨大な鉄製の檻が設置されている。その周囲には、ギルドの上層部と思われる黒衣の幹部たちが冷ややかな視線を注ぎ込んでいた。
「——静粛に」
指導官の一言で、訓練場の空気がピタリと凍りついた。彼は冷徹な眼差しで私たちの列を見渡し、低く、しかし明確に響く声でこう告げた。
「これより、貴様らの第一段階の修了試験、および『第一の選別戦』を開始する」
その言葉に、同期の子供たちの間でわずかなざわめきが走った。選別戦。これまでも小規模な小競り合いや模擬戦は日常茶飯事だったが、今日の空気は明らかに異なっていた。指導官の纏う殺気が、冗談や脅しではない本物の「死の気配」を帯びていたからだ。
「ルールは単純極まりない」
指導官は冷酷に言い放った。
「中央にある檻の中には、我がギルドが厳選した狂暴な魔獣、およびお前たち以外の『排除対象』が放り込まれている。そして、この訓練場にいる同期の総数——現在五〇名。この選別戦が終了したとき、生き残っているのは『半分の二五名』のみとする」
——半分。
その言葉の意味を理解した瞬間、周囲の空気が一気に張り詰めた。
五〇人いる同期のうち、半数が死ぬ。あるいは、殺される。
それは単なる魔獣との戦闘試験ではない。ここにいる仲間同士が互いを殺し合い、生き残りの椅子を奪い合う、文字通りの「共食いの選別戦」だった。
「お前たちはこれまで、殺しの技術、毒、罠の仕掛け方を学んできた。だが、いかに知識を蓄えようとも、実際の殺し合いの中で恐怖に怯まず、仲間を裏切り、その首を掻き切る胆力がなければ、我がギルドの正規構成員としての価値はない。生き残りたいならば、目の前の奴を殺せ。それだけだ」
指導官が合図を送ると、中央の黒幕がガシャンと重い音を立てて引き剥がされた。
そこに現れたのは、鉄格子の中で狂ったように暴れる異形の魔獣——全身を硬質な外骨格で覆われ、鋭い鉤爪を持つ地底の肉食獣「ケイヴ・ストーカー」だった。だが、それだけではない。檻の奥には、私たちよりも少し年上の、すでに精神を破壊された別の期の失敗作と思われる少年少女たちが、武器を持たされた状態で狂乱のまま押し込まれていた。
「――始めっ!!」
指導官の号令と同時に、鉄格子の扉が跳ね上がった。
瞬間、訓練場は阿鼻叫喚の地獄へと変貌した。
解き放たれた魔獣が猛烈な勢いで飛び出し、最も近くにいた少年の一人の胴体を一撃で噛み砕く。鮮血が天井まで飛び散り、周囲の子供たちが悲鳴を上げて四散した。
「うわぁぁぁっ! 来るな、来るなっ!」
「殺される……! ならば、お前を……!」
極限の恐怖と生存本能に突き動かされた同期たちが、互いに武器を向け合い、泥臭い殺し合いを始めた。昨日までベッドを並べ、夜には肌を重ねていた者同士ですら、自分の生き残りのために容赦なく短剣を突き立て合う。信頼も絆も、この極限の修羅場においては紙屑よりも軽い。
私はその混乱の中心から一歩引き、冷徹な瞳で周囲の状況を全方位にスキャンしていた。
心臓の鼓動は驚くほどに静かだ。恐怖など微塵もない。あるのは、この殺し合いの構造をいかに効率的に利用し、確実に「生き残りの半分」に入るかという計算だけだった。
(群れて戦う馬鹿どもは、真っ直ぐ魔獣の餌食になるか、背後から他の人間に刺されて終わる。逆に、最初から他者を信用せず、最も消耗しない位置で漁夫の利を得るのが最善だ)
私の背後に、あの銀灰色の髪を持つ三十八番の少女がピタリと寄り添ってきた。彼女の手には、震える小さな短剣が握られている。その瞳には恐怖の色が浮かんでいたが、それでも私から離れようとはしなかった。
「……四十二番。どうするの、このままじゃみんな……」
「騒ぐな」
私は彼女を冷たく一瞥し、懐から密かに隠し持っていた自家製の毒薬の小瓶を取り出した。
「生き残りたければ、俺の指示通りに動け。余計な情けをかけたら、その瞬間にでお前の喉を掻き切る」
「……うん、分かってる。あなたに従うわ」
少女は怯えながらも私の言葉に強くうなずいた。彼女をただの足手まといとして切り捨てることもできたが、この先さらに激化するであろうギルドの内部闘争において、背後を任せられる「便利な道具」としての利用価値はまだ残っていた。
目の前では、同期の子供たちが血みどろになりながら互いを刺し違えている。
魔獣の咆哮と、人間の断末魔が混ざり合う地獄の選別戦。その中で、私は冷徹な殺意を秘めた瞳を据え、最初の一手を打つために静かに身をかがめたのだった。




