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17 第4章:闇の養成所と第一の選別

第4章 第3節


暗殺ギルドの地下施設に漂う空気は、常に消毒液と乾いた血の匂いで満たされていた。古代結界に護られたこの閉ざされた養殖場において、私たちは人間としての情動や温もりを剥ぎ取られ、効率的な殺戮の歯車としての日々を強制されていた。仲間という概念は存在せず、隣にいる者は明日の敵であり、あるいは自分が殺すべき標的でしかなかった。


そんな極限の殺伐とした空気の中で、一つの奇妙な関係が私を包み込んでいた。


彼女の名前は――いや、ここではそんな個人の記号に意味はない。他の同期たちと同様に、彼女もまた胸元に焼き付けられた「三十八番」という番号で呼ばれていた。スラムの最底辺から売られてきた私とは異なり、彼女は政治的な粛清によって一族を皆殺しにされた没落貴族の生き残りだったという。細身の体躯に、色素の薄い銀灰色の髪、そして何よりも特徴的だったのは、すべてを諦観したような、どこか冷め切った大きな瞳だった。


彼女と初めて言葉を交わしたのは、過酷な毒物耐性訓練の最中だった。

致死量の麻痺毒を投与され、痙攣する体に鞭打ちながら石畳の床を這いつくばる夜、私は自分の独房の隅で静かに呼吸を整えていた。そこに、音もなく忍び寄る影があった。三十八番の少女だった。彼女は無言のまま私の隣に滑り込むと、冷え切った私の腕に自らの体温を預けるように寄り添ってきた。


「ねえ……四十二番。あなた、どうしてそんなに平気でいられるの?」


かすれ、震えるような彼女の声が、静まり返った独房の壁に反響した。

私は目を閉じたまま、冷淡に言い放った。

「何がだ」


「……毎日、誰かが壊れていく。昨日は訓練で同期が三人死んだ。明日には、私たちがそのゴミの山の上で処分されるかもしれない。なのに、あなただけは……まるで何事もなかったかのように、ずっと同じ顔をしている」


彼女の瞳には、恐怖と、そして奇妙なまでの執着の色が揺らめいていた。

それは救いを求めるものでも、仲間意識によるものでもなかった。極限の恐怖と孤独に耐えかねた人間が、同じように地獄の底を歩く者にしがみつく、剥き出しの生存本能の形だった。


「勘違いするな」

私は彼女の細い肩を冷たく押し返そうとしたが、彼女はそれを許さず、さらに強くしがみついてきた。

「死が怖くないわけじゃない。だが、怯えたところで明日生き延びられる確率が上がるわけでもない。無駄な感情を燃やすくらいなら、自分のエネルギーはすべて生き残るための計算に回せ」


「……冷たい人ね」

彼女は自嘲気味に微かに笑ったが、その表情のまま、私の衣服の合わせ目を強引に引き剥がし、自らの身体を私のそれに密着させた。


その日から、私たちの間には奇妙な関係が生まれた。

それは恋愛感情や、互いを労わるような温かい絆などでは断じてなかった。外の世界の人間が知れば嫌悪感を抱くような、完全なる「乾いた肉体関係」だった。


夜、過酷な暗殺訓練が終わり、周囲の独房から他の子供たちのうめき声や絶叫が遠く聞こえてくる中、私たちは音もなく互いを求めた。

彼女は私の腕にしがみつき、私の体温を貪るように肌を重ねた。その行為に愛や優しさは一切ない。あるのは、明日をも知れぬ死の恐怖を紛らわせるため、そして「自分という存在がまだ肉体として確かにここに生きていること」を確認するための、生々しい肉欲の交換だけだった。


「あぁ……ねえ、四十二番……もっと強く抱いて……私を忘れないで……」


彼女は私の耳元で、壊れかけた人形のようにそう囁きながら、私の背中に爪を立てた。

その肌の温もりを感じながらも、私の心は驚くほどに冷め切っていた。彼女の身体の柔らかさ、吐息の熱、そのすべてを私は「利用可能な一時的な感覚器官」としてしか処理していなかった。


(人間など、ただの肉と臓物の袋にすぎない。彼女も、いつかどちらかが訓練で失敗するか、あるいはギルドの気まぐれで処分されれば、ただの冷たい肉塊に変わるだけだ)


母親が怪物の蹄の下でペチャンコに潰されたあの日の記憶が、ふと脳裏をよぎる。

私にまとわりつくこの少女も、いつか必ず同じようにあっけなく壊れる。だからこそ、心を通わせたり、深入りしたりしてはならない。明日死ぬかもしれない相手に情を移すことは、致命的な弱点になる。私は彼女の熱を帯びた肉体を抱きしめながらも、その心の奥底では一片の感情の揺らぎすらも許さず、ただ冷徹に計算を巡らせていた。


「勝手にすり寄ってくるなよ。お前がいつか足を引っ張るような真似をしたら、俺は迷わずお前の喉を掻き切るからな」


抱き合いながら、私は彼女の耳元にそう冷たく囁いた。

常軌を逸したその言葉を聞いても、彼女は怯えるどころか、むしろ愛おしそうに私の首筋に顔を埋め、微かに震える声でこう呟いたのだった。


「……うん、分かってる。だから、それまでは……私をあなたの道具にしてよ、四十二番」


外の世界の狂気から完全に遮断された地下の独房で、私たちは互いの体温を頼りに、しかし心は完全に凍りつかせたまま、泥のような夜を貪り尽くしていった。愛なし、救いなし、あるのはただ肉の接触と生存の執着のみ。その乾いた関係こそが、暗殺ギルドの養殖場で生きる私にとって、唯一の歪んだ日常の形であった。

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