15 第4章:闇の養成所と第一の選別
第4章 第1節
外部の喧騒や王国の法律、そして他国の追撃の手が一切届かない暗殺ギルドの地下施設。その古代結界に護られた深淵は、外の世界とは完全に切り離された異質な空間であった。青白く明滅する魔導ランプが照らし出す石造りの回廊の奥に広がっていたのは、人間を感情のない「殺戮の部品」へと効率的に加工するための、冷徹なまでのシステム化された空間——通称「養殖場」であった。
そこに集められていたのは、私を含めて数十人の同年代の子供たちだった。
スラムの路地裏で泥を啜っていた者、戦乱の果てに親を失い孤児となった者、あるいは裏社会の借金のカタとして売り飛ばされてきた者たち。境遇はさまざまだが、全員に共通していたのは、すでに「失うべきものなど何一つ残っていない」という底辺の絶望だった。
朝の鐘の音が地下の冷たい空気を震わせると、私たちの過酷な日常が始まる。
寝起きに与えられるのは、栄養価だけがかろうじて計算された濁った流動食と、錆びた鉄の味がする水だけだ。味覚を満足させるためのものではなく、肉体を維持するための最低限の燃料。それを私たちは無言で流し込み、すぐに訓練場へと集合させられる。
訓練場は、血と汗と、そして乾いた鉄の匂いが常に充満していた。
指導官たちは私たちに名前を与えない。呼ばれるのは、胸元に焼き付けられた無機質な「番号」だけだ。私は「四十二番」と呼ばれた。個性を奪われ、人間としての尊厳を削ぎ落とされ、ただ命令に従って敵を屠るための「機能」へと作り替えられていく過程。それはまるで、工場で機械のパーツを大量生産するかのような、徹底的な効率主義に基づいていた。
「動け! 迷うな! 迷った瞬間、お前たちの臓物がこの床に撒き散らされるだけだ!」
指導官の容赦ない怒号が響く中、私たちは朝から晩まで過酷な体術と武器の扱いに明け暮れた。
短剣の突き方、急所の正確な捉え方、毒物の調合と致死量の計算、そして人間の肉体が最も脆く、どの角度から力を加えれば一撃で沈黙させられるかの解剖学的知識。年齢に見合わない残虐なカリキュラムが、何の躊躇もなく私たちの脳みそへと叩き込まれていく。
周囲を見渡せば、同じ釜の飯を食うはずの同期の子供たちの顔から、すでに「子供らしさ」は完全に消え失せていた。
誰もが他者を警戒し、背後を絶対に許さない冷徹な目をしている。昨日まで隣のベッドで眠っていた奴が、訓練中の事故や、あるいは些細な小競り合いによって翌日には冷たい死体となり、ゴミのように回収されていく光景は、ここでは日常の風景にすぎなかった。誰も他人の死に涙を流さないし、同情すらしない。憐れみは弱さであり、弱さは即ち死を意味するからだ。
私もまた、その「養殖場」のシステムに順応していた。
前世で培った「要領の良さ」と、これまでの地獄のような逃亡生活で磨き上げられた冷徹な生存本能が、このギルドのカリキュラムを誰よりも効率的に吸収していく。指導官が見せる暗殺術の型を一度で完璧にトレースし、無駄な体力の消耗を抑え、最も確実に相手を沈黙させる動線を計算する。私の瞳に宿る「死んだ目」は、周囲の子供たちにとって得体の知れない恐怖の対象となり、自然と誰も私に近づかなくなっていった。
「ふん……相変わらず気味の悪い奴だ、四十二番は」
「感情が完全に死んでやがる。まるで動く人形だな」
陰口を叩く同期の少年たちの声が耳に届くこともあったが、私の心は微塵も揺るがなかった。
(勝手にほざいていろ。生き残るのは、最後に息をしている奴だけだ)
感情を波立たせることはエネルギーの無駄遣いでしかなかった。怒りも、嫉妬も、仲間意識も、この地下の養殖場においてはすべて生存確率を下げるノイズにすぎない。私はただ機械のように淡々と訓練をこなし、自らの肉体を「完璧な殺戮の道具」へと仕立て上げていった。
夜、わずかに与えられる睡眠の時間。
冷たい石造りの独房のベッドに横たわりながら、私は天井の暗闇を見つめ続けた。
外の世界では、他国の軍事力が我が領地を蹂躙し、神祖や血統保持者たちが世界を揺るがす陰謀を巡らせていることだろう。だが、この古代結界に護られた地下の養殖場は、まるで外界の時間の流れから取り残されたかのように静まり返っていた。
ここでどれほど過酷な技術を叩き込まれようとも、それは私の最終目的のための通過点にすぎない。
父親を惨殺し、母親を泥まみれにして踏み潰したこの世界のすべての理不尽を、いつか我が手で根絶やしにし、すべての仇敵をハメ殺すための牙を研ぐ場所。そのための準備期間として、この「養殖場」の日常は、私にとってあまりにも都合の良い温床であった。
冷たい石の感触を背中に感じながら、私は静かに瞼を閉じ、明日訪れるさらなる過酷な訓練へと備えて、すべての思考を深い闇の中へと沈めていったのだった。




