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10 第3章:スラムの最底辺と買収

第3章 第1節


親の庇護という名のぬるま湯、そして貴族としての特権と誇り。そのすべてが崩れ去り、母親が陸竜の巨体に踏み潰されてグロテスクな肉塊へと変わったその日から、私は文字通りの「孤児」となった。


地図にも載らない吹き溜まりの貧村から抜け出した私は、行き場を失い、大陸の澱みが集まるスラム街へと流れ着いた。王国の一角に位置しながらも、法律の光すら届かないその場所は、人間としての尊厳を剥ぎ取られた者たちが互いを食い合う、終わりのない腐臭に満ちた獣道だった。


前世でいかに軽薄に、いかに要領よく世の中の表面を滑ってきたか。その記憶は、この極限の浮浪生活においては何の役にも立たないどころか、むしろ厄介な幻影でしかなかった。クラブのフロアで浴びていたスポットライトの光は消え失せ、私の視界を覆うのは、頭上を重く垂れ込める鉛色の雲と、足元を這い回る泥水と埃の混じった悪臭だけだった。


十歳という幼さの肉体は、連日の飢えと過酷な環境によって急速に削られていった。

朝も夜もなく、ただ寒さと空腹に耐えながら、道端に打ち捨てられた残飯を漁る日々。富める者が贅沢を貪る一方で、路地裏の片隅では毎日何人もの人間が野垂れ死に、その死体は誰に惜しまれることもなくゴミのように回収されていく。それがこの世界の底辺の現実だった。


「……腹が減ったな」


自分の乾いた声を聞くたびに、私は前世の記憶と現在の絶望的なギャップを冷ややかに嘲笑した。

かつては白亜の城のバルコニーで銀の食器を傾け、望むままの美食を口にしていたというのに、今の私の主食は泥まみれの硬いパンくず、あるいは運が良ければ拾い食いできる腐りかけた野菜くずだ。身体は汚れ、衣服はボロ布に変わり、肌には取れない煤がこびりついている。もはや私は、かつて伯爵家の嫡男として愛されていた「アレン」という人間の形をした、ただの動く有機物のゴミ袋に成り下がっていた。


だが、不思議と恐怖や絶望は湧かなかった。

父親の首が跳ね飛び、師範が血を撒き散らして死に、母親が怪物の蹄の下でペチャンコに押しつぶされる一部始終を冷めた瞳で見届けてから、私の内側にある「人間らしい感性」の回路は完全に焼き切れていた。心に広がっているのは、底知れぬほど静かで、どこまでも冷え切った虚無の平原だけだった。


(人間など、ただの肉と臓物の袋にすぎない)


スラムの路地裏で、大人の浮浪者に理不尽に殴り飛ばされ、肋骨が軋むような痛みを覚えたときも、私は声を荒げることなく、ただ無言でその場から這いずって逃げた。痛覚は肉体の損傷を知らせるシグナルに過ぎず、感情を揺らすものではない。殴ってきた男の顔、その醜悪に歪んだ表情を、私は冷徹な視線の奥にしっかりと焼き付けた。


いつか必ず、この理不尽な世界をねじ伏せてやる。

そのための復讐心や熱い怒りすら、今の私にはなかった。ただ、「ここで犬死にするわけにはいかない」「生き延びて、すべての理不尽の元凶を足元に這いつくばらせてやる」という、純粋で機械的な生存本能だけが、私の心臓を規則正しく動かしていた。


スラムの雑踏の中を、私は一言も発せずに歩き続けた。

周囲を通り過ぎる人間たちは誰もが互いを疑い、出し抜き、傷つけ合っている。誰もが自分のことで手一杯であり、他人の命に価値を見出す者など一人もいない。完全な孤立。完全な不毛の地。だが、私にとってそれはむしろ居心地がよかった。偽りの温もりや、いつ裏切られるか分からない信頼関係など最初からない方がいい。冷たい孤独こそが、私をこの地獄から守る最高の鎧だった。


泥水を啜り、痛みに耐え、路地裏の闇に溶け込みながら、私はただひたすらに息を繋いだ。

この最底辺の浮浪生活こそが、私を更なる深い闇——人間を「商品」として消費する養殖場へと導く、最初のステップにすぎないことを、まだこのときの私は知る由もなかった。

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