01 第1章:パリピの慢心と異世界の理不尽
【第1巻】慢心の崩壊と肉体破壊の養成所
第1章 第1節
蛍光灯の白々しい光と、耳をつんざく重低音のビート。酒と香水の匂いが混ざり合うフロアで、私はいつも通り「勝者」のポジションにいた。元世間では、クラブをハシゴしては軽薄な笑みを振りまき、他愛のないリップサービスと浅い快楽だけで周囲を魅了する、いわゆる「パリピ」として生きていた。努力や真面目さといった泥臭い価値観を冷ややかに嘲笑い、要領の良さだけで世の中の表面を滑るように渡り歩いてきた自負がある。
「人生なんて、結局はどれだけ上手に波に乗るかだろ」
そんな軽薄な思考のまま、酔いに任せて表通りへ出た瞬間、猛スピードで突っ込んできた大型トラックのヘッドライトが視界を埋め尽くした。痛みも恐怖も、驚く暇すらなかった。ただ視界が真っ赤に染まり、次の瞬間に訪れたのは、音のない静寂と、奇妙なほどクリアな意識の覚醒だった。
目を覚ましたとき、私は赤児としてこの世界にいた。
広大な領地を持つ地方領主の嫡男という、物語の主人公としてはこれ以上ない「当たり」の環境。贅沢な絹の産着に包まれ、使用人たちが頭を垂れ、父親は偉大な武人として、母親は気高い貴婦人として私を慈しんだ。前世の記憶を持ったまま転生した私は、幼いながらもこう確信したものだ。
「ああ、なるほど。俺は選ばれたんだ。このチートじみたスタートラインと、前世で培った世渡りの知恵があれば、このファンタジー世界でも適当にイージーモードで無双して、ハーレムでも作りながら悠々自適に暮らせるってわけだ」
その慢心は、この世界の残酷な本質を知るための、最初の、そして最も致命的な前座に過ぎなかった。
この世界のエトスは、綺麗ごとならざる血統と暴力のピラミッドで構成されている。王族や大貴族の血脈には神代の遺産である「超常の絶対能力」が宿り、我が家系に流れていたのもまた異能であった。だが、それは平和を謳歌するための特権などではなく、他国が喉から手が出るほど欲する「生体兵器の部品」としての価値でしかなかったのだ。
私は、ぬるい前世の延長線上でこの世界を見下していた。命のやり取りなど絵空事で、剣と魔法の世界とはいえ、所詮は人間が営む社会の枠組みの中に収まっているものだと高を括っていた。他国が軍事的な緊張を高めているという大人の噂を耳にしても、「まあ、お上の政治闘争だろ。俺に関係が及ぶ前に、うまく立ち回って逃げ道を作ればいい」と、どこか他人事として片付けていた。
自らの血に宿る再生能力の真の意味も知らぬまま、私は優雅な城館の中で、ただの「無知な貴族の坊っちゃん」として日々を消費していた。世界が孕む悪意のマグマが、すでに足元まで達していることにも気づかずに。足元に広がる亀裂から噴き出す熱気は、やがて私のすべての日常を焼き尽くすことになる。だが、そのときの私は、まだ自分の人生が極限の地獄へと転がり落ちるなどとは夢にも思っていなかったのである。




