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(1)意味不明で腹が立つ

意味不明で腹が立つ

それが俺がいつも親父に思っていることだ



「さぁ、ゼン! 稽古だ! やるぞ!」

「あぁ……」


今日も親父ニムスは俺を稽古に駆り出す。

うちは流行らない剣道場だ。生徒はだいたい俺しかいない。たまに入ってきても一ヶ月も持たずに止めていく。その理由は明確だ。まず、剣道場と銘打っておきながら剣技といえるのか疑問な戦法を見せられるからだ。


(また酒を飲んだな……)


そして師範である親父は昼間から飲酒をしている確率が七割だ。


「やぁっ!」


やるからには全力で取りかからねば実にならない。俺は成長曲線というものを信じて鍛錬に励む。


「ハハッ、いいぞ、いい重さだ!」


酔っているのかシラフなのか分からない。なにしろシラフでも酔っているような性格だからだ。

性格的にはかなりいいかげんなのだが、俺の動きは確実に捉えられいなされる。これは戦場勘と身体能力によるものと思われる。親父の来歴はよく知らないが、かなり場数を踏んできたものと思う。


俺は親父の動きに一定の規則性を見出し、予測を立て、学んだ型をもって打ち込んでいくのだが、その予測はいつも崩される。なにしろ酔っ払いの動きだ。酔っていることをも予測の上計算しなくてはならないが、脳が拒否してしまう。いいかげん、酔っ払いの動きに慣れなくてはならないが、実戦で酔っている者などどれほどいるのか疑問である。


俺は今年で齢十八になるが、体躯の大きさと頑強さは親父を越した。

技を鍛え上げるのがこの道場(という名の何か)の意義なのだが、そもそも強者となるためには単純な膂力と身体能力が必要と考えた。なので、特に親父から指示されてはいないが、自ら肉体を作り上げたというわけだ。


「無駄にデカくなりやがったなァ! 甘いわ!」

「クッ!」


酔った上での変則的な動きではない、確実性のある動きをもって真芯で捉えられてしまう。親父の技は卓越しているし、膂力も並外れている。それは、対峙して時間が経つごとに上調子になっていく。だいたい、そういう時は親父の大剣から熱を感じるのだ。


「ギア上がってきたなァ! よし、いくぞ!」


酔っ払いの戯れ言でもないし、俺の思い込みでもなく、実際そうなのだ。

魔力を発動させると大剣が発熱する。魔力を薄く全身に巡らせ、身体能力をほどほどに底上げしている。

これは火属性の技だ。魔法未満の「魔技」というものである。

火属性の技なので発熱を伴うのだろうか? と思う。俺は大剣から熱を感じるとこの技の発動を察するのだが、親父の身体も発熱していると思われる。酔っているのでもともと赤ら顔だが。


「よし、よく付いてくるな、仕上がってきてるじゃねえか」

「はぁ……、はあ」


俺の動きに合わせて魔力の出力を調整をしていると思われる。酔っ払いに繊細な力調整をされて相手にされると何か腹が立つのだが、合わせて俺の調子も上がってくる。

俺は身一つで力を高めていかなくてはならない。なにしろ、魔力を使う技など一切使えないからだ。


今日は、かなり親父の魔力の流し込みが多くなり、来るところまで来たと感じた。気付いたら地面が深くえぐれている。

ちなみに、鍛錬は常に屋外で行っている。前に全力で行ったら道場が倒壊した。建て直したが、これで借金上乗せである。そもそも道場という建築物は必要なかったのではないかと思う。


「たぁっ!!」


そろそろ決めたい。親父を倒してこの稽古というものから解放されたい。免許皆伝したい。

そしてもっと他のことに時間を割きたいのだ。


「ウワッ!!」


少し焦っただろうか。その隙を突いたかのように親父は口から火を吹いた。これは炎魔法である。


「取ったァ!」


俺はその炎を反射的に躱したが、それを隙として親父の剣が俺へ向かう。……と思いきや、膝蹴りが飛ぶ。いや、膝が飛ぶ。俺は飛ばされた膝を腹に食らい、呻き膝を突いた。そして、剣先が肩口に当てられる。


「今日はこれまで。今日も俺の勝ち」

「クソッ」


親父は飛ばした膝を回収し、装着した。それは、正確にいうと義足である。魔力で接着と稼働をするものであり、「魔具」の一種だ。片腕も魔具の義手だ。五体満足の者と遜色のない動きをもたらす器具である。

親父は今日の稽古のように、飛ばして攻撃に使うことがあるが、普通、このような使い方はしないらしい。五体満足の者より厄介な気がする。


「お前はまだまだ稽古に励むように。男は強くなってなりすぎることはないからな!」

「……」


毎度、決まったようにそんなことを言う親父である。ここで何か言い返しても話にならないので俺は黙ってしまう。そして、次の対抗策を頭に巡らせるのだ。


「あと、お前に教えてやろう」

「何だ?」


俺は未知の知識がもたらされる可能性へ耳を傾けた。


「酒は昼間に飲むのが美味い」


そう言って親父はその場を去った。


「クソ親父!!」


思わずそう、口をついて出てしまったが、それは一考の価値はあるかもしれないと思った。


空を仰ぎ見ながら、飲酒をする時間帯による酒精の働きを考察する。


(夜に酒精が回ると睡眠の質が下がる可能性……。昼間のうちに飲むことにより、酒精は分解され、夜の睡眠に影響しないのではないだろうか……)


そう考えたが、俺には酒の味は分からないので飲む機会がない。なので無意味だと思った。

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人間、昼は無意識の体動が多いため、昼酒は酔いやすく独特の酩酊感があるのですとダメ人間よりお届けします。 真面目な剣戟シーンに酔っ払いの親父殿の先の読めない攻撃や主人公の至極真っ当なツッコミが掛け合わ…
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