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元Sランクの俺、今は底辺ダンジョン配信者ですが、三年前の事故現場に戻ったら突き落とされ、最強の力に目覚めました  作者: 水源


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ワーボアとの激闘

 ゴブリンの群れを倒してから、しばらくの間、俺はダンジョンの通路に立ったまま、自分の拳を見つめていた。黒い外殻に覆われた腕は、もう動きを止めている。さっきまで身体を突き動かしていた衝動も薄れ、今は妙に静かだった。


 やがて、腕を覆っていた黒い外殻に細かな亀裂が走った。俺が何かをしたわけではない。黒い表面が剥がれるように消えていき、腕から肩、胸、そして全身へと広がっていく。気づけば、そこには見慣れた人間の身体が戻っていた。


「……解除できた、ってことなのか?」


 自分の手を握ったり開いたりしてみる。指は動くし、感覚もある。身体そのものは元に戻ったようだが、俺は変身を解こうと念じた覚えなどなかった。変身したときと同じで、元に戻るタイミングも俺の意志とは関係がないらしい。


 配信カメラは、まだ俺を映し続けていた。画面の隅には、視聴者からのコメントが次々と流れている。


『黒いのが消えた!?』

『やっぱり変身だったのか?』

『本人もよく分かってなさそうなのが怖い』

『さっきのゴブリンの群れ、あれ全部倒したんだよな……』


 俺自身も、何が起きたのか分かっていない。ゴブリンたちに囲まれたとき、身体が勝手に動き始めたことは覚えている。だが、あれほどの数をどうやって倒したのか、細かい動きまでははっきりしない。自分の身体なのに、まるで別の誰かが動かしていたような感覚だけが残っていた。


「次もああなるのか……?」


 誰に答えを求めるでもなく、俺は呟いた。


 変身すれば、普通の人間では太刀打ちできない相手とも戦える。だが、自分で止められないのなら、それは単純に便利な力とは言えなかった。敵を倒せたとしても、次は何をするのか、どこまで動くのか。それすら自分で決められないのだから。


 とはいえ、ここで立ち止まっているわけにもいかない。俺は一度周囲を見回してから歩き出した。


 三年前、俺たちが事故に遭ったときのことを確かめたい。記憶は曖昧な部分も多いが、あのとき何が起きたのか、どうして俺だけが戻ってこられたのか。その手掛かりが、このダンジョンのどこかに残っているかもしれない。


 今のところ、分かっていることは少ない。だからこそ、実際に自分の足で歩き、見覚えのある場所や違和感のあるものを探すしかなかった。


 しばらく通路を進んでいると、前方から轟音が響いた。壁に何かが激突したような、腹の底に響く音だ。続けて、誰かの叫び声が聞こえてくる。


「きゃあっ!」


 女性の声だった。


 俺は迷わず駆け出した。角を曲がった先には、槍を構えた女性がいた。身軽な装備を身につけた彼女は、背後から迫る巨大な獣を警戒しながら、通路の奥へと追い詰められている。


 獣の姿を見て、俺は思わず足を止めた。


 豚の頭部に似た顔つきと、分厚い筋肉に覆われた人型の身体。手足は太く、全身には硬い毛が生えている。手にした棍棒を振り回すたびに壁や床が砕け、破片が周囲に飛び散っていた。


 ワーボア。それも、俺が今まで低層で見かけたような相手とは明らかに違う。


「こんなのが、ここにいるはずないのに!」


 女性は息を切らしながら叫んだ。だが、ただ逃げ回っているわけではなかった。ワーボアが棍棒を振り下ろす瞬間には横へ跳び、攻撃の隙を狙って槍を突き出している。穂先が胴体を捉えても硬い皮膚に阻まれて深くは刺さらず、わずかに血がにじんでも傷口はすぐに塞がり始めていた。


 ワーボアが再び棍棒を振り上げる。女性はかろうじてかわしたものの、衝撃で崩れた床石に足を取られ、体勢を崩した。


「危ない!」


 俺は反射的に声を上げ、二人の間に割って入ろうとした。


 その瞬間、胸の奥が熱くなった。


「……またかよ!」


 変身するな。今はまだ、人間の姿で動けている。頼むから、自分の身体くらい自分で動かさせてくれ。


 そんな俺の意思など無視するように、胸から黒いものが広がっていった。黒い外殻が腕を覆い、肩や胴体へと伸びていく。視界が一瞬揺れたかと思うと、身体の感覚がまた別のものへと変わった。


 そして次の瞬間には、俺の身体が勝手に前へ飛び出していた。


 ワーボアがこちらへ向かって棍棒を振り下ろす。俺の身体はそれを避けず、正面から受け止めた。


 轟音とともに足元の床が砕けた。両腕に凄まじい衝撃が伝わり、身体が数メートル後方へ押し戻される。壁に背中をぶつけ、そのまま床へ落ちた。


「ぐっ……!」


 痛みは鈍いが、衝撃がなかったわけではない。腕は痺れ、身体の奥まで揺さぶられたような感覚が残っていた。


 受け止められただけでも十分に異常なのだろう。だが、相手の攻撃を無傷で弾き返せたわけではない。俺の身体が強くなったとしても、限界がないわけではなかった。


「ちょっと! 正面から受け止めるなんて、何を考えてるんですか!」


 女性が驚いた声を上げた。責めるような口調だったが、すぐに槍を構え直し、こちらへ向かってくるワーボアを警戒している。


「俺だって、好きでやってるわけじゃない!」


 思わず言い返したものの、聞こえているのかどうかも分からない。そもそも、今の身体を動かしているのは俺の意思ではなかった。


 ワーボアは俺を見て、低く唸った。先ほどまで追い詰めていた女性には目もくれず、棍棒を握り直してこちらへ向き直る。


 俺が攻撃を遮ったから、標的を変えたのだろう。獲物を横取りされたと思ったのか、それとも目の前の敵を先に片づけるつもりなのか。いずれにしても、こいつが俺を見逃す気はなさそうだった。


 黒い外殻に覆われた俺の手が、ゆっくりと持ち上がる。その手の中に、いつの間にか黒い剣が現れていた。


「おい、待て。俺はまだ――」


 言い終える前に、身体が動いた。


 俺は床を蹴り、ワーボアへと突進する。振り下ろされた棍棒を紙一重でかわし、身体をひねって剣を振り抜いた。刃がワーボアの脇腹を切り裂き、黒い光のようなものが傷口へと流れ込んでいく。


 ワーボアが咆哮した。傷口から血が流れたものの、いつものような再生は起きない。肉が盛り上がって傷を塞ごうとしているのに、黒い光がそれを押しとどめているようだった。


「傷が……治ってない?」


 女性が驚いた声を上げた。彼女は傷口を見つめ、すぐに槍を構え直す。


「その黒い光、傷の再生を止めているんですか?」


「俺に聞かれても分からない! こっちだって初めてなんだ!」


 自分の身体に起きていることなのに、何も説明できない。そんなもどかしさを抱えている間にも、ワーボアは脇腹の傷を確かめるように身をよじっていた。


 黒い光が傷口を塞ごうとする肉の動きを押しとどめている。それでも、ワーボアは退かなかった。


 むしろ、傷ついたことに腹を立てたように唸り、棍棒を振り上げると、真正面からこちらへ踏み込んできた。


 自分の防御力に自信があるのだろう。俺の剣で傷を負っても、まだ自分が押し負けるとは考えていないようだった。傷が塞がる前に俺を叩き潰せばいい。そんな力押しの考えが透けて見えるほど、攻撃には迷いがなかった。


「来る!」


 女性が声を張り上げた。


 棍棒が横薙ぎに迫る。俺の身体は剣で受け止めようとしたが、相手の膂力は想像以上だった。刃と棍棒がぶつかる甲高い音が通路に響き、床が砕けて足元が沈み始める。


 押し切られる。その瞬間、俺の身体は力比べをやめ、横へと身を流した。棍棒が目の前を通り過ぎる。


 その隙に、俺の身体はワーボアの懐へ潜り込み、黒い剣を胸へ突き立てた。


「今だ、離れて!」


 女性の声が響くのと、ワーボアの太い腕が横から振り抜かれるのは、ほとんど同時だった。


 まともに食らった。


 身体が弾き飛ばされ、壁へと叩きつけられる。背中から石壁にめり込むような衝撃が走り、俺は息を詰まらせた。黒い外殻が衝撃を和らげてくれたのかもしれない。それでも、しばらく動けないほどの痛みがあった。


 胸に突き立てた黒い剣は、そのままワーボアの身体に残っていた。傷口から黒い光が漏れ続けている。それでもワーボアは倒れず、俺を叩き潰そうと棍棒を振り上げた。


 自分の防御力なら、この程度の傷は問題ない。そう信じているかのような戦い方だった。


 だが、黒い光に抑えられた傷は塞がらない。俺の身体が放った一撃は、こいつが頼みにしている頑丈さを少しずつ削っていた。


「大丈夫ですか!」


 女性の声が飛んできた。彼女はワーボアの動きを警戒しながら、俺の方をちらりと見ている。


「大丈夫に見えるか!?」


「それだけ言い返せるなら、まだ動けそうですね!」


「そういう問題じゃないだろ!」


 思わず叫び返したものの、彼女の言葉に少しだけ気が楽になった。少なくとも、目の前の女性はまだ戦うつもりらしい。


 ワーボアが俺にとどめを刺そうと、棍棒を振り上げた。


「こっちを見て!」


 女性が叫び、槍を鋭く突き出した。穂先はワーボアの後ろ脚の関節を捉え、硬い皮膚の隙間へと食い込む。致命傷にはならなくても、体重を支える脚を狙われたワーボアは、思わず体勢を崩した。


 女性はすぐに槍を引き抜き、倒れかけた巨体から離れる。彼女自身も余裕があるわけではない。それでも、ただ逃げるのではなく、敵の動きを見極めて攻撃の機会を作ろうとしていた。


「脚を狙うのか……!」


 俺は思わず呟いた。硬い胴体への攻撃が通らないなら、動きを支える関節を狙う。単純だが、今の状況では理にかなっている。


 ワーボアは体勢を立て直すと、怒りに任せて棍棒を振り回した。女性はぎりぎりでかわしながら、俺の方へ声を張り上げる。


「胸に刺さった剣、あれが傷の再生を止めているんですよね?」


「たぶん、そうだ! でも、俺にも何が起きてるのか分からない!」


「だったら、あの傷を広げます! あなたは、動けるようになったら援護してください!」


「動けるかどうかも、俺には分からないんだよ!」


 そう叫んだ直後、俺が立ち上がろうとするより先に、黒い腕が床を押した。身体が跳ね起きるように起き上がり、俺の意思とは関係なくワーボアへ向かって駆け出す。


 無理をするな。相手はまだ倒れていない。そんな勢いで突っ込んだら、また吹き飛ばされる。


 頭の中で叫んでも、身体は止まらなかった。


 ワーボアは傷を負っても怯まず、棍棒を振り下ろしてくる。俺の身体は横へ身をかわし、攻撃をかいくぐって距離を詰めた。胸に刺さった黒い剣をさらに押し込むような動きは見せず、敵の攻撃を避けながら、次の隙を狙っている。


 その間に、女性はワーボアの死角へ回っていた。槍の柄を両手で握り、後ろ脚の関節を狙って再び突き込む。ワーボアがそちらへ振り向こうとした隙に、彼女は身を低くして攻撃をかわし、そのまま胸へと踏み込んだ。


 槍の穂先が、黒い剣の刺さった傷口へ食い込んだ。


「これなら……!」


 女性は力任せに押し込むのではなく、槍の柄を使って傷口をこじ開けるように動かした。ワーボアが暴れて槍を振り払おうとするたびに距離を取り、再び踏み込んで傷を広げる。その動きは必死だったが、無策ではなかった。


「あと少し! その剣から黒い光が流れています!」


 彼女が叫んだ。


 ワーボアの動きが鈍る。胸の奥で何かが軋むような音が響き、巨体が大きく揺れた。それでもワーボアは倒れず、最後の力を振り絞るように棍棒を持ち上げ、目の前の敵を叩き潰そうとする。


 その瞬間、黒い外殻に覆われた俺の身体が、胸に刺さった黒い剣の柄を握った。


 今度は刃を押し込まなかった。


 剣を伝って黒い光が流れ込んでいく。俺の身体が柄を握り締めると、黒い光が刃に集まり、脈打つように強く輝いた。黒い光は剣身を走り、ワーボアの胸の奥へと流れ込んでいく。


「やめろ……もう倒れてるだろ!」


 俺が叫んでも、身体は止まらない。


 ワーボアが声にならない咆哮を上げた。次の瞬間、胸の傷から黒い閃光が噴き上がる。外側から斬り裂くだけでは破れなかった分厚い身体が、内側から押し広げられるように大きく震えた。黒い光が筋となって硬い皮膚の下を走り、巨体の内部で何かが弾けるような音が響いた。


 ワーボアは棍棒を振り下ろそうとしたが、その腕から力が抜けていった。巨体が大きくのけぞり、最後の抵抗のように足を踏ん張る。だが、胸の奥で輝いた黒い光が一段と強まり、その身体から一気に力が失われた。


 棍棒が床に落ちる。


 地面を震わせながら巨体が崩れ落ち、今度こそ動かなくなった。


 しばらく、俺はその場から動けなかった。


 あれだけの攻撃を受けても立ち上がり、最後には敵を倒した。だが、それをやったのは本当に俺なのだろうか。少なくとも、俺は自分の意思だけで動いていたわけではない。


 黒い剣が消えると、ワーボアの胸に残っていた光も徐々に薄れていった。その直後、俺の身体を覆っていた黒い外殻に細かな亀裂が走り始める。表面が剥がれ落ちるように消えていき、俺は人間の姿へと戻っていった。


 今度も、俺は何もしていない。


「……また勝手に戻ったのか」


 自分の腕を確かめていると、槍を持った女性が慎重に近づいてきた。彼女はワーボアの死骸を一度確認してから、俺に向かって頭を下げた。


「助けてくれて、ありがとうございます。私は星宮セナです。配信では『セナち』って呼ばれています」


 その名前には聞き覚えがあった。探索者として活動しながら配信も行っている、登録者百万人を超える人気配信者だ。初心者向けの探索や装備の紹介を中心に配信していると聞いたことがある。


「星宮セナって、あのセナちか。今の俺と違って大人気配信者だからな、名前や顔は当然知ってるさ」


「それ、褒められているのか、自虐に巻き込まれているのか分かりませんね」


 セナは困ったように笑った。


「半分は褒めてるよ。もう半分は……まあ、現状を見てくれ」


「借金に苦しんでる元Sランク探索者、でしたっけ?」


「配信まで見てるのかよ!」


 思わず声が大きくなった。セナは小さく笑ったが、すぐに真剣な顔へ戻った。


「でも、さっきの戦いは本当に助かりました。私一人だったら、あのワーボアを倒すのは難しかったと思います」


「俺だって、自分の意思で戦ったわけじゃないんだ。身体が勝手に動いて、止めようとしても止まらなかった」


 セナは驚いたように目を見開いたあと、ゆっくりと頷いた。


「やっぱり、そうだったんですね。戦っている間も、あなた自身が動きを制御できていないように見えました。助けてもらった身でこんなことを言うのも変ですけど、あの力は、あなたにとっても危険なんじゃないですか?」


「……俺も、そう思う」


 言葉にしてしまうと、改めて現実を突きつけられた気がした。あの姿になれば強くなれる。今までの俺なら倒せなかった相手にも対抗できる。だが、身体が勝手に動き、戦いが終われば勝手に元へ戻る。それがどういう仕組みなのかも、どこまで続くのかも分からない。


 セナは俺の表情を見て、これ以上は追及しなかった。


「それにしても、ここにあんなワーボアが出てくるなんて……。普段の探索ルートでは、絶対に遭遇するような相手じゃありません。何か異常が起きているんだと思います」


「やっぱり、そうなのか」


 俺も同じことを考えていた。あの巨体と力、そして傷を塞ぐ再生能力。普通の低層探索で遭遇するような相手ではない。偶然ここに現れたのか、それとも何らかの理由があって出現したのか。今の俺には判断できなかった。


 その頃には、配信カメラに流れるコメントの勢いが、先ほどまでとは比べものにならないほど増していた。セナの配信を見ていた視聴者が、戦闘の異常さに気づいて俺の配信へ移動してきたらしい。二つの配信に映ったワーボアの巨体と、黒い異形へ変身して戦う俺の姿が、瞬く間に広がっていた。


『セナちの配信から来た! こっちでも全部映ってるのか!』

『あんな敵、初心者向けのルートに出るものじゃないだろ』

『黒瀬の変身、前に見たときよりヤバくないか?』

『セナちもちゃんと戦ってた。脚を狙ったの、あれがなかったら危なかったんじゃ……』

『二人とも無事でよかった』


 配信画面の表示は、俺の目を疑うほどの勢いで増え続けていた。やがて、同時視聴者数は五十万人を超えた。


 俺一人の配信だけでは、ここまで急激に人が集まることはなかっただろう。百万人以上の登録者を持つセナの視聴者が流れ込んだことに加え、本来なら現れるはずのない強敵との戦い、それを止めるために勝手に変身する俺の姿が、多くの人の目に留まったのだ。


 だが、注目されていることを喜ぶ気分にはなれなかった。大勢の人間が、俺の身体が勝手に動く様子を見ている。その事実が、むしろ不気味に思えた。


「とにかく、無事でよかったです」


 セナは槍を持ち直し、ほっとしたように息を吐いた。


「それに、あなたが来てくれなかったら、本当に危なかった。ありがとうございました」


「いや、俺も自分で助けようと思って動いたわけじゃないんだ。気づいたら身体が勝手に動いていた。それに、脚を狙ってくれたのは助かった。あれがなければ、俺も最後まで持ちこたえられなかったと思う」


 少なくとも、セナがただ逃げ回っていたわけではないことは分かっている。彼女が隙を作ってくれたからこそ、俺の身体は最後の一撃を叩き込めたのだ。


「それでも、助けてもらったことは本当ですから」


 セナはもう一度、丁寧に頭を下げた。


 俺は曖昧に頷きながら、倒れたワーボアへ目を向けた。


 あれほどの強敵が低層に現れた理由は、まだ分からない。俺が変身したことで戦いの流れが変わったのは確かだが、そもそも、なぜこの場所にワーボアがいたのだろう。魔物の出現には何か理由があるのか。それとも、俺が知らないだけで、こうした例は珍しくないのか。


 今のところ、確かなことは何もない。だからといって、ただの偶然だったと片づけてしまうのも違う気がした。


 三年前の事故の真相を確かめるために、このダンジョンへ戻ってきた。ところが、探索を進めるたびに、俺自身の身体について分からないことが増えていく。


 変身は何なのか。なぜ戦いになると身体が勝手に動き、脅威が去ると何事もなかったように元へ戻るのか。そして、俺が三年前に生き残ったことと、この力には何か関係があるのだろうか。


 答えはまだ見つからない。


 それでも、立ち止まるわけにはいかなかった。俺はもう一度、三年前の事故現場につながると思われる通路へ目を向けた。


 あのとき何が起きたのかを知るためにも、まずは自分の身体が何を知っているのか、確かめる必要がありそうだった。

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