第72話 無双ゲー
トラック2台で砂漠を走る。
片方のトラックには僕とイヴさんとチャチャさん、もう1方にはレンさん(運転手)、クレナイさん、ニコさんが乗っている。
「アイツは化物だな」
呆れたような物言いでイヴさんは言う。
「誰のことですか?」
「チャチャだよ。まさかアレだけの兵器をこんな短い時間で完成させるとはな」
僕は助手席から荷台の方を見る。
「チャチャさんはイヴさんのおかげで時短できたって言ってましたよ」
「あたしは細かい所を詰めただけだ。設計図から組み立てまで、9割方アイツの仕事だよ」
六仙さんにも認められていたし、やっぱりチャチャさんのメカニックの腕は1流みたいだ。
イヴさんは右手でハンドルを握り、左手でシステムメニューを操作する。
「この面子の通信チャンネルを作った。どうだ、全員聞こえるか?」
『チャチャさんOKだよ!』
耳にチャチャさんの声が響く。
ちなみにチャチャさんは荷台でまだ兵器を弄っている。最終調整中だ。
『クレナイOKだ』
『レンOK』
『ニコもOKよ』
別動隊の3人とも通信状態は良好だ。
「僕も大丈夫です」
イヴさんは全員と同時通話できていることを確認すると、タバコをトラックの灰皿に捨てた。
「今から我らの敵に通信する。こっちの敵意を悟られるけど、無警告で襲うのは気が引けるし……まだナドラが悪党だと完全に確定したわけじゃないからな。最後の詰めの確認する。全員、黙って会話を聞いてくれ」
全員が承諾すると、イヴさんは通信を始めた。
ものの数秒で繋がる。
『やぁイヴちゃん。どうしたのかな』
ナドラさんの声が聞こえる。
「ナドラさん。確認したいことがあります」
『それって私が君を騙していたことかな?』
何も問わずして、ナドラさんは答えをくれた。
『わかっていたよ、君が気づいていたことにはね。ここ最近、PCを一切触ってないだろ。加えて妙な連中が工房に出入りするようになった。私の城に攻め入るつもりかな?』
どうやらイヴさんのPCは常に監視されていたみたいだ。念のため、触らないように言っておいて良かった。
さらにイヴさんの工房も監視下にあったらしい。監視の目には一切気づかなかった。近くに監視カメラでも設置してたのかも。さすがにスペースガールやヒューマノイドが付近に居たらこのメンバーで気づかないはずがない。
「ナドラさん……アンタ、なんでそんな平然とできるんだ。アンタはあたしを騙して、裏切って、それがあたしにバレたんだぞ」
イヴさんの声には怒気がこもっている。
普通、悪事がバレたらもう少し申し訳なさそうにするものだ。もしくは動揺するべき。
平然とできているのは、それだけナドラさんの心に善心がないということ。
『そうカッカするなよ。たかがゲームじゃないか』
その言葉が、通信を聞いている全員の神経を逆撫でしたことは言うまでもない。
『さてさてイヴちゃん、どうやって私を潰すつもりかな。私は証拠を何も残しちゃいない。軍警が動くことはない。私を牢獄送りにすることは不可能だ』
よし。召喚状の手はバレてないようだ。
『あと使える手は1つ。研究所に押し入り、私の悪事を証明する品を掴むこと。そうでしょ?』
「はい、その通りです」
完全に相手は僕らを舐めている。
だからこそ召喚状が効く。僕らの背後に軍警が居ると知った時、ナドラさんは強く動揺するだろう。リーダーの乱れは指揮の乱れに繋がる。
今回の作戦で1番めんどくさい展開は『ナドラさんが宇宙船に乗らない』展開。召喚状が無いと、ナドラさんは国内での逃亡を視野に動く可能性が高い。たとえパンドラを掴んでも逃げ回られたらめんどくさい。だけど召喚状があれば、軍警の網の張られたオケアノスに残ろうとは思わない。宇宙船に乗る可能性がグッと高まる。
動揺が強ければ強いほど、追い込みが強ければ強いほど、人はより遠くへ逃げようとする。
(宇宙船にさえ乗ってくれればそれでいい。僕の欲求はシンプルだ)
乗れ。乗ってくれナドラさん。あなたが宇宙船に乗ってくれないと、僕は楽しめない。
「覚悟しておいてください。あたしはあなたを許さない」
『だから、たかがゲームでマジになるなって。またアレ? 『ドライバーのプライドにかけて』ってやつ? くっだらない。ホントそういうとこ寒いよ? 私がさ、アンタに仕事を頼む度、長文のお礼メッセージ送ってきたりしてさぁ、アレ、ほんっと傑作だったわ。騙され、搾取されているとも知らずにさぁ……』
イヴさんの表情は『無』だ。
哀しみとか怒りとかを通り越して、もう何も……期待していない顔をしている。
『せめてもの情けで、2度とゲームができなくなるぐらい完膚なきまでに……返り討ちにしてあげる』
ナドラさんとの通信が切れる。
『あーあ、良かった良かった。相手がクズなら思いっきり暴れられるってもんよ』
ニコさんの嬉しそうな声が聞こえる。
同感だ。これで躊躇いなく引き金を引ける。
「ははっ! ……そうだな。そんじゃここで別れだ。手筈通り頼むぜ」
『了解じゃ』
ずっと並んで走っていたトラックだが、ニコさん達のトラックは先行し、僕らは岩場で止まった。
『突入組』と『狙撃組』で別れたのだ。
トラックの荷台の壁・天井をフルオープンにし、僕とイヴさんは荷台に上がる。
「チャチャ、最終調整は終わったか?」
「あいよ~。シキっちょの要望通り、完璧な出来である!」
僕はその兵器を見て、口角を上げる。
「ありがとうございます、チャチャさん。最高の狙撃が出来そうです」
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シキ達『狙撃組』と別れた『突入組』は、研究所の城壁の前にやってきた。
トラックの荷台をフルオープンにし、レンは荷台にある狙撃型ヒューマノイド8機を起動。レンと8機のヒューマノイドは飛空機に乗る。ワイバーンはスペースガールを搭載し、空を飛ぶ円盤型航空機。両足を固定することで操作権を手にすることができる。レンと8機の狙撃型ヒューマノイドはワイバーンで空を飛び、散開する。
一方でニコとクレナイのアタッカーコンビは正面口を徒歩で目指していた。
「来たわね」
「ああ」
城門が開き、次々とヒューマノイドが溢れてくる。
クレナイは大剣を構え、ニコは双剣を構える。
「無双ゲーって好き?」
「好きだけどフルダイブではやったことねぇな」
「なら良かったじゃない。今日、体験できるわよ」
「雑魚ばかりじゃねぇといいけどな。呂布か忠勝が出てくることを祈るぜ」
ニコは首を傾げる。
「? 誰それ。日本人?」
歴史オタクのクレナイは頭を悩ませる。
「おいおい、今時のガキは三国も戦国も知らねぇのかよ。ジェネレーションギャップきついぜ。仕方ねぇ。今度電子書籍の三国志フルセットをくれてやる。いや、最初は演義がいいか? しかしアレは贔屓が強くていけねぇ。つーか小説から入るのはきついか。蒼天航路から勧めるのもアリか? 漫画の方が入りやすいよな。それならいっそパリピ孔明を――!」
「なにブツブツ言ってんのよ。集中しないと死ぬわよ」
敵勢は尖兵だけでも30を超える。
おまけに城門の上には大量のTWがある。それでも2人は余裕の笑みを崩さない。
「ヒューマノイドは1ポイント、TWは2ポイント、スペースガールは3ポイント」
「負けた方は勝った方の要求を1つ飲む、でいいかしら?」
「ああ。さぁ始めるぞ! ――レッツパーリィだ!!」
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