第70話 目指す高み
「……というわけで、力を貸してくださいませんか?」
仮想空間ではなく現実の自室にて、僕はスマホである人と通話していた。
『申し訳ございません。11日は予定がありまして』
そう上手くはいかないよね。彼女の手を借りられれば作戦の難易度はグンと下がったんだけど……残念だ。
「そうですか……わかりました」
『ニコさんとチャチャさんにも連絡はしたのですか?』
「お2人はゲーム内のチャットでお願いしたところ、OKしてくれました。シーナさんはログインして無かったので、こうして直接電話した所存です」
メッセージでも良かったけど、シーナさんには他にも聞きたいことがあったから通話にした。こっちの方が緊張するけど、メッセージで長くやり取りするのはあちらに悪い。
『2人が参加するなら大丈夫でしょう。楽しい祭りになるでしょうね。参加できなくて残念です。それにしてもシキさんが協力を求めるなんて驚きました』
「え? なんでですか?」
『相手が強大なほど、自分で片付けたい性質だと思っていたので』
「僕をなんだと思っているんですか……これがもし僕1人の問題なら1人で突っ込んでいる所ですけど」
『突っ込んでるじゃないですか』
「今回は失敗すると他の方に迷惑がかかるので、万全な戦力で挑みますよ。それに、メインディッシュは僕が1人占めする予定です」
『ふふっ。なにかやりたいことがあるようですね。後日、お話を楽しみにしています』
ここで僕はもう1つの用件を切り出す。
「すみませんシーナさん、実はもう1つ尋ねたいことがありまして」
『聞きますよ。時間は大丈夫です』
「実は僕、六仙さんにお会いして、少し話をしました」
『遅かれ早かれあなたに接触するだろうとは思ってましたよ。それで、あの方はなんと?』
僕は六仙さんと話したことをシーナさんに伝える。
『なるほど。つまりシキさんが聞きたいのは、六仙さんの戦闘スタイルというわけですね?』
「はい。僕と正反対というのが気になりまして」
『ふむ。確かに正反対ですね。シキさんは単独でこそ力を発揮するスナイパー、一方で六仙さんはグループでこそ力を発揮するスナイパーです』
やっぱり、そういうことか。
「連携が上手い、ということですか」
『指揮能力、連携力、どちらも優れていました。連携はどうしても相手との相性がありますが、彼女は誰が相手でも完璧に合わせることができた。ユグドラシルの面々は個の力こそトップレベルでしたが、同時に我が強い人ばかりでした。でも彼女は完璧に、あの個性派揃いのチームをまとめることができた』
ツバサさんとシーナさんだけ見ても、まとめるのは大変そうだもんなぁ……それをまとめられる六仙さんは確かに凄い指揮能力を持っている。六仙さんが抜けて即チームが瓦解したあたりそれを証明している。
『自分で援護をして仲間に取らせることも、仲間に援護させて自分で取ることもできる。指示も的確で、コミュニケーション能力も高く、ついでに育成能力も高い。リーダーとして完璧な能力を持っていましたね』
シーナさんの声色からも六仙さんへの強い信頼を感じる。いつもより声が少し高い。
『単独では、私もシキさんの方が強いと思います。でもあの戦い、あのランクマッチで彼女が紅蓮の翼をツバサさんの代わりに率いていたなら……勝ち目は無かったでしょう』
「ツバサさんはツバサさんでリーダーとしての能力は高かったと思うのですが……」
『はい。彼女は器用ですから、リーダー職も上手くこなしています。だけど、ツバサさんはやはり最後には自分の力に頼る部分がある。自分で戦局を変えようとする。それは自信とも言えるし、驕りとも言える。――シキさん、前回のランクマッチで紅蓮の翼の最大の敗因はなんだと思いますか?』
紅蓮の翼に失策らしい失策は無かったと思う。僕らは実際、ツバサさんとレンさんに嵌められ、2人の連携でまとめて落とされかけた。
「強いて言えば、クレナイさんがニコさんと引き分けたこと、ですかね」
『そうですね。正確に言うなら、クレナイさんがニコさんに一騎討ちを挑んだことです。ツバサさんは勝算高いと見てクレナイさんをつっかけたのだと思いますが、六仙さんなら合流を優先させたでしょう』
そういえば、あの2人の戦いの決着がついてすぐ、ツバサさんはニコさんの前に現れた。つまり、それだけ近い位置に居たということ。ニコさんを倒すなら合流を優先した方が確実だった。
『ツバサさんの頭にもクレナイさんが敗北する可能性はあったはずです。それでもクレナイさんを行かせたのはどれだけ味方が減ろうと自分が無事なら勝てるという自信があったから。クレナイさんもニコさんとの一騎討ちを望んでいたとは思いますが、六仙さんなら上手く説得して必ず合流させ、ニコさんを2人で仕留めた。自他の欲求を制し、確実な利を取ることがあの人にはできる。自身の欲求に素直なシキさんとはそういうところも違いますね』
「うっ……」
仰る通りで。
『それに、紅蓮の翼のクレナイさんとレンさんは非常に連携が上手く、理解力も高いため『駒』としてかなり優秀なのです。『個』で動かすより『集』で動かすべき存在。六仙さんはあの2人とは戦闘スタイルの面でかなり強いシナジーがあるのです』
そもそも紅蓮の翼自体が六仙さんと相性が良いんだ。だからこその『100回やっても100回勝てる宣言』か。
「……スナイパーは遥か後方から俯瞰で戦場が見える。六仙さんは狙撃が上手いからスナイパーでいるのではなく」
『数あるロールの選択肢の内、1番指揮がしやすいからスナイパーを選んだ。という感じでしょうね。狙撃の能力も1流ですが、アタッカーができるだけの近接技術も彼女は持っていましたし』
どっちかって言うと1人になれるから狙撃手を好む僕と、1人で戦う気が無いから狙撃手を好む六仙さん。同じ狙撃手でもこうもタイプが違うなんてね。
「敵わないですね……」
『なぜです?』
「え、だって……単独で強い人より、チームで強い人の方が凄いじゃないですか。特にこのゲームはチーム戦が多いですし……チーム戦で強い人の方が上に行ける。だから」
『敵わないと?』
「……はい」
通話先から小さな笑い声が聞こえた。
『それは間違いですよシキさん。このゲームはプレイヤースキルに差があれば1対多数でも勝てるように設計されている。結局のところ、究極の個には数の暴力は通用しない。現に――六仙さんは白い流星に一個師団で仕掛け、∞アーツも使用した上で敗北している』
「え!?」
月上さんに……!?
『ほら、シキさんも参加したではありませんか。あなたの最初の戦争ですよ』
「あ!?」
僕が最初にログインした時に月上さんと戦っていた軍隊……アレは六仙さんの軍だったんだ!
『いま頂点に君臨しているのは白い流星。あなたと同じ、単独でこそ強い人間です。あなたの目指す『高み』は六仙さんなのですか? それとも』
僕が目指す場所は、決まっている。
『自分に無い能力を持っている人間に憧れる、嫉妬するのは結構ですが、負けを認める必要はないと思いますよ』
「……ありがとうございますシーナさん。シーナさんの言う通りです。僕は僕のやり方で、1番強いスナイパーを目指します」
『ええ。あなたがどこまで行けるのか、私も楽しみにしています』
通話が切れる。
シーナさん、ほんと大人だなぁ。
(アレで年下なのだから、自分が情けないよ……!)
中学生に諭される高校生、ここに在り。
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