第271話 静寂の夜空
ロゼッタさんのおかげで、すでに情報は出揃っている。
あの紫髪の人は紫陽花さん。アネモネさんとネモフィラさんがΩアーツによって合体し、誕生したスペースガール。
50基のマルチピース、常に高出力のサーベル2本、テレポート能力、ワイバーン無しでも常に空中に居られるウィング。反応も思考も底上げされた。しかもΩアーツの副次効果で全ステータスが上昇している。
間違いなく、この代理戦争における最強の相手。
もはやプレイヤーのレベルじゃない。軍で相手しなくちゃいけないレベル、レイドボスの領域だ。そんな凄い相手と1対1でやれる僕はなんて幸せ者だろう。
「……まずは距離を取ったまま」
僕はスタークを狙撃モードにし、長距離射撃で紫陽花さんを狙う。紫陽花さんは周囲に漂わせた花のようなピースで僕の狙撃を弾く。
「狙撃モードのスタークでも1撃じゃピース1枚落とせない。硬過ぎる……!」
紫陽花さんはテレポートで距離を詰めてくる。
ただし、一気に距離を詰めることはせず、12.25mのテレポートを細かく刻む。
「なるほどね。長距離のテレポートは無理なんだ」
最大で12.25mなんだろうね。
「……このまま距離を詰められたらまずいな」
ワイバーンで離れつつ狙撃を重ねる。集中して1基のピースを狙い続けたら落とすことができた。良かった。ちゃんとダメージは通っている。
(テレポートは連打できるわけじゃないみたいだね。連続で使えるのは3回まで。3回使ったらクールタイムが10秒ぐらい入る。マルチピースはシールドとアタックの性能はあってもバレットの性能は無い。銃系統の武装は一切無し)
紫陽花さんの手持ちに遠距離で使える武装は無いけど、逆に間合いに入ったら相当きついね。
狙撃で遠距離からチマチマとピースを1枚ずつ落としていく。50枚あった内、22枚を撃ち落とした頃、距離が100mまで詰まった。相手のピースの間合いに入った。大量のマルチピースが飛んでくる。僕はワイバーンを動かし空中を逃げ回る。刃を生やした花が頭の傍を通る。
(ピースの動きが速いし器用だ! 脳波の数値もかなり上昇している!)
今の僕よりも脳波数値はきっと上だ。
アステリズムが2基、紫陽花さんのピースに破壊された。
「強い……強いな……」
思考、反応、脳波、ステータス、武装。
その全てにおいて完敗している。
究極の個。
究極の一。
「……なんですか。その薄気味悪い笑顔は」
紫陽花さんの声が聞こえる。
「窮地に陥り、脳が狂いましたか?」
「わわっ! す、すみません……!」
ああ、まただ。ペテルさんの時と同じだ。僕の悪い癖。
相手からしたら多分、うざったいよね。追い詰められている方が笑うなんてさ。
でもね、我慢できないんだ。
高揚が止まらない。
この夜空に、僕ら以外は誰も居ない。
最高だ。静寂の夜空で、こんな強い人と、1対1。
代理戦争では強い人達といっぱい戦えた。今日もシノハさんと戦うことができた。僕はシノハさんが最後だと思っていたんだ。この代理戦争のデザートはシノハさんなんだって、そう思っていた。
なのに、まだ続きがあった。
この世界は本当に、僕を楽しませてくれる。
「今日は、月が綺麗ですね」
僕が言うと、紫陽花さんは動きを止めた。
僕は夜空に浮かぶ満月を見上げる。
「とても綺麗だ」
「呑気に言っている場合ですか? いま、あなたの前に居るのはこのゲームで1番強い機兵ですよ」
このゲームで1番強い……?
「え~っと……す、すみません。それは違うかと思われます……」
「では、あなたがそうだとでも言うのですか?」
「それも違います。1番強い人はあそこにいる」
僕は月を指さす。紫陽花さんも月に視線を送る。
「そういえば彼女が居ましたか。ならば、この戦いに勝利した後、月に上がってあの人を倒しましょうか」
「……あなたが……倒す……?」
「今の私なら可能ですよ」
紫陽花さんは自信満々に言い切る。
僕は、顔から笑みを消す。
「無理です」
そう、断言する。
「あの人を仕留められるのは、僕だけだ」
「へぇ」





