第238話 神狼乱舞③
超高速で動く12基のアステリズム。
シキはアステリズム3基でペテルを抑え、残りの9基でニコを仕留めにかかる。
「ちっ! このっ!!」
シキが驚いたのはニコの回避力。
アステリズムを目で追えていないにもかかわらず、被弾を最小限に抑えている。野生の獣の如き勘の鋭さでアステリズムの動きを察知している。
ならば。とシキはアステリズムの行動パターンを敢えて絞った。
「ははっ! もう慣れてきたわよ!!」
ニコはアステリズムの動きを見切り、完璧に躱し出す。だが、これはシキの罠。
アステリズムの速度は最高のままだが、動きを意図的に規則的にした。アステリズムの動きのパターンを3つに絞り、ニコに慣れさせた。野性的な嗅覚が魅力のニコだが、頭に『定石』ができてしまった。
勘で避ければ被弾する。
読みで避ければ完璧に回避できる。
そうなれば、必然と後者を選択する。『感覚』では無く『読み』を選択する。ニコの頭の中に『アステリズムが左側に寄ったら右斜め上に飛ぶ』と深く刻まれてしまった。
シキは右手にG-AGEを握る。そしてアステリズムを動かし、左側に寄らせる。ニコの視線が左にいく。同時にG-AGEをニコの右斜め上に向け、発砲。アステリズムも射撃を開始。
ニコは右斜め上に飛び上がる。
「え」
G-AGEから放たれた弾丸は、ニコの胸の中心へ吸い込まれていった。
ニコは一瞬、撃たれたことに気づかなかった。あまりにも流れがスムーズ過ぎた。
胸の穴を見て撃たれたことを実感。体中にヒビが入ってようやく、シキの戦術に気づく。
「……これが……梓羽が恐れた――」
ニコがデリートされる。
「ニコさん、あなたの強さは枠に囚われないところです。それを見失っては勝てませんよ」
野生の勘に頼って回避を続けていたら、G-AGEの1撃も察知できただろう。
『常識』、『定石』、『正攻法』。時にこれらの枠組みが才能を殺すことをシキは知っていた。
「――次はあなたです」
シキはペテルを視界に収め、瞬きをする。
ターゲット→ペテル。
「もう、どの手も通用しそうにありませんね……」
ペテルの選択肢は一択。『逃走』だった。
もはや自分が抑え切れる相手じゃない。逃げて、追わせ、できる限り時間を稼ぐ。シキが自分を諦め、コロニーキャノンの掌握に移るならそれも仕方無し。今度はシキ以外のエース級を抑えに行けばいい。
「『逃げ』ですか。どこまでも合理的ですね」
ペテルはとにかくシキから距離を取る。現在のシキの武装の中で1番恐ろしいものは反射も読みも通じないアステリズム。その行動範囲外に出られれば多少はマシだ。シキのスラスター自身は強化されていないため、最高速にそこまでの差は無い。
シキは緋威を羽織った後、ペテルを追う。
「……燃える特殊外套。いま展開してなんの意味があるのです」
アステリズムの行動範囲は100m 射程は300m。シキとペテルの距離は180m。ペテルはアステリズムの射程には入っているが、行動範囲からは脱している。全方位から弾が飛んでくることは無い。
シキはスタークとアステリズムでペテル……ではなく、ペテルの進行方向にあるビルを狙う。
ビルを破壊し、その瓦礫でペテルの足止めを測る。しかしペテルは速度を緩めず右折し、上手くシキの攻撃をいなす。
それからもシキは戦術を仕掛けるが、ペテルは道を上手く選択し、速度を緩めず躱していく。
「なんでも思い通りにはなりませんよ……」
ペテルが呟くと、シキは聞こえてもいないのに笑った。
「思い通りですよ、全部。
――脳波同調ON」
ペテルは突然正面に現れた飛行物体にぶつかり、加速を止められる。
「かっ……!?」
同時にペテルはスラスターを切らし、上空10mからコンクリートの地面に落下する。ペテルの傍に、ペテルを妨げた飛行物体が落ちる。
飛行物体の正体はTW。シキがここに来てすぐに捨てた108連装ミサイルランチャー『テンパチ』だ。
「最初に捨てたTW!? そうか、ここは……!」
ペテル達がいま居る場所は最初に交戦した場所。倒壊したマンションで荒れた地。
シキの地形を利用した攻めに対し、無意識の内にストレスを溜めていたペテルは、この場所をまた無意識の内に目指してしまっていた。
見晴らしのいい、この場所を。
(誘われた――)
と気づいた時にはもう遅い。シキはテンパチを狙撃する。
「!?」
ペテルは知らない。テンパチの中にはまだ使用していないミサイルが26発残っていることを。それでもペテルは咄嗟に飛び上がることができた。シキの意図はわからないまま、しかし膨大な経験値が体を動かした。
テンパチのミサイルの1つが起爆。残りの25発が誘爆する。
巨大な爆発が巻き起こる。
「まだ……だ!」
ペテルはダメージを喰らいながらも直撃は免れた。だが、
「っ!?」
爆心地に吸い寄せられ、身動きが取れなくなってしまった。
テンパチの爆発でコロニーに穴が空いたのだ。コロニー内の大気が穴から外へ流れ出る。
「本命はコレですか……!」
大気の放出に巻き込まれ、ペテルは体の操縦権を失う。
「どこまで計算づくでぇ……!!!」
ペテルは大気の流れに身を囚われる。
穴に吸い込まれていく。
「なんとか手は動く……! 盾で狙撃は弾いてやる!!」
鞭を捨て、右手に大盾を持つ。
背中を穴に向け、体を上に向けた。その時、
「――――」
視界が、真っ暗になった。
上に向けた体に、5つのゴムの塊が覆いかぶさったのだ。
「デコイバルーン……!?」
デコイバルーンにより視界は潰され、緋威によりシキのステルス性が強化されたことでレーダーでもシキを捉えられない。
シキの姿を完全にロストする。
「何も見えな――」
次の瞬間、デコイバルーンと盾を貫通したG-AGEの弾丸が、ペテルの胸の中心を撃ち抜いた。
(この大気の奔流の中、実弾で急所を狙えるのか……!)
あちこちから大気が穴に集まり、強力な大気の渦ができている。実弾を狙った場所に当てるためには、この大気の渦の流れを完璧に観測する必要がある。それは、機械を用いなければできないこと。人間では不可能なこと――そうペテルは瞬時に考え、スタークのみに備えた。
なのに、容易く上をゆく。
「寸分狂いなし」
ペテルの判断は人間が相手ならば100点だった。誰も責められない。
だが、今回の相手は――
「化物め……!」
ペテルはデリートされ、消滅する。
ガムのような物体で埋められていくコロニーの穴を、シキは上空から見下ろす。
「あなたは自分のこと最弱だと言っていましたけど、そんなことありませんよ。ペテルさん」
シキは惜しみない称賛を送る。
「――あなたは強かった」
戦闘開始より12分55秒。
コロニーA・勝者シキ。
シキは∞バーストを解く。
「それでは、コロニーキャノンを探しましょうか」
ちなみにデコイバルーンを撒いたのは大気の流れを測る意味もありました。効率的だぜシキっちょ。
そして相変わらず圧倒的とどめ率を誇るG-AGEさん。





