第239話 チェーンソーvs大剣
アスター3周辺宙域。
「どうしたどうしたぁ! もっとやる気出さねぇかぁ!!!」
紅蓮の髪の女性――クレナイは対艦刀を振り回し、オケアノス兵3人を1撃で葬った。
「骨がねぇなぁ! どいつもこいつも!」
クレナイは唇を舐め、アスター3を見下ろす。
「そろそろ、お前も休みたいよな?」
呟き、アスター3へ向かって加速する。
「なんだ?」
クレナイが加速した瞬間、アスター3から大量のリングが射出された。
様子を見るため、クレナイは足を止める。
「へぇ」
機械のリングはクレナイを囲うように設置される。
「この配置……なにか意図を感じるな」
機械のリング――アクセルリングは適当にばら撒いたように見えるが、よく見るとアスター3からクレナイの所まで、一定間隔でリングが設置されているラインがある。
アスター3から人影が飛び出す。その人影はアスター3直近のアクセルリングをくぐり加速。加速を保ったまま次のリングへ、さらに次のリングへ飛んでいく。
「くぐると加速するリングか!」
クレナイの背後に人影は回り込む。
「はえぇ……!」
クレナイはウィングを起動。飛び上がるも、高速で飛来した人影に対艦刀の端末部分を斬られる。
「ちっ」
クレナイは対艦刀を放棄し、距離を取る。対艦刀はすぐさま爆発した。
クレナイの正面に、チェーンソーを持った仮面の女性が現れる。
「君、暴れ過ぎ」
「お前、シキのチームに居た奴だな」
クレナイは歯を見せて笑う。
「ようやく骨のありそうなのが出て来たなぁ……」
「悪いけどまともに戦うつもりはない」
ロゼッタはアクセルリングを使い、クレナイの周囲を高速で移動していく。
「いいな。面白い仕掛けだ」
クレナイは大剣インフェルノを構える。
「ふっ!」
クレナイは体の向きを反転。背後に迫っていたロゼッタのチェーンソーをインフェルノで防ぐ。
「もう見切ったのか。やるね」
高回転のエネルギーの刃と、高出力のエネルギーの刃がぶつかりあい、光の粒子が激しく散る。
「力と力のぶつかり合いぃ! いいじゃねぇの!」
「力など、策を通すための踏み台に過ぎない」
ロゼッタのこめかみに穴が空き、穴から銃身が現れる。銃口は正面を向いており、目の前の敵を狙う。
「はぁ!?」
ロゼッタはこめかみの銃から小粒なレーザー弾を大量に発射。クレナイは顔面から胸にかけて弾丸を受ける。
「てめっ……!? ヘッドマシンガンとか正気かよ!」
ヘッドマシンガンは小型ゆえに弾は細かく、威力は低い。それでも柔い部分に当たれば破壊できる。現にクレナイは左眼をヘッドマシンガンの弾に潰されてしまった。
堪らず距離を取るクレナイ。ロゼッタが追撃すると、クレナイは両足のサーベルを振り回す。ロゼッタはフットサーベルを避け、後ろに飛ぶ。
「ヘイト武装だもんねぇ、これ」
ヘッドマシンガンは明確に『嫌われている』。
理由は幾つか存在する。まず『ダサい』。可愛く無い。巨大人型ロボットが使えば恰好もつくが、人間を模したスペースガールのこめかみから銃が生える様は実に滑稽だ。
次に『うざい』。ヘッドマシンガンは決定打にはなり得ず、基本的に目潰しや武装破壊・爆発物処理に使われる。目潰しや武装破壊は相手からすると鬱陶しいゆえに、ヘッドマシンガンはヘイトを集める。
さらに奇襲性が高く、対策が取りづらいのも嫌われている要因だろう。
ヘッドマシンガンを使うだけで卑怯者扱いされる。だが、このマッドサイエンティストにとって他人の評価など心底どうでもいい。使えば嫌われる? 結構結構。相手がイラつくことは得でしかない。
クレナイも面は喰らったが、ヘッドマシンガンを使われたからと言ってストレスを感じるタイプで無ければ、ヘッドマシンガンがズルい・嫌いと思うタイプでも無い。すぐに気持ちをリセットさせる。
(厄介だな。この子、想定していたより冷静だ)
クレナイは親指でアクセルリングを指す。
「コレ、オレが使ってもいいんだろう?」
「!?」
クレナイは背後のアクセルリングをくぐり、加速する。さらに他のリングをくぐり加速。リング加速を繰り返していく。
ロゼッタと同等、否、それ以上の速度でクレナイは動き回る。
「馬鹿な……!? 初見で扱えるようなものではないぞ!」
「こいつはいいな! オレの性に合っている!」
クレナイはロゼッタの背中を襲う。ロゼッタも反応するが避けきれず、右腕を斬り落とされる。
「くっ……!?」
右腕と右手に握っていたチェーンソーが宇宙を流れていく。
「はははっ! さすがに速いな! 手元が狂ったぜ! だがもう慣れた! 次は外さねぇ!!」
クレナイは更に加速する。
「ああ、吾輩も慣れた」
ロゼッタは体の向きを右に半回転させる。
ロゼッタはクレナイの影を追い、頭の中で計算式を組み立てる。
「……B-7、3倍だ」
ロゼッタは呟き、左手の指先からブラックライトのレーザーの刃を出す。
光の爪、レーザークロー。ブラックライトゆえに宇宙の闇に溶ける。凝視すれば視認できるが、高速で動くクレナイには見えない。ロゼッタは5本のレーザーの爪を尖らせる。
(3,2、1――)
クレナイがロゼッタの背後20mにあるアクセルリングをくぐる。
同時にロゼッタは体を180度右回転させ、左手を突き出す。
「――――――っ!!!?」
リングをくぐったクレナイは、先ほどまでとは比にならない程加速した。
その加速はクレナイの想定していたものでは無い。クレナイの意識すら置き去りにする爆発的加速。あまりの速度に手から大剣を落としてしまう程だ。
「つっ!?」
気づいたら、クレナイはロゼッタの光の爪に胸の中心を貫かれていた。
「最後のアクセルリング……アレは罠か」
「君が詰めに使うであろうリングの出力を3倍にしておいた。敵の兵器をそう使用するものでは無いよ」
ロゼッタは先ほど技師の1人に小声で通話し、背後のアクセルリングの設定を変更させたのだ。
更にその前に自分の体の向きを変え、リングに背中を向けた。そのリングを使わせ、背中を襲わせるために。
ロゼッタはクレナイの胸から左腕を引き抜き、距離を取る。
「君と真っ向勝負をするのは危険なのでね。ズルくいかせてもらった」
「まさか、このリングはお前が利用するためじゃなくて、最初から……!」
「そうさ。君なら初見で扱えるだろうと思ったし、調子に乗って使いまくってくれるだろうと思った。タイミングよく出力を高めれば、面白いことになると吾輩は考え設置したのだよ。このリングは吾輩の強化パーツではなく、君のためのトラップだったのさ……最初からね」
アクセルリングの出力と配置を頭に入れていれば、襲ってくるタイミングとルートは限定できる。あとは相手を超加速させて、防御も回避も封じれば確殺できる。
ロゼッタの頭脳をもってすれば、これぐらいのことは容易だ。
「ったく、無様だぜ……」
クレナイはポリゴンとなって散り去った。
「しかし、想定よりも高い近接能力を持っていた。おかげで右腕を持っていかれた」
代理戦争中はランクマッチ時と同様に、欠損したパーツの修復は認められていない(スペースガールのみ)。
ロゼッタはこの第三回戦が終わるまで、左腕1本で戦わないとならない。
「策に対する嗅覚が備われば、恐ろしいアタッカーに化けるね。今はまだまだ♪」
~余談~
ヘッドマシンガンとレーザークローはシキの提案で入れました。
シキ「ロゼッタさんには奇襲性の高い武器が合っていると思います!」





