第210話 体育祭パニック
9月17日火曜日。
今日は我が校でとあるイベントを開催している。それは……、
『水分補給はこまめに行ってください』
「フレー! フレー! 紅組!」
「白組ファイト~!」
『緑組リードです』
体育祭である。
赤・白・青・黄・緑。5つの組によるスポーツバトルだ。ちょっとだけ代理戦争に似てるかも(あっちも5チームによる争いだし)。
無論、僕はだいっきらいの行事だ。強制的に衆目に晒されるし、銃も出てこないし。それでいて足を引っ張ると冷たい目で見られる。
体育祭は一般公開されていて、一般の人も入場チケットさえあれば観覧できる。チケットは生徒に配られたり、お世話になっている団体さんや関係者に配られる。けどみんな親とか呼ばないし、開催日も平日だから去年までは観覧者はそこまでいなかった。小学校や中学校の時に比べたらこじんまりした催しだったんだ。配ったチケットの99%は消費されなかっただろう。
だが――今年は、きっとチケットの9割が消費されている。なぜなら!
「千尋ちゃーん! ファイトー!」
「頑張ってぇ! 千尋ちゃーん!」
そう。今、ウチには百桜千尋が居るのだ。おかげさまでファンが殺到している。
「みんな応援ありがと~!」
千尋ちゃんは笑顔で応える。
そして、千尋ちゃんの他にも注目を浴びている人が1人。
「……あの子は女優じゃないの?」
「し、知らない……」
「あ! 私、夏祭りの時に見たことあるよあの子……」
月上さんだ。月上さんが千尋ちゃん目当てに来た人たちの目を奪っている。その様子を見て、千尋ちゃんは笑顔ながらもピキッているご様子。
いやはや、あの2人は体育祭でもぶつかりそうだ。
(僕の次のプログラムはまだ先だし、影で涼もうっと)
乱立するテントの内の1つに入る。
影の中、水筒のお茶を飲んでいると、
「見つけた」
梓羽ちゃんがテントに入ってきた。
「梓羽ちゃん!? な、なんで居るの!?」
チケットは渡していないはず!?
「校長先生に入場券貰ったから、暇だし見にきた」
「今日バリバリ平日だよ!?」
「ウチの中学は今日創立記念日で休みだよ。ウチの中学、この高校とパイプがあるからさ、こっちで行事がある時は大体休み。ほら、あそこに居るのウチの校長」
「……ホントだ。懐かしい」
「ていうか、お姉ちゃんの代もそうだったでしょ」
「お姉ちゃん、中学の記憶は薄いのです」
梓羽ちゃんに続いて、さらに2人の私服中学生がテントに入ってくる。
「どうも~。夏休み以来ですね、お姉さん」
このベレー帽を被った子は……前に僕を追いかけ回した!
「ひ、火針ちゃん……」
「そうです。火針です。いやぁ、一緒に観た映画おもしろか――」
火針ちゃんの顔を手でどかし、もう1人の子が笑顔で前に出てきた。
「どうも初めまして! 梓羽さんの友達の、虎福院二叶って言います!」
ピンクのロングヘアーの女の子だ。
なんか……既視感が……?
「お前! カットインしてくるなよな! あたしがお姉さんと話してただろうが!」
「うっさいわね! こういう時は初対面優先でしょ!」
なぜだろう。この子の声を聞く度、背中がザワザワする。
と、いけない。僕も自己紹介しないと。
「こ、古式レイです。よろしくお願いします……」
妹の友達とはいえ、いや、妹の友達だからこそ緊張する。
やばい。視線を前に向けられない……。
「あの! お姉さんもインフィニティ・スペースをやってるって聞きました!」
虎福院さんがグイグイ寄ってくる。
「は、はい……そうですけど」
「お姉さんのプレイヤーネームって、レイで合ってますよね?」
「え……? いや、さすがに本名ではやってない、です……」
「え……ええええええええっっ!? ちょ、梓羽! どういうことよ!?」
梓羽ちゃんはプイっとそっぽ向く。
「おいコラ無視すんな!」
「別にいいじゃん。もうお姉ちゃんと戦う理由ないでしょ」
「理由は無くても、アンタの姉なら戦ってみたいわよ!」
「あ、あはは……それじゃ僕、ちょっとお手洗いに……」
僕はテントから脱出し、小走りで場を去る。
「……梓羽ちゃんには悪いけど、あの狭い空間であの人数は無理……」
自動販売機で飲み物を買おう……なるべく人気の無い所、3号館の1階の自販機に行こう。
「やっぱり、こっちの方は静かだね」
3号館に到着。早速靴を脱いで中に入る。
3号館は全室防音室で、吹奏楽部とか軽音部が使う校舎だ。近所への影響を考え裏門近くの少し離れにあり、今は人がいないはず。と思ったのだが、
(あれ?)
自動販売機のあるスペースに、人影が2つ。僕は咄嗟に後退し、建物の外へ。自販機スペースを目視できる窓に足を運び、窓から自販機スペースを覗く。
そこに立っていたのは、2人の銀髪女子。
「つ、月上さん……!?」
月上さんと……月上さんと同じ銀髪の女の子。だけど目の色は、赤と黄色。オッドアイの子だ。オッドアイとか、リアルで初めて見た。
多分、月上さんの親族だよね……? 少し幼く見えるから、妹さん……?
すっごい綺麗な子だ。し、親族ならいいけど……そうじゃなかったら……なんか……なんか……複雑だ。
2人は30秒程会話して、解散した。知らない女の子は出入り口から去っていき、月上さんは……なぜか僕の居る窓に近づいてきている。
(やばっ!)
僕は身を屈め、場を去ろうとするが、
「古式レイ」
背中を向けた一瞬で、月上さんに距離を詰められていた。
月上さんは窓を開け、窓の外の僕を見下ろしている。
「わ、ワープ!?」
足速すぎる!
「なにをしているの?」
「ななな、なにも! 自動販売機に飲み物を買いに来ただけでぇ!」
「そう」
「あ、あの……誰と喋っていたのですか?」
僕が聞くと、月上さんは試すような目で僕を見た後、
「彼女」
「え……えええぇぇ!?」
「冗談」
「――ぐはぁ!」
僕は背中から倒れ込む。
「か、からかわないでくださいよ……」
「ごめんなさい。あなたの反応が見たくて」
この人はたまにイタズラ心を前に出してくる。
(まぁ、そういうところも……可愛いんですけど……)
月上さんは前髪を右手で流し、
「あの子は従姉妹」
「い、いとこさんでしたか」
良かった。やっぱり親族だ。
「私は仕事があるから。またね」
「そ、そうですよね! 忙しいですよね! 生徒会ですもの! すみません。僕なんかに時間を使わせてしまい……!」
月上さんは僕から2歩離れた後、立ち止まり、
「……午後、チーム対抗リレーがある」
5チームがリレーで争う種目だ。学年問わず参加でき、それぞれの色の俊足が集う。ウチのクラスからは千尋ちゃんが参加している種目だ。
「私も出る」
「さ、さすがですね」
「勝つから」
「え……あ、はい! 応援します!」
月上さんはそれだけ伝えると、出入り口の方へ歩いていった。
僕はその背中に向けて手を振り、踵を返す。
「あ!」
月上さんを応援するってことは、敵のチームを応援するってことじゃん!
僕は紅組で、月上さんは白組だから。
……まぁひと種目ぐらいいいよね。
「さてと、僕も戻るかな」
僕は裏門の前を横切る。
「あの~、すみません」
誰かが閉まった裏門の先から声を掛けてきた。
「え、あ、え!? 僕!?」
サングラスを掛けた、黒髪ロング(インナーカラー薄紫)の女性だ。
「そうだよ、キミキミ。ちょっと諸事情があって、こっちから入ってもいいかな? あ、これ入場券ね」
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