45 分析
「どうしたの?タイガ」
彼の呟きを聞いて、私はもう一度先輩の指し示した場所を見てみる。
「いや、何か変だなって思って…」
「変?」
「だって、ここ国と国の間にこんなに距離があるのに、こんな鎧に着替えるなんて変じゃない?」
先輩の話によれば、年明けの校外学習では、海辺に簡易的な建物を建ててギルドのように扱い、そこから少し先の森が試験の会場となるそうなのだけど、その位置は周りの国に配慮した結果、近くにある2つの国から、ある程度離れた距離になっている。
「…言われてみればそうね。先輩、確か写真が送られてきたのはこっちの国ですよね?」
「あぁ。だが、話によれば向かいの国も、似たような鎧に切り替わっているらしい」
「だとすれば、尚更おかしいわね」
「でしょ?」
「おい、そこ二人で納得してないで、俺にも説明しろ」
その位置関係から、ようやく私もタイガが何に気付いたのか理解して、更に先輩への質問の答えからそれを確信していると、先輩がそう言って私達に説明を求めてくる。
「あの…さっきの衣替えの話、地域によってはそういう国もあると思うんですけど、ここではそんなの絶対あり得ないんです」
「絶対か。何故そう言い切れる?」
「なぜって…そんなの」
『地図を見れば一目瞭然じゃないか』そう思う私達への問い掛けの内容に、タイガが答えたところで、私はハッと普段あまり意識することのない文化の違いを実感する。
「えっとですね、どう言えば良いんしでしょう…向こうだと、魔物を狩らないでいると、街が襲われちゃうんです」
「それは…どの大陸でも同じだとは思うが」
「動物はバラバラで、魔物は魔物で襲って来る」
そういった常識の違いから来る認識の齟齬を、埋める為にはまだ私達の知識も言葉も足りなくて、どうにか伝えられないかと私とタイガは、必死に言葉を紡ぐ。
「えっと…あの…魔物は、変化前の種類に関係無く、まとまって襲ってくるんです」
「…っ!そうか…」
「だから、まとまる前に、定期的に討伐に行く必要があるんです」
ようやく私達の言葉の意味が分かったのか、先輩は一瞬衝撃を受けた顔をする。
「つまり、お前達が言いたいのはこういう事か。動物は草食類か肉食類などと様々に分類されるが、魔物は元の分類とは関係無しに集まる習性があると」
「はい…」
「そして、それを防ぐ為にこの2つの国の位置関係では、定期的に遠征に出る必要があるから、外回りの兵士がこんな軽装鎧で行動するのはおかしいと」
「そっ、そうです!!」
先輩の確認のような質問に、私とタイガは、理解して貰えた嬉しさに顔を見合わせると、コクコクと先輩に頷きを返す。
私達のあんな説明を聞いて、自分で理解するだけじゃなくて、要約までしてくれるなんて流石はスイネグ先輩だ。
「なるほどな…俺もあの人も、複数国家が一斉に衣替えしたのを、そういう文化もあるのか程度にしか考えていなかったが、どうやら想像していたよりも、事態を重く見ないといけないようだな」
「あっ…」
そう言って、先輩が事態の認識を新たにするのを聞いて、私は自分の頭の中で、何か引っ掛かりを覚える。
「どうしたの?アルト…」
「しっ!」
急に動きを止めた私に、タイガが話し掛けようとするが、スイネグ先輩がそれを短い言葉で止める。
『すみません、スイネグ先輩』
けれど、今の私は周りに反応してやるほどの余裕が無かったので、心の中だけでそう言うと、考える事に集中する
「そうか…何で気付かなかったんだろう」
しばらく考えて私は、一つの可能性に思い当たる。
「何か分かったのか?」
「いえ、確証は無いんですけど…」
「構わん。話せ」
そして、私が顔を上げると、タイミングを見計らってたように先輩が声を掛け、続きを話すように促す。
「えっと、それじゃあ…まず最初に、この鎧は…アリアス大陸で開発されたものではありません」
「わざわざベネウッドから持ち込まれた物だと?」
「はい。こっちの大陸ではそう珍しく無い形なのかもですけど、向こうでは中央とかぐらいでしか、着られる機会の無い物なので」
そう。それこそが、写真を見せられた時に、私とタイガの反応に差が出来た理由だった。




