43 鎧
「来たか。あぁ、今日はそれは机に置いとけばいい。適当に座ってくれ」
研究室に入ると、私は何時もの癖で持ってきたノートを広げようとしたのだけど、その前にそう言って先輩から静止が入る。
「それじゃあ、今日は早速本題からですか?」
「あぁ。どうせいつもの方は対して進捗も無いだろうからな」
「別にそんな事も無いですけどねー。ねっ、タイガ」
「うーん。良く分からないけど、そうなのかな?」
「まぁ、そっちの方も後で聞くから良い」
いつもの方というのは、私がタイガに魔術を教えて、どれくらい感覚を掴めたかなどの報告な訳なのだけど、恐らくそちらの研究は囮として使ってるからか、先輩はなんともぞんざいな対応だ。
だが、先輩にとっては囮でも、私にとっては幼馴染が頑張っている記録でもあるので、いつもより強めに抗議しておく。
ただ、別に急いでる内容でも無いのも確かなので、この話はそこで一旦終わりになる。
「それで?今日はタイガも連れてきましたけど」
そう、今日の本題は、スイネグ先輩がアリアス大陸の人に聞きたいことがあると言うので、わざわざ休日にタイガのことも引っ張り出してきたのだ。
一応、レイナも同じアリアス出身ではあったのだけど、彼女は休日だったので、私をスイネグ先輩に引き合わせた人物、サク先輩と一緒に居るかと思ったので、声は掛けずにいた。
先輩が何を聞きたいかまでは知らされていなかったけど、部屋に私とタイガしか来ていなくても何も言われないので、どうやらそれで大丈夫なようだ。
「そうだな。とりあえず説明の前に、これを見てくれ」
そう言うと先輩は、何やら鎧を着ている人の写った写真を見せてくる。
「お前らはこれを見て何か感じる事はあるか?」
「えっと…」
「何でもいいから、率直な感想を聞かせてくれ」
「うーん…」
その写真を見せて、先輩が意見を求めるのだけど、その問い掛けがあまりにも漠然としすぎてて、私もタイガも首を捻る事しか出来無い。
「まぁ…なんとなく動きやすそうだなとか?」
「ちなみにこの写真は、アリアス大陸で撮られたものだ」
「アリアス大陸で?」
とりあえず、このまま黙っていても仕方が無いので、私は思った事を口にしてみるけど、次いで出された情報に何かを感じたようで、タイガがそう呟く。
「アルト、なんか…この形…」
「あっ!…えっと、これって本当にアリアス大陸で撮られたものですか?」
「そうだ。何か分かったか?」
と、タイガが写真を指差しながらそう言う事で、私も彼が言わんとしていることに気が付く。
「あの…アリアス大陸の鎧にしては、見た目が軽そうと言うか…」
「おれ達の知ってる鎧は、もう少しふっ飛ばされにくそうな感じので…」
「ふむ…やはり、お前達からもそう見えるか」
「はい。あんまり向こうで見る形じゃないような…」
それを、どういう風に言えば伝わるのかが分からなくて、私達は交互にたどたどしく説明する。
「そうか。だが、この写真の送り主いわく、この形が最近増えてきているそうだが?」
「そうなんですか?でも、私のいた時は…」
どうやらこの写真を撮ったのは、先輩の知り合いのようで、鎧のデザインが変わったのを見せるために送ってくれたらしい。
それが、1年前に私が故郷を出てきた時点では、あまり主流の物ではなかったのだけど、最近まで向こうにいたタイガにとってはどうなのだろうと、チラリと彼の方を見てみる。
「うん。おれがいた時も、こんな形の鎧着てる人は、近衛兵ぐらいだったけど」
「先輩、その写真を送ってきた人って…」
「送ってきたやつはただのギルド員だ。そして、この鎧が普及し始めているのは、各国の外回りの兵士達だそうだが」
「えっ?でも、それだと…」
彼が出てきた時も、そこまで状況に変わりはなかったそうだけど、先輩の話で違和感が更に増していく。
「外回りでこんな鎧だと、大型の魔物とか出た時に、対処出来なさそうじゃない?」
「タイガもそう思う?」
「俺は、向こうのことは詳しくは知らないから何とも言えんが、やはりお前達はこの状況を不自然に感じるか」
私達の違和感の正体がはっきりしてきたところで、ようやく先輩が今日の本題の詳しい説明をしてくれる。
写真の送り主は先輩の知人で、今年ベネウッド学園を卒業生し、ギルドの職員としてアリアス大陸に赴任したらしいのだけど、最近急に、鎧の形を従来の物から写真のものに変える国が増えてきたそうで、このような事は珍しく無いのかが気になったらしい。




