07 優秀の基準
「はぁ。上手く伝わって無かったようだから俺からも言うが、お前は俺の研究に必要無い。用がそれだけならこれでもう済んだだろう」
スイネグ先輩は、ワタリの目的がそれだと分かると、これ以上話すことはないと言わんばかりに、少しぶっきらぼうな態度で退室を促す。
「なっ!そんな!?ボクが必要無いなんてそんなの嘘です!!」
それを聞いて、ワタリが納得するはずもなく、大声で抵抗の意思を示す。
しかし、先輩はそれに取り合うことも無く、口を開く者は居なくなる。
そして、しばらく室内に静かな時間が流れたかと思うと、『ふっふっふ…』とワタリが不気味な笑い声をあげる。
「確信しましたよ。やはりスイネグさん、貴方もアルトレアさんに誑かされてるんですね!」
「誑かす?」
どうやら、この状況でまだ、ワタリは私への疑いを晴らして居なかったらしい。
と言うよりも、私なんかが自分よりもスイネグ先輩に、必要とされるなんて有り得ないと考えているのだろう。
「スイネグさん。貴方は私達のクラスとあまり関わりが無いので、知らないかもしれないですが、彼女は、アルトレアさんはAクラスの中でも最下位の成績を取っているのです!」
「っ……」
ワタリが喚いている内容は、当然先輩も知っている。
いつもだったら、こんなこと言われたところで私も気にしなかっただろう。
だけど、今日はタイガが居た。
私の事を、昔と変わらず尊敬の眼差しで見つめる彼が。
この場で、『そんなことはない!』と怒鳴り返すのは簡単だろう。
だが、それをしたところで私が今、魔術を満足に使うことが出来ない現実が変わる訳じゃない。
それよりも、この話を聞いてタイガから失望の目を向けられる方が怖かった。
そう考えたせいだろう、ワタリのその言葉に、ついタイガから顔を背けて、後ろめたい気持ちが態度に出てしまう。
それがいけなかった。
「ほらっやっぱりだ!ボクの言ってることは正しい!彼女が動揺しているのがその証拠です!!」
と、彼が調子付くのが、顔を見なくても分かる。
「はぁ…。仮にお前の言うことが全て正しいとして、何故俺がお前を選らばなければならない?」
それに対して先輩は、彼が中途半端な対処では、諦めるつもりが無いのだと理解したようで、溜め息を吐きつつもワタリの方へ向き直る。
「ふっふっふ。ようやくボクの話を聞いてくれるのですね。まぁ、ボク達は天才同士分かり合えることも…
「くだらない自慢話をするつもりなら、この部屋から追い出すぞ」
その調子のまま話そうとしたワタリだが、先輩の意思を感じ取ったのか、彼もまた先輩の方へと向き直る。
「ボクは、彼女が貴方の助手に相応しいとは思いません」
「ほう、何故そんなことが言える」
「彼女は、Aクラスを名乗るには明らかに実力不足です。それは貴方も感じていますでしょう?」
ワタリの言葉に、タイガが何かを言おうとしたが、私はそれを首を振って押し止める。
例え、私を詰る言葉や彼の先程までの態度に不満があったとしても、今の2人は真剣に話し合おうとしている。
邪魔をするべきではないだろう。
「それはお前が勝手に感じているだけだろう。少なくとも、学校はそう思っていないから、こいつはAクラスに在籍してるんだろ?」
「だ、だとしても…ボクは彼女より成績が上です!そのまま彼女を助手にしているよりも、ボクの方が役に立ちます!」
「ふん、学園のくだらん基準で助手を決めたつもりは無い。それに、お前のその理論で言うなら、お前よりもSクラスやSSクラスの奴を助手にした方が良さそうだが?」
「ぐっ…確かにボクはAクラスですが、氷魔法を使えます。この学年で性質変化まで手を出している人はそうそう居ないでしょう」
「それもアルトレアに教わったやり方でだろう?」
「ぐぐ…」
ワタリの勢いに比べて、先輩は淡々と言葉を返しているだけなのに、ワタリは徐々に追い込まれていき、ついには悔しそうに呻き声をあげるだけで黙り込んでしまう。
「まぁ、教わってすぐに習得出来た辺り、確かにお前は優秀なのかもしれないがな」
「っ!」
「だが、俺は教科書通りに出来るだけの奴に興味はない。こいつは既に、俺に無い知識や技術を提供したが、このままお前を助手にしたとして、お前は俺に何をもたらす?」
「ボク…は…」
それでも、認めるべき所は認めると言うような発言に、ワタリは一瞬嬉しそうに顔を上げるが、続く言葉に再び俯いてしまう。
「俺は、自分の研究結果を吸うだけの寄生虫を、わざわざ助手にするつもりはない。お前が本気で俺の助手になりたいと言うならば、相応の成果を持ってくるんだな」
「相応の成果なんて、そんなの…」
「ふん。俺の協力者達は、助手を断ったとしても、何かしらの成果を共有している。それすら出来ないようであれば、お前との話もここまでだ」
それを見て、先輩は最後通告のようなものをして、ワタリから視線を切る。
そして、その様子を黙って見ていたタイガは、私の方を見て自慢げな顔をするのだった。




