episode4 5人で一つ
「そんじゃ授業おわんぞー。チッ。福岡!号令しろ号令を!」
「あいつ寝てるやん」
「緋月!起きろ!」
「え、あ、はい!きりつ!」
やっば寝てた。
教卓を見ると、ブチギレてる担任がいた。
こりゃあまずい。
「気をつけ、礼。あぁぁぁ!づがれたー」
私はまた机に突っ伏せた。昨日ドラマの一気観したせいで眠すぎる。まぁ15分寝ればなんとかなるっか。
「おい福岡ー?」
「あ?」
「ちょいと来い」
もうなんなの。めんどくさ。
私は廊下に出た。
「なんですか?」
「島田に連絡ついたか?」
「とっくについてるわ」
「あいつはどこにいるんだ」
「は?知らないです」
「教頭が島田島田ってうるせぇんだよ。上に報告するためにも、何回言い訳くれ」
いや、なんで私がそんなことしなきゃいけないの。それはそちらの問題でしょう。
「えーもうなんか体調不良とか言っとけば」
「その技は5回目だっ!教頭も島田の悪行把握し始めてるんだよ!」
「うっそ〜。でも琥珀はもう更生してますよ?校長にもそういうふうに言っといてください」
琥珀は学校内でも有名な元不良。
もう更生したというのに、変な噂のせいでまだ不良だと言う人が一定数いる。
私は担任に会釈をしてその場から離れて教室に戻った。
「緋月〜こっちこいよー」
凪に呼ばれて、凪たちの席に行った。
「また琥珀のこと?」
「うん」
「放課後来るかな」
「呼べば来るよ」
「功太くんも、放課後海行く?」
「海?」
「うん。今日みんなで海行くの!あ、もちろんこいつらと琥珀も」
私はそう言いながら読書をしている海吏と肩を組んだ。海吏は嫌がったが、その上から凪も肩を組んできた。
「じゃあ、俺も行く」
「うっしゃーー!!!緋月な〜いっす!」
「いえーい!」
3人でハイタッチをした。
「あ!功太くん笑ったー!」
「 3人が本当に仲がいいから、つい」
「功太笑った方が爽やかでいいじゃーん」
功太くんはシーンとしているよりも、凪みたいにキャピキャピしている方が似合う。
「俺ら4人、小学校からの仲なんだよ」
「そうだったんだ」
「特に海吏と緋月が仲良くて、俺と琥珀が仲良いって感じで、そこの2組が合体したって感じ」
「通りで海吏と緋月の掛け合いが上手いわけだ」
「え、うそ?海吏と私が?」
「うん。ちょー面白い」
私は少し照れ臭く笑った。
「はーいみなさん座ってくださーい!」
3限は家庭科の授業だった。
「起立、気をつけ、礼」
「さようなら〜」
6限の授業が終わった。
私は自分の机で荷物の整理をした。すると、すでに支度を終えた凪が走ってきた。
「おーー危ないなー!」
「早く行くぞ!海吏ー!功太ー!まだかー?」
「今行くー!」
海吏はいつもの如く支度が遅い。
功太くんはもう終わりそう。
「あ、琥珀だ。なにー?」
『もういるから早く来てー』
「はいはい。そういえば、功太くんも行くから」
『おっけー』
「おーい琥珀ー!!もうすぐ着くぞー!」
隣にいた凪が電話に向かって叫んだ。
『まだ学校だろ』
「凪うるさい!んじゃまたあとで」
私は電話を切ってポケットにしまった。
功太くんは凪のとこに来ていた。
「海吏行くよー!」
「もう行ける.....おっけ!」
「早くしろ!」
「ちょ待って!早すぎる!」
私たちは廊下に出て全力ダッシュをした。
「こら!廊下走んなぁぁぁあ!」
「やっば!緋月早くしろ!」
「あっはっは!待って!」
「福岡お前ーーー!!!!」
「おせーぞ担任!」
「担任じゃなくて小林先生て呼べぇー!!!」
下駄箱から外に出た。すぐ右に行けば駐輪場がある。「かぎっと.....あ、そうだ!」
朝に、自転車の鍵を無くしたんだった。
うそでしょ、どうしよう———!
「緋月!何やってんだ!」
「鍵が!鍵がないんだった!」
「鍵.....?ねぇ!」
「なにー!」
「鍵ってさ、もしかしてこれ?」
功太くんはポケットに手を突っ込んで、中から、私の鍵を取り出した。
「え!?なんで!なんで持ってるの!投げていいよ!」
「いくぞ!ほらっ!」
鍵が、大空を飛んだ。
「おっけ!やっば!」
私は急いで鍵をさして自転車に乗った。
「福岡明日は覚悟しろよーー!!!」
「バイバーイ!」
正門で仁王立ちになっている担任に手を振った。
「お待たせ!」
「いくぞー!」
私たちは横並びになって道路に出た。
たったの数秒だけ走れば、そこはもう———
「うみだーー!!!!!!」
車輪は喜んで江ノ島電鉄線沿いを走る。
「ふぉーーー!!!!」
「気持ち良すぎぃぃぃー!!!!」
「功太くんも叫びな!」
「俺もか.....」
功太くんは大きく息を吸った。
「あのクソビッチ許さねぇぇぇぇ!!!!!!!!」
えっ?いま、なんて?
「功太いまなんつったーー!!笑」
「”ビッチっ!”って言ったぞー!!!」
「海吏うるせぇ!」
「ビッチはやばーーーい!!!!」
「お前らビッチビッチうるさい!」
この道を超える道は日本中どこを探してもない。
「こはくーーー!!!!!」
「1人で黄昏れてんじゃねぇーーーよーーー!!!」
自転車を走らせて10分。
腰越海水浴場の誰もいない端の方に、有線イヤホンをつけた琥珀が1人座っていた。
自転車を砂浜の手前に置いて、みんな鍵はそのまま。走って琥珀の元に行った。
「あんた先に帰んじゃないよー!!」
「ごめんって。てかお前ら早すぎだろ」
「まさか琥珀.....お前ずっとここにいたのか!?」
「んなわけないだろ。よしおばちゃんのとこ行ってから来た。そんでほら、お前らにも!って。なんか張り切ってたよー」
琥珀は手に持っていたビニール袋を凪に渡した。
「お!もしやもしや.....きましたーーー!!おいお前ら!じゃんけんすっぞ!」
「あぁ。望むところだ」
琥珀が渡してきたのは、行きつけの駄菓子屋のアイスだった。
「おいおい待て待てー!あたしらもジャンケン参加させろよー!なぁ琥珀!」
「あ、あぁ」
「ほら功太も!負けたやつどうする?」
「んー.....」
「海にダイブだろ」
「うぜぇー!笑」
琥珀は平然として酷なことを言う。まぁそれが面白いんだけどね。
「それじゃあいくぞ.....最初はぐー!じゃんけん!ぽん!」
「出席番号、15番!瀬賀海吏、行ってきます!おらぁぁぁぁぁ!!!!」
「なんであいつわざわざ半袖になるん」
「そんでガリ勉野郎なのに、俺より鍛えやがって.....うっし!俺も行ってくるわ!」
「え?」
「海吏ーーー!!!!!!」
「おぉ!凪!宣戦布告か!?」
「お前だけは倒すっ!」
「やってみろー!!はっはっは!!!」
「本当にガキだわ」
私は琥珀と腕を組みながら2人の様子を遠くから眺めた。
「功太ー!!!お前も来いよー!!」
「功太くんも行ってきなよ!」
「いや、俺は.....」
「あんた男のくせに日和ってんの?」
「別に日和ってねぇーし!水なんて怖くねぇーし!」
「お前らイチャついてねぇーでさっさと来いよー!もう緋月も琥珀も来いよー!」
「はぁなにいって.....」
「琥珀!いくよ!」
「あちょ待ってって!」
私は琥珀の腕を思い切り引っ張った。
「ほら!功太くんも!」
「もう俺と海吏びしょ濡れなんだけど!」
5人で海に飛び込んで、膝から崩れ落ちるまで遊ぶ。アイスの当たり棒はだいたい10回に1回。当たればもう一本おまけでくれる。
夕日は毎日沈むくせに、当たり棒はたまにしかこないなんて、理不尽な世の中だ。
私は江ノ島に沈む夕日を見た。
「緋月ー!夕飯食いに行くぞー!」
「いまいくー!」
今日も湘南オンリーの風がなびいていた。




