これがヒ・ミ・ツなの!
「あー疲れた」
ルナは、一人で競技場を出る。セレナは、使い魔のユリを探しに行き、シャーレイは自身の姉と会い、他の人も家族や挨拶に行っている。
ルナが一番初めに競技場を出たと言っても良いだろう。
「さーて、ライカ、ライカ…どこだ?」
ルナの専属従者ライカは今日も仕事をしているはずだ。従者に仕事は無いも同然だ。しかし、今日は君命を使いライカを無理矢理休ませた…はずだったが上手くいかなかった。
「迎えに来るって言ってたよね…どこだろう」
確かにライカを休ませる事は出来たが、ルナの魔術戦を見に行くと言い出した。
『お嬢様の晴れ舞台を見に行かないくせ者はおりません。私は必ず見に行きますので』
ライカからは絶対的な意志を感じた。
そして、ライカは自分がいつも通り迎えに行くとまで言っていた。
歩いて帰ると言ったが聞かず折れたのがルナというわけだ。
「うーんと、どこだ?」
「…何をしているのですか」
「うげっ…」
ルナは振り返る。後ろには自身の兄、マリノがいた。とても迷惑そうな顔をしている。
「兄に向かってなんですか…貴方、私の扱い方酷いですよね」
「えぇ?お兄ちゃんだし。てか、ライカ知らない?」
「ライカさんなら馬車を取りに行っていますよ」
「えぇ?やっぱ歩いて帰れば良かった…」
ルナはムスッとして壁に寄りかかる。まだ中にいる人は外に出てこないだろう。馬車は沢山止まっているが御者がいない事が証だ。
ルナは突然キョロキョロし始める。
「…ねぇ、お義姉ちゃん来てたりしない?」
「何故フィラが出てくるのですか…」
「だって会いたいんだもん!!!日常に彩りが欲しい!」
「そんな色彩のように妻を扱われても…」
「いっっっつも独り占めだもんね。ずるいなぁ?」
「いいでしょう?」
「腹立つ!!!」
ルナがシャーレイの様に余裕を崩さない人が苦手なのはこの兄と言う存在もあると思っている。マリノは中々余裕を崩さない。崩しても直ぐに治る。
とてもルナにとっては腹立つ人だ。
「貴方に聞きたいことがあるのですが」
「なんですかぁ?」
「貴方、何をしていましたか」
「は?魔術戦…何また視力落ちたの?そろそろやばいんじゃない?」
「まだ手のつけようはありますからご心配なく」
サラッと返される事にルナは段々とイライラしてくる。ルナは特別に短気という訳でないが余裕のある人を見るとなんか腹が経ってくるのだ。
「何してたって何?」
「貴方、魔力随分と残っていますね。半分以上と言う所でしょうか」
「…は?」
「魔術戦では、貴方よりも魔力のある人が失格になっていました。ですが、貴方は半分以上残っている。魔術でも行使したのでしょう……半利用魔術でも使ったのですか」
半分利用魔術。魔術を行使する際に使う魔力を半分に抑える魔術だ。上級魔術師などが長期戦の時に使う魔術でもある。
少なくとも学生のルナが教わっているはずがない。
「違うよ」
「では、セレナさんに何かをさせましたか」
「それも違う」
ルナは、壁から離れて少し歩き出す。マリノもそれについて行く。まだ昼間だ。夕暮れには程遠い時間である。
「何をしたか答えなさい」
「えぇ?そんな安くないよ」
「……はぁ、何が欲しいのですか」
「え、買ってくれるの⁉じゃあ…あそこのカフェのケーキ三種類!!」
「……良いでしょう。自分で買ってきなさい」
ほら、とマリノは銀貨二枚をルナに渡す。ケーキ三種類にしては多すぎる金額だが残った分はお小遣いにして良い、という意味で受け取ったルナは、喜んでケーキを買いに行く。
店から出てきたルナはちゃっかりとアイスクリームまで買っている。
「美味しい!やつぱり最高!」
「それで、何をしたのですか」
「セカセカしてるな。時間に囚われすぎてるんじゃない?」
「そうですが何か?」
「…すみませーん」
ルナは対して反省の無い言葉をいいながら王都の街を歩いていく。貴族の屋敷はこの辺に集まっているのだ。もちろん、ルナの自宅プラターヌ本邸も王都にある。
「…セレナに、教えて貰ったの」
「そうですか。半利用魔術では無いなら何を教えて貰ったのですか」
「半利用のさらに半分の魔術」
「……はい?」
ルナは平然と答えていく。アイスクリームが夏の暑さで少しづつ溶け始めている。ルナは、最近庶民の間でも流行っていると聞いて喜んでいる。
もしかしたらセレナとも食べられる日が来るかもしれないと。
「…四分の一ですか…確かにあの娘ならやりかねないですね…」
「…でもさ、私上手く出来なかったんだー」
「当たり前でしょう。上級魔術師でも出来る人はなかなか居ません」
「へぇ…だから、四分の一じゃなくて三分の一になったのか…」
ルナはサラッと恐ろしい事を言い放つ。半利用魔術が習得できるのに必要な期間は半年から一年。さらに四分の一に抑え込むのは二年ほど。
四分の一では無く、三分の一にまで押さえ込んだルナ。そんなルナの練習期間は1週間だ。
「…中々恐ろしい妹を持ってしまいましたね…」
「うわ。最低」
マリノの独り言にルナは突っかかる。空いていた左手でパンチを入れようとするも止められる。
イラッとしているとライカの声が聞こえてきた。
「お嬢様!!申し訳ございません馬車が現在故障中でした…大変申し訳ございません…。若様もお嬢様に付き添って下さりありがとうございます」
ライカは慌てた様子で走ってきた。服装はいつもと変わらずキチッとしている。いつもと違うと言えば髪が乱れているくらいだろう。
「だいじょーぶ。ライカ帰ろ」
「申し訳ございません…あ、若様も本邸によられますか?」
「いえ、私はこれで」
マリノは、ライカとルナを見たあとに競技場の方へ戻る。セレナ曰くあの競技場の運営は天八座がやってるらしい。最後の見回りも仕事なのだろう。
「ねぇ、ライカ!お兄ちゃんにケーキ買わせたけど食べない?」
「そうなのですね。ですが、お嬢様がお食べ下さい。私はケーキに合う飲み物をお出しします」
ライカとルナは、共に歩きながら自宅へ戻った。
ルナ・プラターヌ
男爵令嬢。実はとんでもない可能性を秘めている
マリノ・プラターヌ
男爵令息。実力者。
ライカ・アンレラ
男爵末娘。我が主のためならどこにでも行く人。




