7,ドキドキ模試返却
セレナは自身の机で小さくなっている。
現在、学園では模試の結果が返されている。廊下にはそろそろ学年順位が出るだろう。学年順位は一位から最下位、つまり百五十人分の順位まで全て出るのだ。
学生にとっては辛いものである。
「さて、これから模試を返す。受け取るように」
教師はそういうと指を回し魔術で模試を返す。
当然セレナの方にも返ってくる。筆記試験の模試の結果のみが今回返される。貴族の嗜みである姿勢、社交ダンス、対話は既に評価された。セレナ以外の全員は最高評価の六か五を貰っている。
セレナのみは最低評価一を貰った。進級に必要な最低ライン評価は四。
夏だがセレナは既に崖っぷちに立っていた。
(無理無理無理…お願いします…いい感じの評価を…)
返ってきた答案と評価の紙をみる。
周りが少しザワついている中セレナは固まる。
(語学は六、魔術は三、数学は五……科学と世界史が二……?)
魔術に至っては目立たぬようボーダーラインスレスレを狙って行使した為問題は無い。しかし、世界史と科学が二と言う評価を取ってしまった。
「さて、今回の総合一位は一組所属アーサー・サンキュアリー。二十六の科目のうち二十一科目を評価六を収めた」
セレナは、いつかのルナの言葉を思い返す。確か、ルナは青い髪でメガネを掛けている人をアーサーと言っていた気がする。
(へぇ…あの人頭良かったんだ…)
セレナは、自分の事を棚に上げて聞いていると教師はさらに口を開く。
「魔術単体では一組所属トール・ナンシェがトップだ」
こちらは聞いた事ない名前。しかし、セレナは全く興味が無さそうだ。
セレナの頭の中は補習と再評価テストと天八座で埋まっている。
「じゃ、あとは自分で見ておけ」
それだけを言うと教師はさっさと教室を出ていった。どうやら最近忙しいらしい。
教室にいた生徒は皆揃って廊下に出る。
セレナは出遅れた為大人しく教室で人が少なくなるのを待つ。その間に二十六の科目の評価全てを足して平均で割る。
進級に必要なのは平均四の評価。
セレナが現在持っているのは平均三・三。
全く足りないのだ。
(ど、どうしよう……去年は貴族の嗜みとかやらなかったから四いけてたのに…どうしよう…留年は嫌だ…)
セレナが突然頭を抱え出したことに戻ってきていた同級生は哀れみと平民だからだという視線を向けてくる。
平民のセレナが貴族の嗜みを知らない事を貴族達は知っていて誰も教えなかった。いや、誰もは言い過ぎだ。
一人以外は誰も教えてくれなかった。
(人…いない。行こう)
セレナは立ち上がりノロノロと進む。大きく壁に貼ってある紙には全員の名前と前回順位、貴族階級が乗っている。
セレナの名前は百六番目。前回順位は九十九。貴族階級は平民と書かれてある。
(うぅ…前回保険かけておいて良かった…)
この魔術学園は国内屈指の魔術学校。その為なのかは分からないが、二度連続で順位百以下を下回ると補習を毎日放課後に受けさせられる。
その補習が終わった後にテストをする。そして、点数が良くなければ退学という地獄みたいなルールがある。
前回、セレナは危ないと思ったのか魔術でどうにか持ち上げたという訳だ。そのせいか、平民のセレナ・リブロは治癒術が一番得意だと認識されている。本来一番得意なのは攻撃術だと言うのに。
「やっほセレナ!今見てるの?」
「…ルナ。えっと…そう」
「セレナ、セレナ……百六かぁやっぱりもう少し教えてあげればよかった…」
「き、気にしないで…わたしが悪いから…」
セレナに貴族の嗜みを教えたのはルナだ。簡単なテーブルマナーに姿勢、対話。全てを広く浅く教えていた。
しかし、セレナの気質的にか体質的にか性質的にか全く使えなかったのは言うまでも無い。ルナは大分責任を感じているようだ。
「えっと…る、ルナの順位は?」
「えっとねぇ…三十七!」
「すごい…」
確かにルナの名前の隣には三十七の数字がある。どうやら前回順位は五十二だったらしい。すごい進歩だ。
「る、ルナ…すごいね。沢山順位上げてる」
「ありがとう!魔術はお兄ちゃんこき使って、筆記はライカに夜な夜な教えてもらったの!」
ルナはキラッとした視線をセレナに向ける。どうやら大分頑張ったらしい。
セレナは、全く努力なんてせずに模試を受けたのだ。あの結果なのも納得だろう。
「あら、貴方達はいいわね。何もないのだもの」
ルナとセレナの後ろにいたのはシャーレイ。今日も今日とて扇子を持っている。よっぽどお気に入りなのだろう。
「ふふ、シャーレイじゃないの。どうかしたのかしら?」
ルナは一瞬でご令嬢になる。この切り替えの速さは見習いたいが、セレナ自身としては少しだけ胸がモヤモヤする。
「成り上がり男爵令嬢に平民。呑気に過ごせていいじゃない」
シャーレイは淡々と言っている。やはり成り上がりと平民が嫌いなのだろうか。すごく生きずらそうという感想を持ったセレナは順位表に目を向ける。
(シャーレイ……いた。三十一。ルナと変わらないな)
シャーレイは自分の順位を確認した後、少しルナに喧嘩を売ってから自身の教室に戻る。
「別に悪い子じゃないけど、面倒だなぁ…」
「ルナ……」
侯爵の三女という立場のシャーレイ。きっとセレナには理解出来ない重りを背負っているのだろう。ルナもそうだ。男爵の令嬢という重さに彼女の兄が相当な人であるからそれのプレッシャーもあるだろう。
(普通……ってなんだろう)
セレナはそう考えながらルナと少しの会話を楽しんだ。




