8.お家に帰ろう
前回のあらすじ
身分証、燃える。
「主!」
呆然と立ち尽くしていたセレナの元にユリが飛んできた。
「主…あるじ?どうしたんだ?」
何も言わないセレナにユリは疑問を抱いた。ただ呆然と、床を見ているセレナ。その目は何も見ていない。
「……」
セレナは何も言わずに指を鳴らした。外からは火が消えた!という歓声が聞こえてくる。セレナが、炎を消したようだ。ユリの竜巻も同時に消したのだろうか。先程までカタカタとなっていた窓は静かになった。
「セレナ様」
高い声が響いた。後ろにはどこにいたのかチーロが立っていた。テチテチと床で意識を失ってる三人に近づく。ペシペシと男を叩くも何も言わない。
「意識を失ってるだけなのね」
「うわ、ほんとだ」
チーロの声に便乗していたのはリーナ。外は落ち着いたのだろう。
「何したのよセレナちゃん…」
リーナは完全にセレナのせいだと思っている。半分正しいのでなんとも言えないセレナだ。
「えっと……その、ただ、聞いただけ…です」
セレナは多分正しい事を言う。手は胸元できつく掴んだままだ。
「あと、その…勝手に身分証、燃えました」
「は?」
リーナはよく理解出来ていないようだ。チーロとユリは意識を失ってる三人の顔をペシペシしたりクルクル回っている。使い魔とは自由だ。
「その、確認したら、多分、魔術で…燃えました」
「いや、ありえない…野次の中にいたの?てか、それこそ魔術法違反じゃん」
「その、わたしは魔術…使ってないので多分…遠距離から」
リーナはその言葉に反応する。
「チーロ、周辺の転移魔術形跡調べて」
「分かったわ」
チーロは意識を失ってる三人から離れ、羽を大きく広げた。考え込んでいるようだ。この状態についていけていないのはセレナのみ。ユリはそもそも聞いてすらいない。
「えっと…何を?」
「野次にいたならすぐ逃げたはず。転移魔術でね」
「た、確かに…」
セレナは納得したようだ。ぽんと手を叩いた。
「リーナ、この辺りで転移魔術は使われてないわ」
「ちっ、逃げられた」
チーロに言われた言葉にリーナは舌打ちをしている。はぁ、とため息をついて男女三人の近くに行く。
「てか、セレナちゃん。身分の中身とか覚えてる?」
「えっと、はい」
「お、ナイス」
三人を一箇所にまとめたリーナは、荷物も一箇所にまとめ始める。多分、転移魔術で騎士団本部に行くのだろう。セレナも手伝いを始める。
「えっと、三人とも魔術師ではなかったです」
「うげ、マジかぁ」
こりゃ面倒だ、と言いたげの渋い顔をしている。ユリとチーロの二人…二名は窓にいる。何をしているのかコソコソしている。
「その、共通点はそれくらい…です」
「はぁ?少な。面倒すぎるでしょ」
リーナはすごく嫌な顔をしている。最後の荷物をまとめ終え、いつの間に創り上げていた術式陣の範囲内に投げ入れた。帰れない…とリーナは嘆いている。
「…はぁ、チーロ、ユリちゃん行くよ」
リーナは術式陣の真ん中に経ち二名に声を掛けた。セレナは術式陣の端っこにいる。ベネチアンマスクは手に持っている。
「リーナ!リーナ!!ここに紙があるわ」
「主!主!なんかあるぞ!」
チーロとユリはそれぞれの主人となる人に声を掛けた。二人は不思議そうに窓に近づく。そこにはメッセージカードがあった。
「なにこれ」
リーナは持ち上げる。月に透かしても何も見えない。無地のメッセージカードだ。
「あの三人の誰かの?」
リーナは目を細めてカードを見るもやはり何も書いていない。セレナも覗き込む。何も書いていないシンプルなメッセージカードだ。
「なんですかね…?」
セレナも分からないようだ。顎に手を当てて考え込んでいる。
「主、主、甘い匂いするぞ」
「甘い?」
「甘い」
セレナはユリの言葉に何か引っかかったようだ。少し悩んだ後、あ、と声を上げた。
「その…リーナさん。もしかしたら、それ、炙り出しです」
「炙り出し?あー、文字浮かぶやつ?」
「はい」
リーナは詠唱をして、指先に魔術の火を出す。そして、火をカードの下に持っていく。
変化は無かった。
「…すみません」
「いや、もしかしたらマッチとかでならいけるかも。後でやってみる」
リーナはローブにメッセージカードを入れた。
「じゃあ騎士団に行こっか」
リーナは取り出した杖で術式陣を指した。
✿✿✿
「セレナちゃんありがとねー。助かった」
意識不明の三人と共に騎士団転送した後、セレナ達は騎士団を出た。王国は暗闇に染まっている。
「さーて、ウチは本部よってから帰るわ。セレナちゃんどうする?」
「わた、わたしは…帰ります…」
「ほいほーい」
リーナはその返事を聞いたあとくるりと周り王宮の方へ向かう。
「では、ユリ様、セレナ様失礼します」
チーロもリーナの後をついて行く。セレナとユリはその様子を見送り王宮とは反対の方へ歩く。
「主、新しい花が欲しい」
「えぇ…この間買ってきたじゃん…」
「ついでに主の食料」
「いらないよ…」
先程まで魔術を行使していたとは思えない会話をする二名。リーナはその二名を眺めていた。少し優しく、少し厳しく。
「リーナ?」
チーロに呼ばれリーナは振り返る。
「なんでもなーい。あー、これから仕事かぁ」
腕を頭の上でくみ、明るい王宮にリーナは歩いていく。




