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星撃ちの魔術師  作者: 星宮 しずく
2章 番外編
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3.花屋のお客さん

 花屋の朝は早い。お店を開ける前に花の仕入れをし、管理をし、ポップを作る。中々大変な事だが、花屋の店員ハイエルにはそこまで苦労を覚えて居ない。

「すみません…」

「はい、なんでしょうか」

 スーツの襟を直し、ネクタイを忙しなく触っている男性がやって来た。ハイエルは花に水を上げていたジョウロを棚に置く。

「なにか、花を頂けませんか…」

「かしこまりました。少々お待ちください」

 ハイエルから少し離れ赤いバラを取りに行く。棘が付いていないか確認し、注文の花を注文客に持っていく。

「こちら赤いバラ二本です。花言葉は愛情、情愛、熱烈な愛、美…などです。バラ二本でこの世界にはあなたと私二人だけ、互いの愛という意味があります」

 ハイエルが花言葉を意味と男性は少し動揺していた。

「な、なぜその言葉の花を…」

「花屋の勘です」

 花屋に来る多くの人は自分の大切な人に想いを伝える人が多い。必然と花言葉を尋ねる人も多い。その為、ハイエルが働く花屋では注文を貰った花を渡すと共に花言葉も共に伝えている。

 友人の結婚式に行く人には、ミモザ、ブルーブッシュ、ガーベラを。

 孫の入学式に向かう人には、ラナンキュラス、チューリップを。

 法事で涙を堪えている人には、白の菊、百合、カーネーションを。

 それぞれの想いがあり、伝えたい事がある。それを手伝うのがハイエルの仕事だ。

「こちら、お品物です」

 赤いバラを包み手渡す。この人はきっとこれから想いを寄せる人に伝えるのだろう。花屋にはそんな人も訪れる。

「ありがとうございました。またのご来店お待ちしております」

 ハイエルはこの仕事がとても好きなのだ。

 

✿︎✿︎✿

 

 昼過ぎ、金髪のいかにも困っています。と言う少女が訪れた。ハイエルは客に近づき声をかけた。

「お客様。何かお探しですか?」

 突然の声がけに驚いたのか、肩をビクッとさせバッと振り向いた。

 一瞬表情が、何も無い様に見えたが、ハイエルの顔と店のエプロンを付けている事を見ると表情に温度が戻った。金髪少女の服装は制服。名門魔術学園の生徒だとすぐに分かる。

(名門の学校の子か…お、お貴族様って事だよな。相当高貴な身分だよな)

 この辺で制服を来て歩く人はほとんどいない。平民は、制服がある所の方が珍しい。その為、制服を着ている者は貴族だと目をつけられる。

「あ、その、この花が欲しいのですが」

 女性から渡されたのは花の名前が書かれた紙。

「あぁ、ハルジオンですね。少々お待ちください」

 紙を持ったまま、ハルジオンのある場所に向かう。春の雨が降る時期なので、最近の花は生き生きしている。いつも美しいが、この時期はさらに美しい。ハルジオンを五束程手を取り、少女の方へ戻る。

「こちらハルジオンです。花言葉は、追憶の愛─」

「えっと、はい、それで大丈夫です」

「そ、そうですか。では、包みますね」

 特に女性客によく聞かれる花言葉を説明している途中で言葉を遮られた。ハルジオン単体で花束を頼む人とほとんどいない。

「お待たせしました」

「…はい」

 その言葉と共に渡されたのは、銅貨二十枚。ハルジオンの花束の値段は銅貨十枚。倍の値段だ。

「あのお客様、こちら銅貨十枚の花束です」

「…そう、なんですね」

 だからなんだ。と言う顔をされた。

(お貴族様は金銭感覚狂ってるなぁ)

「銅貨十枚お返しです」

 お釣りを渡す。少女は、なんとも言えない顔をしてお釣りを受け取った。

「ありがとうございました。またのご来店お待ちしております」

 店の前まで行き見送る。少女は、別の子の元に行く。

(とっても綺麗な子…と凛々しい女性…)

 ハルジオンの子は二人の元へ向かい少し話をしているようだ。

(ハルジオンの花言葉は追憶の愛、真実の愛、清楚。主に愛を告げるもの。バラや胡蝶蘭と一緒に渡すらな確かにちょうどいいのだけどな)

 そう考えながら店に戻った。

 

✿︎✿︎✿

 

 夕方。店仕舞いの時間だ。売上を見て、花の様子を見る。

「お疲れ様でーす」

「あ、お疲れ様です」

 一緒に働いていた同僚に挨拶をされる。ハイエルは、今日の売り上げをまとめたら今日は帰る予定だ。明日は昼過ぎからの出勤だ。

(あの人は成功したかな…)

 花屋に来た人のその後を気にするのはハイエルの性格故なのか、それとも職業病なのか。ハイエルには分からない。売り上げの欄にハルジオン五束、と書いた時、ふと思い出したのは昼過ぎに来た一人の少女。

 花に興味が無さそうに花束を受け取った娘。

「あの子は何をしたかったんだろう…」

 ハイエルは、帳簿を閉じて小さく息を吐いた。店の奥には、売れ残った花がいくつか静かに並んでいる。愛かもしれない。ただ欲しいだけかもしれない。

 ただ、ハイエルはあくまでお手伝いをする側だ。

「まぁ、いいのかもな」

 小さく呟き、ハイエルは店の灯りを落とした。

 想いを込める人もいれば、何も知らずに手に取る人もいる。

 けれど花は、そのどちらにも同じように咲く。

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