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暗殺者ですが、狂戦士扱いされて困ってます  作者: 砂糖 多朗
第三章 召喚勇者、転生狂人
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召喚の儀式

リンを殺すはずだったアラクネが、飛んできた剣に両肩を貫通されて崩れ落ちる。

剣を投げたのはノガミだ。護衛対象のリンを守るべく、周囲を取り囲んでいた魔蟲たちを塵殺し、無理矢理作った隙を使って投擲した。


だから、ここまでは彼女も理解できた。

ノガミなら魔蟲の群れ程度簡単に殺戮できるだろうし、正確無比にアラクネの動きを封じるような投擲をする事も可能だろうから、あり得ない事ではない。


だが、今のノガミの姿は?

手足がバラバラで、腹部が大きくえぐり取られた満身創痍の姿は、一体どういう事なのか?


冒険者たちが戦う音がやけに遠くに聞こえるのを感じながら、リン達は混乱した頭のまま、崩れ落ちるノガミを呆然と眺めるのだった。

時は少し遡る。


「準備しろったって、召喚があるのはいつなんだ?」

「手紙を送ったヤツら全員が集まったらだと。今日中にはやる気らしいな」

「今から神聖国に向かって間に合うワケねーだろ」

「手紙と一緒に転移の魔道具が入ってるから、多分これ使えば良いんだろ」

「あぁ……なるほど、そういやそんな魔道具もあったな」


封筒の中から取り出した一枚のプレートを床に放り投げる。

魔道具は床に触れるか触れないかの所で発光し、巨大な魔法陣を出現させた。


「従者のシアンはともかく、我も行って良いモノなのか?」

「………ま、アタシらの関係者って事で大丈夫だろ」

(……そもそもレイヴ様は何者なのでしょうか。洗脳や催眠の気配もありませんし、お二人のご友人……のような存在ではあるのでしょうが……)


やや不安が残るやり取りの直後、彼女達は光に包まれる。

次の瞬間には石造りの広い部屋の中に転移しており、少し離れた所には国家会議に出席していた王族たちが立っていた。

どうやら、ほぼ同じタイミングで転移してきたらしい。


「皆さま。本日は突然の招待に応じていただき、ありがとうございます」

「かの勇者召喚の立ち会えると言うのだから当然の事。しかし驚きましたなぁ。勇者召喚の儀式はその一切が秘匿されていたはずですが」

「勇者召喚は我らシェンディリアのみに許された奇跡。公開したところで別段問題は無いと判断しただけの事。アステリアと獣王国が共同で勇者の訓練地を担うという前例のない事象が発生した今こそ、新たな慣習を始めるに適切だと判断した次第」

「……なるほど。確かに、転換期にはちょうど良い」


フェルナンドが黙ると、ペイトロスの背後に控えていた少女が前へ出た。

スリットの入った純白のシスター服に身を包んだ彼女は、召喚勇者に並ぶ神聖国の切り札にして象徴、救世聖女と呼ばれる存在。

その清廉な美貌に、各国の王達は性別問わず感嘆の息を漏らした。


「儀式場は隣の部屋でございます。既に準備は整っておりますので、早速移動しましょう」


ゆっくりと部屋を出て行く彼女に、王達は一拍遅れて着いていく。

歴史を感じさせる古びた廊下に出て直ぐ、儀式場の入り口が彼らを出迎えた。


「な、なんと巨大な……」

(それに、なんという魔力量……!!空間が歪んで見える程の魔力が、この扉一枚隔てた先で渦巻いているとは……!!)

「なるほど、秘匿する気持ちもわかるというもの。下手に他国の王を招いて魔力酔いに苦しまれては困ると、()()()()()教皇帝様はそう考えられた訳だ」

「私とて貴殿らを魔力酔いに苦しめてやろうと考えてお呼びした訳ではありませんとも。お聞きしますが、現時点で気分が優れない方はいらっしゃいますかな?その場合は、残念ながら召喚に立ち会ってもらう訳には行かないのだが」


当然、お呼び出しした以上相応のもてなしはしますぞ、とペイトロスが尋ねるが、誰も手を挙げる者は居ない。

魔力酔い(空間内に大量の魔力が滞留している、或いは極端に魔力が少ない場合に、体内の魔力量とのギャップに体調不良を起こす現象)の危険性があっても、それ以上に勇者が召喚される瞬間に立ち会いたいという感情が強い証拠だ。


反応がない事を確認したペイトロスが聖女へ頷くと、彼女は小さく何かを呟いた。

すると巨大な扉に幾つかの魔法陣が展開し、一人でに開いた。

瞬間、室外に膨大な魔力が溢れ出し、さながら暴風のように王達を襲った。


「こちらが儀式場……そして、遥か昔に我らシェンディリアの祖が神より賜った、最古にして最大の召喚陣です。既に、いつでも召喚が行える状態まで整えられています。……皆さま、よろしいでしょうか」


召喚の瞬間は、さらに大量の魔力が儀式場内に満ちる。

万が一魔力酔いが行きすぎて死亡してしまえば一大事なので、彼女は再度王達に確認をとった。

当然、彼らは頷く。人の手で扱える神の奇跡を、今直ぐにでも見せてくれと。


「……奇跡をここに」


部下らしき者からどこか見窄らしい杖を手渡され、彼女は祈り始める。


「我は神が選び給ひし一族の裔。かの湖にて祝福されし巫女の座を継ぐ者。神よ、いと尊き偉大なる神よ!その御力の一端を、我らに与え給った奇跡を操るのはまさに今この時なれば!境界は繋がり、門は開き、勇ましき者、我らを救し神の使徒はここに降臨する!『勇者召喚(サモン/ブレイバー)』!!」


呪文を唱えると同時、視界が白い光に包まれる。

誰もが咄嗟に目を閉じるが、すぐに光は収束する。


暴風が如き魔力が、まるで今まで無かったかのように消えてしまった空間に誰かの声が響く。


「……えっ?」


王達が目を開けるとそこには、巨大な魔方陣の上に勇者達―――約三十人ほどの学生達とスーツ姿の女が、困惑しきった表情と共に座っていた。


※―――


―――最悪だ。


両腕をもがれ、腹を内臓ごと抉られ、両足を捻られる。

一瞬の出来事に痛みを感じる事も出来ないまま、俺は地面に崩れ落ちる。


俺に生じた、あまりに致命的過ぎる隙。

リンを助ける為にアラクネに剣を投擲した直後、唐突に溢れ出した、今この状況となんの脈絡も無い()()


「いやぁ、待たされた待たされた。他の連中はどうでも良かったけど、君だけは放置したら不味い気がしてたんだよねぇ」


ケラケラと笑う、くすんだ金髪の少年。一見するとただの美少年に見えるが、頬を掻く右腕はカブトムシやカナブンといった虫の足そのもので、背中からはマントのように蛾の羽が生えている。


終焉蟲。今回のターゲットだ。

本来ならリン達が借金返済分より少し上程度の稼ぎが見込めてから暗殺しに行こうと思っていたのだが、ターゲットの方からこちらに出向いてきてくれたらしい。

文字通り、最悪のタイミングで。


満身創痍の体は魔法で即座に回復させた物の、気分は優れないままだ。

受けた痛みは関係なく、ただ思い出したのが気持ち悪い。


()()()()()


とはいえ、終焉蟲が目の前にいるこの状況に変わりはない。

不調を勘づかれないように、何より自分自身誤魔化す為に平常心を意識する。


「まさかアラクネなんて飼ってるとはな。知らなかった」

「あー、なんだっけ。試練?とかいうのを与える魔物はコレクション程度に二匹ずつ集めてるんだ。僕の可愛い子供たちと違って……えっと、人間だと養子?っていうのかな。そんな扱いだけど、まぁ可愛げはあったよ。―――あぁ、そうそう。そこのナイフの子。この人間の隙を作るために無理矢理動かしてただけで、実は君の最初の攻撃でとっくに死んでたから。おめでとう!これで『祝福』?とかなんとかは君のモノだ!」


陽気な笑顔をリン達に向け、拍手すらして見せる。

明らかな異形が、どこか親しみやすい態度で語り掛けて来た事にリン達が混乱しきった表情を浮かべた。


「そうだ、せっかくだし使ってみてよ。僕、実は人間とあまり戦った事無くってさ。大体子供たちが食べ尽くしちゃうから、『祝福』ってヤツも遠目に見たのが何回か程度だし……ね、良いでしょ?」

「………ど、どうしよう?」

「大人しく従った方が良いんじゃない……?」

「で、でも私、『祝福』を手に入れた感覚なんて無いし……確かにアラクネはもう、動かなさそうだけど」

「えー、見せてもらえないの?残念だなぁ」


ヒソヒソと話し合うリン達を脅すように、わざとらしく声量を上げる。

彼女達が大きく肩を震わせたのを無視して―――或いはわかっているからか、終焉蟲は呟いた。


「なら生かしておく理由も無いし。殺すか」

「ッ!?しゅ、『祝福』!!」

「ばかっ、そんなノリで発動するようなもんじゃないでしょ!?」

「本には確か、使おうと思えば使えるって書いてたから。ファイト」

「お、応援じゃ無くて手伝ってよぉ!このままじゃ私達殺されちゃう―――」

「あはははっ、面白いねあの子達。いや、人間ってみんなこうなのかな?」


アイツ等結構余裕だなァ、と呆れの感情が籠った溜息が漏れる。

とはいえ今は笑っているが終焉蟲は所詮魔物。いつ気が変わってリン達に攻撃を仕掛けるともわからないし、さっさと暗殺するか。


アラクネに突き刺さった剣を回収する暇は無いので、拳を握る。

殺気を隠して接近し、顔面めがけて全力の右ストレートを放った。

が、終焉蟲はこちらを見る事なく拳を受け止め、嗤う。


「無駄無駄。気配は無かったけど、ちゃんと()()()()から」

「最初で最後の奇襲受け止めてくれちゃってよォ、ムカつく野郎だなァ!!」

「の割には良い笑顔じゃん。やる気みたいだし、僕もちょろっと本気で遊んであげる」

「ははッ、ハハハハハ!!バァアアアッカ!遊ぶんじゃねェ、死ぬんだよォ!!」


『狂乱の祝福』STAGE3。

腹の底から込み上げてくる笑いを堪える事なく声にして、終焉蟲の腹を蹴る。

捕まれていた手は無理矢理振りほどき、終焉蟲の体だけが群れの方へと吹っ飛んでいく。


―――思い出した事とか、リン達の稼ぎの事とか、今は全部どうでも良い。

全部忘れて、暗殺依頼だけに集中しろ。


自分にそう言い聞かせながら、俺はアラクネから剣を抜き取って、魔蟲の群れへと突っ込んだ。


※―――


「う、そ」


勇者召喚の魔法陣と同時に、神から与えられたという神聖な杖。

ソレをついうっかり手から落としてしまう程に、彼女は動揺した。

そして、周りの人々もソレを咎めるばかりか彼女と同じように手に持った物を落とし、口をあんぐりと開いて驚愕した。


―――勇者召喚の儀式は、時折失敗する。三割程度の確率で、何も起こらない事があるのだ。

よしんば召喚できたとしても、召喚される勇者の数にも差がある。

基本は一人。記録上では、最大で五人。


だが今回、彼女が召喚した勇者の数は、およそ三十人。

まさしく「奇跡」と呼ぶべき偉業に、感激と興奮とで力が抜けた彼女はその場にへたり込んでしまう。


「……通常、召喚される勇者の人数は多くとも三人程度と聞いていましたが」

「レイネール……今代の救世聖女の実力が、歴代最高のモノであった証左ですとも。ははっ、ははははっ!素晴らしい!まさか私が生きている内に、これほどの偉業と対面できるとは!!」


大喜びで拍手さえするペイトロスに、従者や王達も続くように手を打ち鳴らす。

狭い室内に拍手の音が反響する中、ついに召喚された勇者達の内一人が声を発した。


「あ、あのっ!こ、これは、どういう……えっと」

「あぁ、申し訳ございません。本来すぐに簡単な説明をして、歓迎の間へとご案内するべきところを………レイネール、職務はまだ終わっていないぞ」

「っ、は、はい。―――すみません、つい気が抜けてしまって……私が至らないばかりに、申し訳ございませんでした」

「えっ、いえいえそんな……?」


二人から頭を下げられ、いの一番に声を発した少年はしどろもどろになる。

そんな彼に、そしてその他の勇者達に、聖女レイネールは頭を上げ、彼らが知るべき情報―――の、取り敢えず最低限必要な部分を語り始めた。


「我々の世界は現在、未曾有の危機に見舞われています。ソレを解決できるのは、異世界から召喚する事の出来る勇者様達だけ―――故に私達は勇者召喚の奇跡を行使し、皆様はここに居るのです」

「……ゆ、勇者?異世界?」

「混乱するのも無理はないでしょう。そちらの世界には魔法も『祝福』も存在しない、或いは架空のモノとして扱われているという事は十分知っています。……疑問なども含めて、歓迎の間にてお話しましょう。早速で申し訳ございませんが、着いてきていただけますか?」


レイネールの言葉に、勇者達は顔を見合わせる。

当たり前だかこんな状況に慣れている者が居るはずも無く、言われた事に従う以外の選択肢は無かった。


「では、私の後ろに。―――ペイトロス様、ご来賓の方々はいかがいたしましょうか」

「勇者様達の背後で良いだろう。あくまで主役は彼らなのだ。各国の王、皇帝と言えど、ここは背後を歩いてもらおう。―――構いませんかな?皆様方」


ペイトロスの言葉に対し、特に誰も異論なく勇者達の背後に向かって歩き出す。

普通このような待遇をされては王族貴族であれば一言くらいモノ申したくなる物だろうが、ヴィレニア大陸の王達はさほどこうした事を気にしない者ばかりだった。

逆に他の大陸の国王、皇帝に同じような事をすれば国際問題待ったなしだろう。


勇者達はすれ違う間際に王達をジロジロと観察する。

恰好や種族や、見慣れない要素が盛りだくさんの彼らは、勇者達にとって興味の的だった。

直接声に出して反応するような真似は誰もしていなかったが、ある生徒がジンを―――正確にはジンの姿をしたカルマを見た瞬間、目を丸くして叫んだ。


そしてソレは、室内の全員を驚愕させるに足る一言だった。


「―――の、野上(ノガミ)!?お前、どうしてここに!?」


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