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楽譜の奴隷と呼ばれた天才が、何も知らないクラスメイトの女の子に救われた話  作者: Soh.Su-K


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第7話 予選会

 遂に合唱コンクールの予選会当日になった。未だに三島は戻ってきていない。


「結局、当日になっちまったな……」

「うん。でも、高橋君のお陰でみんながまとまった。ありがとう」


 高岡は高橋にお礼を言った。あの日、高岡にハンカチを渡したのがこの高橋だ。三島が不在の中、代わりの指揮者としてクラスをまとめ上げていた。


「指揮者がこんなに難しいとは思わなかったぜ。リズムを一定に保ちながら、曲の流れを指示するとか……。頭パンクするわ……」


 本番前でざわつく教室の中で高岡と高橋は笑った。


「はーい、そろそろ体育館に移動するわよー!」


 榎本の声に従い、生徒たちは緊張した面持ちで体育館へ向かう。


「榎本先生、三島君はやっぱり……」


 高岡がこっそりと榎本に話し掛ける。


「うん。まだ戻ってないみたい。一応、隆司のLINEには今日が予選会の本番だって送ってるけど……」

「私達の順番、最後でしたよね?」

「うん、12番目。それまでに学校に来てくれればいいんだけど……」


 榎本もソワソワしているようだ。全くの音信不通なのが何よりも不安にさせる。


「大丈夫……。来ますよ、三島君は」


 榎本とは対照的に、高岡は確信しているようだった。


「何?彼女としての勘?」


 榎本が嫌味の様に言った。しかし、それすら高岡は笑顔で切り返す。


「私の憧れたヴァイオリニストを信じてるだけです」


 3年生以外の全校生徒が体育館に集まった。独特な緊張感の中、予選会が始まった。


 ♪


「リュウ、大丈夫?」


 三島は泣いていた。自然と涙が零れ落ちていた。


「大丈夫……。大丈夫だ……」


 自分に言い聞かせる様に呟く。納得出来た訳ではない。しかし、この涙は恐らくそういう事なのだろう。


「これが本当なら、俺はまた演奏者に戻れるのかな……?」


 三島は自分の手を見つめた。


「勿論!その時は、私としましょう!」


 そう言って、ヘルゲンは三島を優しく抱き締め、頭を撫でた。何故か分からないが、溢れ出てくる涙を三島は止められなかった。


 ♪


 10番目のクラスがステージに並んだ。高岡たちのクラスは舞台袖に通され、待機させられる。クラス全員が緊張していた。空気は張り詰め、息をする事すら許されない様な雰囲気が漂っている。


「ダメだ……、緊張する……」


 生徒達が口々に不安を漏らす。他のクラスの合唱など、全く耳に入ってこない。高岡も例に洩れず、冷え切った両手が小刻みに震えていた。


「みんな、リラックスだ!リラックス!」


 高橋が必死に言うが、当の本人もガチガチに緊張している。


「高橋君、大丈夫?」


「全然大丈夫じゃない……。野球の試合でも、こんなに緊張した事ないっての……」


 そう言って両手を強く握り締めていた。すると、10番目のクラスの合唱が終わり、11番目のクラスがステージへと上がっていった。


「次だ……」


 生徒たちの顔が青ざめて行く気がする。これでは合唱どころではない。ステージに上がったクラスが整列し、指揮者が台に上がりお辞儀をした時だった。


「お!間に合ったか!」


 舞台袖と外を隔てていた扉が勢いよく開いた。


「三島君!」


「三島!」


 全員が声を上げた。


「静かにしなさい!」


 ステージ袖で生徒を誘導していた教師から怒られた。


「すみません……」


 クラス全員が小声で謝る。三島達を睨み付けた教師は、指揮者台の上の生徒に合図を出した。指揮者の生徒は頷いてタクトを振り上げる。11番目のクラスの合唱が始まった。


「次か?」


「うん、とにかく間に合ってよかった!」


 高岡が三島の手を握った。


「おい、三島」


 高橋が三島の前に歩み出た。


「みんなに言う事があるだろ」


 高橋は怒っていた。クラス全員をいきなり姿を消し、不安にさせたのだから当然と言える。


「あぁ、そうだな。今回はすまなかった。一身上の都合とは言え、理由も言わずに今日まで学校を休んでしまった。本当に申し訳ない」


 三島は深々と頭を下げた。


「お前が何処で何をしてたかなんてどうでもいい。それより、指揮者、やるんだろ?」


「俺がやっていいのか……?」


 その三島の言葉に、高橋は笑った。


「お前じゃないと無理だ。俺じゃ途中で混乱してくる。それに、お前がいない間、お前の彼女頑張ってたんだぜ?褒めてやれよ」


 高橋のその言葉に、高岡がビクリと身体を強張らせた。


「高橋君!私、別に彼女って訳じゃ……」


 耳まで真っ赤にしている高岡の顔を三島が見つめる。


「高岡……、お前、可愛くなったな」


「え!?」


「眼鏡、やめたのか?」


「え?うん……」


「高岡な、俺らにブチキレて、眼鏡ぶっ壊したんだよ」


 高橋が高岡の肩を抱きながら笑って言った。


「ぶっ壊した!?」


「お前がいなくなったのが原因だぞ?みんなのモチベが下がって、合唱やめそうになった時に高岡がキレたんだよ!」


「ちょっと、高橋君!その話は……」


「良いじゃねーか!『合唱は私の彼氏の作品だから辞めさせない!』ってな!」


「そんな事言ってないよ!」


「だいたい合ってるじゃん!」


「そうそう!」


 あわあわしている高岡をクラス全員がいじり始めた。


「そっか、ありがとな、高岡」


 三島は笑わずに、高岡の目を見ながら感謝を述べた。


「いや、その……。私だけじゃ三島君みたいにはまとめられなかった。高橋君や、みんなが協力してくれたから、今日までちゃんと練習できたんだよ。みんなのお陰だよ……」


 高岡はクラス全員にありがとうと頭を下げた。


「さて!」


 一通りやり取りが終わった後、三島はクラス全員の方へ向き直った。


「お前ら、もう緊張なんかしてないな?」


 三島の言う通り、誰一人として強張った顔をしていない。


「よし、俺がいない間にレベルアップしたであろうお前らの実力を、俺に見せてみろ。いいか、今日はまだ前哨戦だ!俺達が目指すのは何だ!高橋!」


「そりゃ優勝以外にない!」


「そうだ!でも、今日勝たなければ本戦に出れない!観客にはなりたくねーだろ!」


「当たり前だ!」


 先程まで、緊張で冷え切っていた舞台袖が、三島の言葉で熱量を上げている。やがて、11番目のクラスの自由曲が終わる。それが終われば、三島達のクラスだ。タクトが譜面台に戻され、ステージ上の生徒たちが礼をする。いよいよだ。


「歌で観客をブチのめしてやるぞ!」


「シャー!」


「行くぞ!」


 高岡を先頭に、生徒たちがステージに上がる。最後尾の三島は指揮者台へ向かい、観客に向かって頭を下げた。

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