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078●取り合えば足らない、分かち合えば余る

帝王は敗走する軍と共に、一路、母国をめざしている。

しかし、道は遠い。

物資が届いたという知らせは、誰がもたらしたのだ?

ええい、忌々しい!


行けども行けども、何も見つけられない。

もう動けない、とあきらめかけた時、整然と積まれた木箱が見えた。

食糧、水、冬の寒さをしのぐための衣服や薪。

多くはないが、全軍が一息つくだけの量があった。



その国では、大震災があった。

無慈悲な自然の力は、小さな島国を大きく揺らした。

津波も地域を襲った。

多くの命が失われた。ライフラインは寸断され、水も食糧も補給が間に合わない。

しかし、地震の翌日、人々は商店の前に整然と列をつくり、順番を待っている。

外国の報道員が驚く。

なぜ、暴動にならないのか。なぜ、奪い合いにならないのか。


それでも、独り占めをしたいという欲望はあった。

母は長い待ち時間の後、やっと店に入った。

子どもたちの食べ物、飲み物を。

母の思いは、自らのカゴに溢れんばかりの品を入れさせた。

だが、会計に向かおうとした、その時、彼女の5歳の息子が訴えた。


お母さん、次の人たちの分、残しておこうよ、と。


母は胸を突かれた。我が子を抱きしめ、彼女は言った。

そうね。そうだね。


取り合えば足らない、分かち合えば余る。


母の胸には自分の行動への恥ずかしさと、我が子の誇らしさが同時に存在していた。



ラべリアの兵たちの物資の奪い合いが始まる。

これは俺のものだ、貴族からだ、帝王陛下が優先だ、と。

あちこちで殴り合いが始まる。剣を抜くものまであらわれる。

この暴走を止めるために、多くの血が流された。


ボレリア遊撃隊は、補給部隊にその役割を変えている。

ラべリア軍が帰国するまでの道中に、必要な物資を、適宜置くように。

それが発せられた指示であった。


街道の要所ごとに、食糧などの木箱を積んでいく。

ブラッドの船が効率よく荷物を運んでくる。

もし、ラべリア軍の男たちが全滅すれば、その国の運営に支障を来す。

ボレリアは自国の再興で手いっぱいであり、隣国の占領とその経営までは到底、行えない。

何より、敵とはいえ、これ以上の損害を与えることは無意味である。

命の大切さは敵も味方も変わらない。


それが、その指示書に書かれている内容だった。


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