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037●一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である & 038●見えないバトンを受け継ぐものたち

037●一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である


「小さな行動」が社会を変える

たとえば

ひとりの教師が生徒の人生を変える。

ひとりの看護師が患者の尊厳を守る。

ひとりの市民の声が、議会で取り上げられる。

社会は「誰かがやってくれる」ものではなく、「私たちがつくるもの」なのです。



038●見えないバトンを受け継ぐものたち


同僚のお通夜だ。急なことだ。豪快でやさしい先生が、まさかこんなに若くして。


竹石 半四郎。

中学の数学の教員で、サッカー部の顧問、そして学年主任だった。

だれからも頼られ、慕われていた。


おもしろい授業だった。必ずしも、おとなしい生徒ばかりの学校を渡り歩いてきたわけではない。

むしろ、少しばかり’ヤンチャ’な連中を相手にしてきた。

’授業は聞いて当たり前’なんて考える教員は、すぐに壊れていくものだ。

だが、半四郎先生は、そんな同僚を励まし、自ら範を垂れ、生徒指導にも情熱を傾けた。


わたしが個人的に見学した’クジラの卵’の授業、驚いたものだ。

一次関数を説明するとき、ブラックボックスを通ると、数値が変化する、という授業だった。

先生は、風呂敷に包まれたナニカを持って、チャイムと同時に教室に入る。

なんだ、アレ?という囁きの中、授業が独特の大阪弁で始まる。

「これはな、クジラの卵や!」

えっー!見せて、見せて!という声を制して、そのクジラの卵の風呂敷の中を通るモノが、次々と変化していく。手品も堪能だ。

こうして、50分の授業が終わる。

最後まで風呂敷の中身が明かされることはない。

生徒たちは集中しすぎて、クタクタになりながらも、一次関数を理解した。


ミカンの産地としても有名な、その地の丘の上にお通夜の会場があった。

先生の家だ。麓から坂を登ってきたわたしと、先生の教え子たちだろう、若い連中が列をなす。

髪を派手に染めた女の子がいる。

「これ、わたしの子!生まれたばかり!」と、泣く赤ちゃんを抱き上げて見せびらかす。

「オレのシャツ、いいだろ!」大きなピアスをし、眉をそった男が言う。

「この帽子、イカすだろ!ずっーと被ってるんだ。寝るときもね!」と、別の男が大声で言う。

なんだ、こいつら。半四郎先生のお通夜だぞ!

わたしは腹立たしい気持ちと、それを告げられない気弱さとを噛みしめていた。だが・・・。

やがて、わたしたちは、半四郎先生宅の門に差し掛かる。

ご近所の人たちが、香典を受け取り、お茶を出している。

若い、派手な連中の口数が少なくなってくる。

記帳し、屋内へ。

あっ、ピアスを外すのか。

寝る時も被っている帽子、脱ぐのか。

泣かないように、赤ちゃんをあやすのか。


遺影に手を合わせ、彼ら彼女らは、言葉もなくボロボロと大粒の涙をこぼす。

半四郎先生・・あなたの見えないバトンは、ちゃんと受け継がれていますよ。

わたしも涙が止まらない。


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