023●なけなしの勇気
ロイを招き入れた。
近頃、ふさぎ込むことが多い父上が、笑顔で彼を迎え入れた。
「ご無理をなさらないでください、伯爵。」
手足が不自由な父上を見て、ロイが心配そうに言う。
「なんの、これしき。よくお越し頂いた!」
そうなのね、兄上の姿を重ねているのね。
「あれは・・・?」
「兄の剣です。ああやって、飾っています。我が家の守り神ですね。停戦交渉に赴いた時に、わたしも帯びて行きました。」
ロイは、飾られた剣から目を離さない。微かに、その空間の空気が変わったように感じた。
「拝見しても、よろしいでしょうか?」
「もちろん。ご覧ください!」
絞り出すような、しかし力強い声、父上の声。
ロイに剣を渡す。じっと見ている。
「失礼します。」
その言葉を発すると、彼はゆっくりと鞘を払った。
「誰か、行くものはおらんのか?」筆頭大臣が声を荒げる。
皆、押し黙っている。
壊滅的な敗北を喫した後、何とか国力の充実に努めてきた。
諸侯の軍団も再編成した。だが、練度も経験も足りない兵ばかりだ。
国境では、小規模だが戦闘が繰り返され、形勢は良いとは言えない。
継続的に停戦交渉を行っているが、合意には至っていない。
何しろ、渡り合う相手は、あの猛将、ヴァルター・グレイヴス将軍だ。
ニ度の使者として、名家の当主たちが直々に出向いたが、彼の威圧感に終始、おされてばかりだったようだ。互角に立ち向かえるものなど、いるはずがない。
「わたしが参りましょう。」
沈黙が続く中、声が上がる。
何?誰だ?ウィルフレッド子爵?
爵位を継いだばかりの若輩者が、しかも女性が名乗り出るのか。
しかし、ローレンスの妹、いや、弟だ・・・。
押し付けあいの結果だな。
わたしが行く。兄上の意思を継いで、国を、民を守るために。
この剣を携えて行く。
あと持っているのは、なけなしの勇気だけだな。
何としても、何としてでも。
ロイが、見ている。
何かに魅入られたかのように。
呼吸もしていない?
見つめる瞳が、少しだけ揺れている?
「ありがとうございました・・・。」
剣を納め、静かにそういうと、彼は深く呼吸をしながら、天井を見上げる。
何を見てるの?
不思議な人・・・。




