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Episode 3: ポエトリー・リーディングの夜

登場人物


田所家


健一 /元ハリウッド映画原作主演

カヨ /健一の妻、ハリウッドのカリスマ、管理魔

トシキ /健一の息子、東大生、マザコン



シンディ・ゴールドバーグ/ トシキの彼女、東大留学生、カヨの弟子



Dharma Beans (カフェ)


アラン・ゼンズバーグ/ シンディの叔父、詩人、カフェ経営 #アレン・ギンズバーグではありません

ジェイク・ケンドリック/ 詩人、作家、アランの親友、カフェ共同経営 #ジャック・ケルアックではありません


エマ ソフィア ジェマ ルピタ/ ハリウッド女優



☆なんちゃって参考文献


アレン・ギンズバーグ 「HOWL」

ジャック・ケルアック 「路上」

ディーリア・オーエンズ 「ザリガニの鳴くところ」

※読んでなくても大丈夫!


Dharma Beans。

店内は、いつもより人が多かった。

椅子が並べられている。

小さなステージ。

マイク。

「Poetry Night」の手書き看板。

「すごい人だな…」

俺は、少し驚いた。

30人くらい。

若者もいれば、年配の人もいる。

みんな、ビールやコーヒーを片手に座っている。金曜日の夜

カヨ、トシキ、シンディと一緒に、後ろの席に座った。

ルイーズも来ている。

「Interesting social experiment(興味深い社会実験ね)」

ルイーズは、メモ帳を取り出した。

(また観察か…)

その時、エマ、ルピタ、ジェマ、ソフィアも入ってきた。

「Kayo!(カヨ!)」

エマが、駆け寄ってきた。

「Emma? What are you doing here?(エマ?ここで何してるの?)」

「We heard you were coming! We wanted to see you!(あなたが来るって聞いて!会いたかったの!)」

「…」

カヨは、少し困惑していた。

四人は、俺たちの近くに座った。

「This is exciting! Poetry night!(ワクワクするわ!詩の夜!)」

ルピタが、嬉しそうに言った。

その時、照明が少し暗くなった。

ステージに、スポットライト。

アランが現れた。

相変わらずの格好。

作務衣の上着。

ボロボロのジーンズ。

「Welcome, everyone! Welcome to Dharma Beans Poetry Night!(ようこそ、みんな!ダルマ・ビーンズ・ポエトリー・ナイトへ!)」

拍手。

「Tonight, we celebrate the Beat spirit! The Zen spirit! The spirit of freedom!(今夜、俺たちはビート精神を祝う!禅精神を!自由の精神を!)」

「Yeah!(イエー!)」

観客が、盛り上がっている。

アランが、紙を取り出した。

「First, I’ll read from my work, “HEARD”(まず、俺の作品『HEARD』を読む)」

(HEARD…?)

俺は、少し興味を持った。

アランが、深呼吸した。

そして、読み始めた。


“HEARD”

「I heard the cry of crawfish in the Sierra Nevada,

their tiny voices echoing through the pines,

screaming about existence, about the absurdity of being boiled alive…」

(俺には聞こえたんだ、シエラネバダの山で、ザリガニの鳴き声が、

その小さな声が松の木々に響き渡り、

存在について、生きたまま茹でられる不条理について、叫んでいるのが…)

「I heard the crows screaming as they attacked the scarecrow,

and I heard the scarecrow crying back,

begging for mercy, for just one more season in the field…」

(俺には聞こえたんだ、カラスが叫びながらカカシに襲いかかるのが、

そしてカカシが泣き叫び返すのが、

慈悲を乞い、畑でもう一シーズンだけと懇願するのが…)

「I heard the whisper of Zen in a 7-Eleven parking lot,

the Buddha laughing at a traffic light,

the dharma hiding in a bag of Doritos…」

(俺には聞こえたんだ、セブンイレブンの駐車場で、禅のささやきが、

信号機で仏陀が笑う声が、

ドリトスの袋に隠れた法が…)


観客は、静かに聞いている。

中には、頷いている人もいる。

俺は、少し混乱していた。

(これ…何だ?)

(意味が分からないけど…なんか引き込まれる?)

カヨは、無表情で聞いている。

トシキは、笑いを堪えている。

シンディは、真面目な顔で聞いている。

エマたちは、困惑している。

「What is he saying?(何言ってるの?)」

ルピタが、小声で聞いた。

「…I don’t know(分からないわ)」

ジェマが、答えた。

アランは、続けた。


「I heard the salaryman weeping on the subway,

clutching his briefcase like a life raft,

drowning in spreadsheets and PowerPoint presentations…」

(俺には聞こえたんだ、地下鉄でサラリーマンが泣いているのが、

救命いかだのようにブリーフケースにしがみつき、

スプレッドシートとパワーポイントのプレゼンに溺れながら…)

「I heard the ramen noodles singing in the boiling water,

their final song, their death opera,

performed for the hungry souls of Kyoto…」

(俺には聞こえたんだ、沸騰する水の中でラーメンの麺が歌うのが、

最後の歌、死のオペラを、

京都の飢えた魂たちのために演奏するのが…)


ラーメンの麺が…歌う…?)

俺は、完全に混乱していた。

でも、なぜか笑えない。

アランの真剣な顔。

観客の真剣な表情。

これは、コメディなのか?

それとも、本気なのか?


「I heard the silence between the cherry blossoms,

the space where nothing exists,

and in that nothingness, I found everything…」

(俺には聞こえたんだ、桜の花びらの間の沈黙が、

何も存在しない空間が、

そしてその無の中に、俺は全てを見つけたんだ…)


アランが、紙を下ろした。

「Thank you(ありがとう)

拍手。

大きな拍手。

「Beautiful!(美しい!)」

「Deep!(深い!)」

観客が、口々に言った。

俺は、呆然としていた。

(これ、本当に受け入れられてるのか…?)

カヨが、小声で言った。

「…意味、分かった?」

「全く」

「私も」

トシキが、横から言った。

「でも、なんか…すごかった気がする」

「…そうか?」

俺は、首を傾げた。


次に、ジェイクがステージに上がった。

「Alright! Now it’s my turn!(さあ!次は俺の番だ!)」

ジェイクは、紙を持っていなかった。

「I don’t read. I feel. I improvise!(俺は読まない。感じる。即興だ!)」

観客が、拍手した。

ジェイクが、目を閉じた。

そして、話し始めた。


「The road…

The endless road…

I walked from San Francisco to nowhere,

my feet bleeding, my soul singing,

hitching rides with ghosts and truckers…」

(道…

終わりなき道…

俺はサンフランシスコからどこへともなく歩いた、

足から血を流し、魂は歌い、

幽霊とトラック運転手に乗せてもらいながら…)


(あれ、これは…ちょっと分かる?)

ジェイクの即興詩は、アランよりストレートだった。

旅。

自由。

孤独。

独特な世界観。


「I slept under the stars in Nevada,

the desert whispering secrets I’ll never understand,

but I listened anyway,

because that’s what you do on the road…」

(俺はネバダの星の下で眠った、

砂漠が俺には決して理解できない秘密をささやき、

でも俺はとにかく聞いた、

それが道での生き方だから…)


観客は、静かに聞いている。

でも、さっきより反応が薄い。

(あれ?こっちの方が分かりやすいのに…)

ジェイクは、続けた。

でも、途中で言葉に詰まった。

「…I…uh…」

(即興、限界か?)

観客が、少しざわついた。

ジェイクが、咳払いした。

「…and then I found a burrito. It was good. The end(それから、ブリトーを見つけた。美味かった。終わり)」

「…」

一瞬の沈黙。

そして、拍手。

でも、さっきより小さい。

「Thank you…(ありがとう…)」

ジェイクは、少しバツが悪そうにステージを降りた。


その後、何人かの観客が、自分の詩を読んだ。

大学生。

中年女性。

若い男性。

みんな、それぞれの詩を読んだ。

でも、俺には、どれも似たように聞こえた。

自由。

孤独。

探求。

ビートニク的なテーマ。

カヨは、相変わらず無表情で聞いている。

エマたちは、困惑している。

「I don’t understand any of this…(何一つ理解できないわ…)」

エマが、小声で言った。

「Me neither…(私も…)」

ルピタも、同意した。


最後に、アランが再びステージに上がった。

「Thank you, everyone! This was a beautiful night!(ありがとう、みんな!素晴らしい夜だった!)」

拍手。

「Remember, poetry is freedom. Zen is freedom. Life is freedom!(覚えておけ、詩は自由だ。禅は自由だ。人生は自由だ!)」

「Yeah!(イエー!)」

観客が、盛り上がった。

イベントは、終わった。


帰り道。

車の中。

俺は、まだ混乱していた。

「…何だったんだ、あれ」

カヨが、答えた。

「ポエトリー・リーディング」

「そうだけど…」

「意味は分からなかったけど、面白かったわ」

「面白かった?」

「ええ。アランの本気。観客の本気。それが面白かった」

「…そうか」

トシキが、後部座席から言った。

「父さん、ラーメンの麺が歌うって、どう思う?」

「…意味不明だな」

「でも、なんか、印象に残るよね」

「…そうだな」

シンディが、横から言った。

「Uncle Allan is passionate. That’s what matters(アラン叔父さん、情熱的よ。それが大事なの)」

「…そうだな」

俺は、窓の外を見た。

LAの夜景。

(アラン、変な人だ…意味不明なのに、説得力あった)

月曜日と木曜日、8時更新です。

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