Episode 23: The Naked Dinner(裸の晩御飯)
登場人物
田所家
健一/元ハリウッド映画主演原作者
カヨ/健一の妻、カリスマ、管理魔
Dharma Beans
アラン・ゼンズバーグ/詩人、シンディの叔父
※アレン・ギンズバーグではありません
ジェイク・ケンドリック/作家、詩人、アランの親友
※ジャック・ケルアックではありません
地獄谷 劫火/便所の哲学者
☆なんちゃって参考文献
アレン・ギンズバーグ「HOWL」
ジャック・ケルアック「路上」
ウィリアム・バロウズ「裸のランチ」
takaki//cw「個性なき幸福」(TALES掲載、現在休載中!)
金曜日の夜。
Dharma Beans。
健一、アラン、ジェイク、劫火が、テーブルを囲んでいた。
ビール。
ウイスキー。
健一は、少し酔っていた。
「I’ve been thinking…(考えてたんだ…)」
健一が、言った。
「My novel…Gouka said it has no soul(僕の小説…劫火さんが魂がないって言った)」
劫火は、ビールを飲んだ。
「言ったな(I did)」
「But it was a hit. Hollywood movie. 1.2 billion dollars. People enjoyed it(でも、ヒットした。ハリウッド映画。12億ドル。みんな楽しんでくれた)」
健一は、少し熱くなっていた。
「Isn’t that enough? What even is ‘soul’?(それで十分じゃないのか?『魂』って何なんだ?)」
ジェイクは、ウイスキーのグラスを見た。
そして、小さく笑った。
「Soul? I don’t know. But I can tell you this(魂?知らないな。でもこれは言える)」
ジェイクは、健一を見た。
「Your writing and mine…they’re completely different(お前の書くものと俺のは…全く違う)」
「Different how?(どう違うんですか?)」
「I write for myself. To make peace with things. To deal with guilt(俺は自分のために書く。物事と折り合いをつけるために。罪悪感を処理するために)」
ジェイクは、グラスを置いた。
「Sure, I wanted someone to read it. But fundamentally…that’s why I write(もちろん、誰かに読んでほしいってのはあった。でも根本的には…だから書く)」
「You’re the opposite, right?(お前は正反対だろ?)」
「…Opposite?(正反対?)」
「You write to entertain people. You plan plots, structure scenes, edit endlessly(お前は人を楽しませるために書く。プロットを組んで、シーンを構成して、何度も編集する)」
健一は、黙った。
その通りだった。
「Which is more valuable? Who cares(どっちが価値がある?そんなのどうでもいい)」
ジェイクは、肩をすくめた。
「People enjoy your work. That’s good. Art, soul, whatever…I don’t care about that stuff(人々がお前の作品を楽しむ。それでいい。アートとか、魂とか、そんなのどうでもいい)」
「Actually, sometimes I read my own work and don’t understand it(実際、時々自分の作品を読んで、意味が分からないこともあるしな)」
ジェイクは、笑った。
アランも、笑った。
「That’s Jake’s style」
健一は、少し混乱していた。
「But…if it’s that different, why did you criticize my work?(でも…そんなに違うなら、なぜ僕の作品を批判したんですか?)」
「Criticized? I didn’t(批判?してないぞ)」
ジェイクは、首を傾げた。
「I just said it’s different. No soul? That’s Gouka’s opinion, not mine(ただ、違うって言っただけだ。魂がない?それは劫火の意見で、俺のじゃない)」
劫火が、横から言った。
「俺は俺の意見を言っただけだ(I just stated my opinion)」
「お前の小説は製品だ。工場で作られたパンみたいなもんだ(Your novel is a product. Like bread made in a factory)」
「悪い意味じゃない。ただ、そういうことだ(Not a bad thing. Just what it is)」
ジェイクが、続けた。
「Factory bread and homemade bread. Both are good. Just different(工場のパンと家で焼いたパン。どっちも美味い。ただ、違う)」
アランが、頷いた。
「We write life. Unedited. Unstructured(俺たちは人生を書く。編集なし。構成なし)」
「You create entertainment. Calculated. Polished(お前はエンターテインメントを作る。計算された。磨かれた)」
「Both are valid. Just don’t confuse them. They’re separate things(どっちもありだろ。ただ混同するな。別のものだ)」
劫火が、小さく言った。
「Toilet graffiti and museum paintings(便所の落書きと、美術館の絵画)」
「Which is better? That’s not for the toilet to decide(どっちが上かなんて、便所が決めることじゃない)」
「Toilet graffiti is in the toilet. Museum paintings are in the museum(ただ、便所の落書きは便所にある。美術館の絵画は美術館にある)」
「That’s all」
健一は、少し楽になった。
「…So you’re not saying my work is bad(じゃあ、僕の作品が悪いって言ってるわけじゃないんですね)」
「No. It’s just not what we do(そうだ。ただ、俺たちがやってることじゃないってだけだ)」
ジェイクは、ウイスキーを一口飲んだ。
「Kenichi. Can I tell you a story?(健一。話をしてもいいか?)」
「A story?(話?)」
「Yeah. About my book. ‘The Naked Dinner’(ああ。俺の本について。『裸の晩御飯』)」
「I’ve heard of it(聞いたことあります)」
アランが、横から言った。
「That book…that’s where it all started(あの本が…全ての始まりだった)」
「Started?(始まり?)」
「The Beat Generation. Jake’s book started it(ビート・ジェネレーション。ジェイクの本が始めた)」
健一は、驚いた。
「That book?(あの本が?)」
ジェイクは、少し照れくさそうだった。
「Started is too big a word. But…yeah, it was the beginning(始めたなんて大げさだ。でも…ああ、始まりだった)」
ジェイクは、グラスを見つめた。
そして、語り始めた。
「1970s. San Francisco. I was married. To Stella(1970年代。サンフランシスコ。俺は結婚してた。ステラと)」
「Stella?(ステラ?)」
「Yeah. Beautiful. Free-spirited. We were…nudists(ああ。美しくて。自由な魂。俺たちは…裸族だった)」
「Nudists?(裸族?)」
「We didn’t wear clothes at home. Freedom. No barriers. No lies. Just us(家では服を着なかった。自由。壁がない。嘘もない。ただ俺たちだけ)」
アランが、横から言った。
「It was the ’70s. We were all trying to break free from society(70年代だったからな。俺たちはみんな社会から解放されようとしてた)」
ジェイクは、続けた。
「But I drank. A lot. Too much(でも俺は飲んでた。たくさん。飲みすぎた)」
「One night…we were having dinner. Naked, as always(ある夜…ディナーをしてた。いつものように裸で)」
「I was drunk. Very drunk(俺は酔ってた。すごく)」
ジェイクは、深呼吸した。
「And I said…‘Let’s play William Tell’(それで俺は言った…『ウィリアム・テルごっこをしよう』と)」
回想が始まった。
1970年代。
サンフランシスコ。
小さなアパート。
ジェイクと、ステラ。
二人とも、裸だった。
ディナーテーブル。
ワイン。
パスタ。
ジェイク、ウイスキーのボトルを持っている。
すでに半分空。
「Jake, you’ve had enough(ジェイク、もう十分よ)」
ステラが、心配そうに言った。
「I’m fine. I’m fine(大丈夫だ。大丈夫)」
ジェイクは、笑った。
そして、突然立ち上がった。
「Let’s do something fun! William Tell! You know, the apple on the head thing!(何か楽しいことしよう!ウィリアム・テル!ほら、頭にリンゴ乗せてみろよ!)」
「What? No, Jake…(何?やめて、ジェイク…)」
「Come on! It’ll be fun!(ほら!楽しいぞ!)」
ジェイクは、キッチンからリンゴを取ってきた。
そして、モデルガンを引き出しから出した。
「Jake, please…don’t…(ジェイク、お願い…やめて…)」
でも、ジェイクは聞かなかった。
「Sit still. I’ll put the apple on your head(じっとして。頭にリンゴ乗せるから)」
ステラは、震えていた。
涙目。
「Jake…I’m scared…(ジェイク…怖い…)」
「Don’t be scared! It’s just a model gun! Plastic pellets!(怖がるな!ただのモデルガンだ!プラスチック弾だ!)」
ジェイクは、リンゴをステラの頭に乗せた。
ステラ、動けなかった。
震えている。
ジェイクは、数歩下がった。
モデルガンを構えた。
「Ready?(準備いいか?)」
「Jake…please…(ジェイク…お願い…)」
ジェイクは、引き金を引いた。
バン!
弾が飛んだ。
リンゴに当たらなかった。
ステラの額に、当たった。
「Ah!」
ステラは、叫んだ。
リンゴが床に転がった。
ステラの額に、赤い跡。
血は出なかった。
でも、痛い。
そして。
ステラは、立ち上がった。
涙が溢れていた。
「Enough! You maniac!(もういい加減にして!このキチガイ!)」
「Stella, I’m sorry, I…(ステラ、ごめん、俺…)」
「I can’t do this anymore! I can’t!(もうできない!できない!)」
ステラは、服を掴んだ。
そして、家を飛び出した。
ドアがバタンと閉まった。
ジェイク、呆然と立っていた。
裸のまま。
一人。
床に、リンゴが転がっている。
「She never came back(彼女は戻ってこなかった)」
ジェイクは、小さく言った。
「We divorced. I tried to apologize. But she wouldn’t see me(離婚した。謝ろうとした。でも会ってくれなかった)」
「…」
健一は、何も言えなかった。
「That night…I sat there. Naked. Alone. Looking at the apple on the floor(あの夜…俺はそこに座ってた。裸で。一人で。床のリンゴを見ながら)」
「And I started writing(そして書き始めた)」
「No plan. No structure. Just…what I felt(計画なし。構成なし。ただ…感じたことを)」
ジェイクは、グラスを見た。
「I wrote all night. About that night. About our life. About my stupidity(一晩中書いた。あの夜について。俺たちの生活について。俺の愚かさについて)」
「I didn’t edit. Didn’t change anything. Just wrote(編集しなかった。何も変えなかった。ただ書いた)」
「That became ‘The Naked Dinner’(それが『裸の晩御飯』になった)」
アランが、言った。
「I read it. We all did(俺は読んだ。俺たちみんな読んだ)」
「It was…raw. Honest. Brutal. Real(生々しかった。正直だった。残酷だった。本物だった)」
「Before that, we were just…drifters. Writers without a voice(それまで、俺たちはただの…放浪者だった。声を持たない書き手だった)」
「But Jake wrote that book. And we realized…this is it. This is how we write(でもジェイクがあの本を書いた。そして俺たちは気づいた…これだ。これが俺たちの書き方だ)」
「No structure. No editing. Just…life(構成なし。編集なし。ただ…人生)」
劫火が、小さく言った。
「When I read ‘The Naked Dinner,’ I ran to a toilet(「俺が『裸の晩御飯』を読んだ時、便所に走った)」
「And I wrote on the wall. For the first time(そして壁に書いた。初めて)」
「Jake taught me. Writing is vomiting(ジェイクが教えてくれた。書くことは、吐き出すことだって)」
健一は、呆然としていた。
「…So that book…started the Beat Generation?(じゃあ、あの本が…ビート・ジェネレーションを始めたんですか?)」
「Started is too big a word(始めたなんて大げさだ)」
ジェイクは、首を振った。
「I just…wrote my pain. People read it. They started writing theirs(俺はただ…自分の痛みを書いた。人々が読んだ。彼らも自分のを書き始めた)」
「That’s all」
「But your book…it’s different from mine. Completely different(でもお前の本は…俺のとは違う。完全に)」
ジェイクは、健一を見た。
「I wrote for myself. To make peace with guilt(俺は自分のために書いた。罪悪感と折り合いをつけるために)」
「You wrote for others. To entertain(お前は他人のために書いた。楽しませるために)」
「Which is better? Neither. They’re just different(どっちが上?どっちでもない。ただ、違うだけだ)」
アランが、頷いた。
「Your work brought joy to millions. Jake’s work brought…understanding to a few(お前の作品は何百万人に喜びをもたらした。ジェイクの作品は…数人に理解をもたらした)」
「Both matter(どっちも大事だ)」
健一は、少し楽になった。
「Thank you」
ジェイクは、ウイスキーを飲んだ。
そして、小さく言った。
「Stella…she’s in New York now(ステラ…今ニューヨークにいる)」
「New York?(ニューヨーク?)」
「Yeah. Opposite side of the country. Remarried, I heard(ああ。国の反対側。再婚したらしい)」
「I haven’t contacted her. Don’t know if I should(連絡は取ってない。すべきかも分からない)」
ジェイクは、グラスを見つめた。
「But sometimes…I think about going there. Just to see her. To say sorry(でも時々…行こうかと思う。ただ会うために。謝るために)」
「Not by plane. By road. The way we used to travel(飛行機じゃない。道路で。俺たちが昔旅したように)」
炎が、小さく言った。
「The road gives answers(道は答えをくれる)」
「You should hit the road someday(お前も、いつか道に出ろ)」
健一が、聞いた。
「The road?(道に?)」
「Yeah. Toilets and roads, they both show you the truth(そうだ。便所も道も、真実を教えてくれる)」
その時。
健一は、トイレに立った。
Dharma Beansのトイレ。
「真実の壁」
そこに、新しい詩が書いてあった。
劫火の字。
裸の晩御飯
リンゴは転がり
愛は去った
残ったのは
紙とペンと
終わらない後悔
でも
それでも
書く
なぜなら
書くことしか
残されていないから
便所より
健一は、それを読んだ。
そして、小さく呟いた。
「…書くことしか、残されていない…」
帰り道。
健一は、一人で歩いていた。
少し酔っている。
月が出ている。
(ジェイクの『裸の晩御飯』は、罪から生まれた…)
(俺のAI小説は、楽しみから生まれた…)
(どっちが正しいわけじゃない…)
(ただ、違うだけ…)
健一は、立ち止まった。
(俺には、ジェイクみたいな深い痛みがない…)
(でも、それでいい…)
(俺は俺のやり方で書く…)
健一は、空を見上げた。
(…そうだ。それでいいんだ)
家に着いた。
カヨが、リビングで本を読んでいた。
「おかえり」
「ただいま」
健一は、ソファに座った。
「どうだった?」
「…色々聞いた。ジェイクさんの過去。『裸の晩御飯』のこと」
カヨは、本を閉じた。
「それで?」
「…違うんだって。俺の書き方とジェイクさんの書き方は、全く違う」
「でも、どっちが正しいわけじゃない。ただ、違うだけ」
カヨは、頷いた。
「そうね」
「俺は、人を楽しませるために書いた。ジェイクさんは、自分のために書いた」
「どっちもありでしょ」
「…ありがとう」
健一は、少し笑った。
カヨは、また本を開いた。
「あなたはあなたのやり方で書けばいい」
「痛みがなくて何が悪いの?幸せなことじゃない」
「…そうだな」
健一は、ソファに寝転んだ。
カヨは、本を読み続けた。
静かな夜。
Dharma Beans。
閉店後。
アランとジェイク、片付けをしていた。
「Jake, you okay?(ジェイク、大丈夫か?)」
「…Yeah. Just…remembering(ああ。ただ…思い出してた)」
「Stella?(ステラのこと?)」
「Yeah」
ジェイクは、グラスを拭いた。
「I wonder if she ever read it. ‘The Naked Dinner’(彼女が読んだかな。『裸の晩御飯』を)」
「Probably(多分な)」
「Did she hate it?(憎んだかな?)」
「Maybe. Maybe not. You’ll never know unless you ask(多分。多分そうじゃない。聞かなきゃ分からないだろうな)」
ジェイクは、溜息をついた。
「I wrote it for me. To deal with the guilt. But…I also wrote it for her. To apologize(俺は自分のために書いた。罪悪感を処理するために。でも…彼女のためにも書いた。謝るために)」
「Then maybe you should go to New York. Tell her that(じゃあ、ニューヨークに行くべきかもな。それを伝えに)」
「…Maybe(多分な)」
ジェイクは、窓の外を見た。
「By road. Not by plane(道路で。飛行機じゃなく)」
「That’s the Jake I know」
アランは、肩を叩いた。
劫火の部屋。
小さなアパート。
壁に、詩が貼ってある。
劫火は、ノートに書いていた。
新しい詩。
真実の壁より
書くこと
それは
罪を背負うこと
でも
書かないこと
それは
罪を忘れること
どちらが重い?
分からない
ただ
書き続ける
便所も
道も
教えてくれる
真実を
劫火は、ペンを置いた。
そして、窓の外を見た。
月が出ている。
「Kenichi…you’re lucky(健一…お前は幸運だ)」
「You have no guilt to carry(背負う罪がない)」
「Cherish that(それを大切にしろ)」
健一の部屋。
健一、ベッドで横になっていた。
目を閉じている。
(俺のAI小説には、ジェイクさんのような痛みがない…)
(でも、それでいい…)
(俺は俺のやり方で書く…)
(人を楽しませる…)
(それが俺の文学…)
そして、安らかに眠りについた。
第一部 完
長々と需要を無視した作品に付き合っていただき、ありがとうございました。最後まで読んで頂いた方には感謝しかありません。
早速ですが、新連載(?)「田所家とLAのストレンジピープル シーズン2」が始まります。
5月4日、8時公開予定です。
引き続きよろしくお願いします。
田所家とLAのストレンジピープル season2
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