⑨再び引っ越しました。
あっという間に私は2回生になっていた。
大学生活2度目の夏休み。
私は小さな引っ越しトラックを送り出した。
「それじゃあ行くね」
私は手伝ってくれたエナに言う。
「マサト君によろしくね」とエナは微笑む。
私はメゾン・ラビットを退去した。
メゾン・ラビットは相場に合った値段の家賃に上がった。
既に住んでいる入居者は格安のままだけど、卒業や退学をしたら、家賃が上がる契約になった。
引越し代はファイブ不動産が負担するので、結構何人か退去していった。
エナの親も、ラビットを出る許可をしてくれたらしい。
でもエナはやっと一人で部屋にいられるようになったので、もうしばらく住むそうだ。
カナデ先輩も残るらしい。
メゾン・ラビットに住むと、他の学生向けアパートに住めない気持ちはよく分かる。
私は自転車で新居に向かう。
駅と大学の真ん中位にあるマンションだ。
少し古いけど、部屋は上階で見晴らしが良い。
エレベーターを降りると、マサトと大迫さんと鍵屋さんが部屋の前で待っていた。
「はい、これで鍵が変わりました」
鍵屋さんは大迫さんに鍵の束を渡す。
「私は1本あれば良いわ。鍵を変えたらまた頂戴ね。
じゃあ、引っ越し頑張って」
私は残りの鍵を受け取る。
鍵屋に次いで、大迫さんも去る。
部屋の前には、私とマサトだけになった。
この部屋は大迫さん所有で、マサトが住んでいた。
マサトは9月からオランダ留学をするので、代わりに私が住むことになったのだ。
「一度空っぽにして、プロのクリーニングを入れてるよ」
私はもらった鍵でドアを開けて中に入る。
壁紙は少し日焼けしてるけど、フローリングにはワックスがかけられてツヤがある。
ラビットにはリビングと別に寝室があったけど、今回の部屋はワンルームだ。
元々荷物が多くない私には充分だ。
マサトが使っていた家具や家電も引き継ぐ。
「トラックはいつ来るの?」
「もうすぐ来るわ。だからその前に」
私はジャラリと鍵を見る。
「マスターキー覗いて残り3本ね。
1本目は私用。
2本目は親に渡す。
3本目は……」
私は鍵を1つ外し、旅のお守りをつける。
飛行機がデザインされた小さな根付だ。
「はい」
「いいの?」彼の頬が赤くなってる。
「うん。一時帰国することがあったら、連絡してね」
ライオンゼウスのシャツは、マサトの提案で、切り刻んで雑巾にした。




