第5章 3 スーザン再び
メンフィス空港に着くと、「ようこそ! 栄翔高校野球部」と英語で書かれた横断幕が見えた。
「メンフィス・ベースボール協会で作ったんだよ」とサイモンさんが言った。「驚いたね、今度は監督で来るとは。日本人もなかなかユニークだと、感心しているところだよ」
昇平は、結衣を抱きしめた。結衣を昇平から引き離したのは大丸だった。
「監督に変な真似は遠慮願います」
部員から、冗談交じりのブーイングが飛んだ。
昇平は笑った。「同級生なんだ。敬語はよせよ」
昇平と二年生は、約一年ぶりの再会だった。結衣から、憧憬の感情を持つなといわれても、二年生は昇平がケガをした試合をよく覚えているし、一年生にとっては、もはや伝説の人となっていた。昇平を見る目はどれも、まぶしい太陽を見るような目になった。
その夜の歓迎会は、サイモンさん宅の庭ではなく、メインストリートのホテルで盛大に開催された。マイナーリーグ球団のオーナーなど、来賓も列席していた。栄翔高校野球部と対戦するチームの全選手が招待されていた。
「あのテーブルにいるのが、最終戦で対戦する3Aのチーム」と昇平が説明した。
「スーザン?」結衣は言った。
「ああ。あのチームの監督なんだ」
「スーザンが?」結衣はもう一度訊いた。
昇平が返事をするかわりに、スーザンは結衣を見ながら歩み寄って来た。
「久しぶり、ユイ」
二人は握手を交わした。
「元気だった? スーザン」結衣は言った。
「フォトバトルでは勝ってしまってごめんなさい。ショウヘイを諦めるのはわかるけど、野球チームを連れて来てショウヘイと戦うなんて、なにを考えてるの?」
「わたしに勝ったというなら、どうして監督になってのこのこと出てくるの? あなたには、新しい彼氏ができたって聞いたけど」
「ユイ、わたしは、恋多き乙女なの。ショウヘイは、ボーイフレンドのなかで一番優しい。パパから、あなたが監督をするって聞いて、燃えたのよ。ユイ、あなたにトドメを刺すわ。野球は小さい頃からよく見てる。野球の本場、アメリカのチームが、日本に負けるなんて許せないの」
「確かに、ベースボールはアメリカが発祥地。でも、発展させたのは、日本よ。WBC二連覇が、その証明よ」
アナウンスが響いた。レセプションが始まった。
WBC二連覇と言われ、スーザンは悔しい表情を見せた。昇平は、結衣を栄翔高校の席に連れて行った。
「結衣、だいぶ、性格変わったね」と昇平は言った。
「あなたも、でしょ。昇平くん。甲子園、忘れたでしょ?」
「甲子園?」
「わたしを連れて行くって言った、甲子園。わたしが、昇平に連れてってと言った甲子園……」
「……腕が、完全に治ったのは、最近だからね。治るまでは、なにも考えなかったよ。甲子園も、メジャーも」
「それがいけないよ、昇平くん。甲子園は、二人の夢なんだから、そのためには絶対に治すって、そう考えて努力してほしかった」
「日本から来ました、栄翔高校野球部のみなさんです。どうぞ、ステージにお上がりください」
司会者が促す。
結衣は、レセプションの監督あいさつで、日米野球親善の意義について話した。また、栄翔高校野球部は、アメリカ・テネシーのチームに勝って、自信をつけ、夏の甲子園に出場し、優勝旗を勝ち取ると宣言した。その堂々たるスピーチに、会場から惜しみない拍手が送られた。スーザンだけは、笑顔を見せなかった。




