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邪視  作者: 伊藤大二郎
8/16

8.現在 坂口祥瑞の視点

 

 12月23日。明日の夜に向け、今やこの町中がにぎわっていた。

 いいことだ。

 こういう聖の雰囲気がただよう時、邪まなものも活発に動かなくなる。

 いいことだ。

 しかし、友礼はいつにもまして青白い顔を青くしている。

「寒いのかよ」

「はい、骨身に染みます」

 改めてみるが、えらく細い体だ。こいつ、普段何を食っているのだろう。

「そう言えば、伊織が言っていたんだが、明日クリスマス・イブだろ? 集まって遊ぼうってよ」

「そういう日くらい二人きりでいればいいのに」

「やっぱそういうものなのか? 昨日話した時は、どっちともなく友礼も一緒にって感じになったんだよ。家に来いよ。受験生たって、一日くらい催したからって大差はでんだろ」

「ありがたい話ですが」

「姉貴に話したら、姉貴もノリノリだった」

「お姉さんですか。そういえば、祥瑞さんのお姉さんにも色々気にかけてもらって」

「他人行儀なこと言うな。中卒元ヤンだろうと邪視持ちだろうと、そんなの関係ねえってお前の性格に、姉貴も俺も、救われてるんだ。……で、まさかとは思うけれど予定なんてないよな」

「ないです」

「そっか、じゃあ明日の放課後家に」

「明日はごめんなさい」

「予定……ないんだろ」

「本当にごめんなさい。今年は、一人で過ごしたいんです」

「今年も、だろ。……もしかして、勉強か」

「いえ、いやまあそれもあるんですけれど」

「そういや、大きいとこ狙ってるもんな」

「ごめんなさい」

「なんで謝る」

 24時間体制でつるんでるが、こいつは12月24日だけは、一人になりたがる。

 けれど、言わないのなら、訊く必要はないのだ。そういうことにしている。


 模試A判定とはいえ、俺も、もう少し危機感を持つべきなのだろうか。

 空を見上げた。

「今年は、雪降りそうだな」

「ねえ、祥瑞さん」

 友礼が、そっぽを向いたまま、名を呼んだ。珍しい。

「どうした?」

「祥瑞さんは、視えているんですよね。この世のものでないモノが」

「また今更だな。一応、俺が思い込みの激しい人とかでなければ、多分見えてるんだろうな」

「それが、人を不幸にさせるんですよね」

「また今更だな。多分、そうなんだろう。もちろんそれだけが理由ではないだろう。そんなモノが視えなくても、不幸な奴や悪い奴はいる。ただ、確かにその時はある。まるで魔が差した、としか言いようがない瞬間、やっちゃいけないことをさせてしまう時ってのは、あるよな」

 意外と長舌になってしまった。

「この前の女の子みたいに、な」

 実を言えば、あの子の体内にはもうそれはいない。

 けれど、今も物陰から狙うものはいる。隙あらば、魔を差そうとしている。

 狙われる限り、彼女は苦しみ続けるだろう。

「結局あの子も、友礼の言う通りだったのかもしれないな。罰を受け損ねることが、罰。それは、とても不幸だろう」

「……祥瑞さん」

 そういえば。

 思えば、多くの人達にとりつく『邪まなもの』を視てきた。

 けれど、そういえば。

 友礼のまわりに『邪ま』を視たことが、ない。

「なんだよ。別に、俺はもう気にしたりしてないぞ」

「視えることって、不幸だと思いますか?」





 お前、それはまた今更な質問だな。





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