8.現在 坂口祥瑞の視点
12月23日。明日の夜に向け、今やこの町中がにぎわっていた。
いいことだ。
こういう聖の雰囲気がただよう時、邪まなものも活発に動かなくなる。
いいことだ。
しかし、友礼はいつにもまして青白い顔を青くしている。
「寒いのかよ」
「はい、骨身に染みます」
改めてみるが、えらく細い体だ。こいつ、普段何を食っているのだろう。
「そう言えば、伊織が言っていたんだが、明日クリスマス・イブだろ? 集まって遊ぼうってよ」
「そういう日くらい二人きりでいればいいのに」
「やっぱそういうものなのか? 昨日話した時は、どっちともなく友礼も一緒にって感じになったんだよ。家に来いよ。受験生たって、一日くらい催したからって大差はでんだろ」
「ありがたい話ですが」
「姉貴に話したら、姉貴もノリノリだった」
「お姉さんですか。そういえば、祥瑞さんのお姉さんにも色々気にかけてもらって」
「他人行儀なこと言うな。中卒元ヤンだろうと邪視持ちだろうと、そんなの関係ねえってお前の性格に、姉貴も俺も、救われてるんだ。……で、まさかとは思うけれど予定なんてないよな」
「ないです」
「そっか、じゃあ明日の放課後家に」
「明日はごめんなさい」
「予定……ないんだろ」
「本当にごめんなさい。今年は、一人で過ごしたいんです」
「今年も、だろ。……もしかして、勉強か」
「いえ、いやまあそれもあるんですけれど」
「そういや、大きいとこ狙ってるもんな」
「ごめんなさい」
「なんで謝る」
24時間体制でつるんでるが、こいつは12月24日だけは、一人になりたがる。
けれど、言わないのなら、訊く必要はないのだ。そういうことにしている。
模試A判定とはいえ、俺も、もう少し危機感を持つべきなのだろうか。
空を見上げた。
「今年は、雪降りそうだな」
「ねえ、祥瑞さん」
友礼が、そっぽを向いたまま、名を呼んだ。珍しい。
「どうした?」
「祥瑞さんは、視えているんですよね。この世のものでないモノが」
「また今更だな。一応、俺が思い込みの激しい人とかでなければ、多分見えてるんだろうな」
「それが、人を不幸にさせるんですよね」
「また今更だな。多分、そうなんだろう。もちろんそれだけが理由ではないだろう。そんなモノが視えなくても、不幸な奴や悪い奴はいる。ただ、確かにその時はある。まるで魔が差した、としか言いようがない瞬間、やっちゃいけないことをさせてしまう時ってのは、あるよな」
意外と長舌になってしまった。
「この前の女の子みたいに、な」
実を言えば、あの子の体内にはもうそれはいない。
けれど、今も物陰から狙うものはいる。隙あらば、魔を差そうとしている。
狙われる限り、彼女は苦しみ続けるだろう。
「結局あの子も、友礼の言う通りだったのかもしれないな。罰を受け損ねることが、罰。それは、とても不幸だろう」
「……祥瑞さん」
そういえば。
思えば、多くの人達にとりつく『邪まなもの』を視てきた。
けれど、そういえば。
友礼のまわりに『邪ま』を視たことが、ない。
「なんだよ。別に、俺はもう気にしたりしてないぞ」
「視えることって、不幸だと思いますか?」
お前、それはまた今更な質問だな。




