6.現在 坂口祥瑞の視点
「祥瑞!」
今日もまた姉貴に蹴飛ばされて目が覚める。
「だから、まだそんなあわてるような時間じゃないよ」
「何言ってんの。もうユーレイ君来てるわよ」
ユーレイと言うのは、もちろん友礼のこと。まあ、名前を音読みしたらそうだけれども、あの青白い肌とマッチして、ちょっと冗談でなくなってしまいそうで怖い。
しかし、何故この時間にあいつは俺の家を尋ねている?
玄関に行くと、いつものように学ランのホックまで締めた青白い肌の友礼が、立っていた。
「おはようございます」
「ああ、でも今日は何でこんな早いんだよ」
「いえ、昨日は夜更ししましたから、きっと寝坊されると思ったので」
ああ、そうかい。
「そういや、そろそろクリスマスだな」
二人で歩いて登校するようになって二年くらい経つのだろうか
「何かするか?」
「いえ、何も。それより祥瑞さんこそ、何もしない気ですか?」
「しない。つうーか今年は受験生だからな。学校だろ」
「祥瑞さん、伊織さんと付き合ってからもう大分経つでしょう。そういうイベントくらいこなしてあげてください」
「何故にそんなところまでお前に心配してもらわにゃならん。大丈夫だよ、俺らは」
「まあ、確かにそういう流れに逆らう二人ではありますが、しかし正月から夏祭までいつも僕と一緒で、伊織さんに僕が問い詰められてしまいます」
笑えない。
「そういうお前こそ、いないのかよ。相手」
「いませんよ」
随分と即答だった。こういう場合、何か隠しているんだろうなとも思うが、大して訊く気になれなかった。
学校にたどりつくと、ちょうど、あの女の子がいた。
俺達を、というか俺を見るや、肩を震わし、けれど、何か勇気を出したのかこちらに近づいてきた。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
「私、あの子猫達を飼うことにしました」
それだけです、とその子は脚をもつれさせながら走っていった。
「あのお嬢さんは、見た感じ、普通そうで、善良な様相なのに、邪まなものに心を奪われるような、闇を抱えていたんですね。何かを壊してしまいたくなるような、辛い気持ち。僕にだって、あるかもしれないんですよね」
知るつもりはないけれどな。
「お前、結構あの子の肩持つよな」
「え?」
「こんなこと言うのって、あんまりいいことじゃないかも知れないけれど、俺はやっぱりどこか許せない気持ちが残っている」
「命を奪ったのに、結局裁きは受けないということがですか?」
「ああ、そりゃ、俺だって牛とか豚とか殺してたのを食ってるんだから、偉そうなこと言うのは違うんだろう。けど、なんか昨日の猫が殺されたのは……違うんだよな」
「違う?」
「説明できる言葉がないんだけれども、その。昨日のあの子は、不幸に包まれていた。この世でないものに、憑りつかれちまって。でも、それって、それだけのせいにしていいのか? 邪まなものは、邪まな心に入り込もうとするのなら、だったら悪いのは……」
「祥瑞さんがこの世のものであるならば、その気持ちは正しいことですよ」
これも、即答だった。
まるで、この会話を打ち切りたいかのような。
「なあ、もしかして、お前。俺以外にもこういう眼の奴のこと知っているのか?」
「さあ、補習始まりますよ」
また、即答だった。




