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邪視  作者: 伊藤大二郎
6/16

6.現在 坂口祥瑞の視点

「祥瑞!」

 今日もまた姉貴に蹴飛ばされて目が覚める。

「だから、まだそんなあわてるような時間じゃないよ」

「何言ってんの。もうユーレイ君来てるわよ」

 ユーレイと言うのは、もちろん友礼のこと。まあ、名前を音読みしたらそうだけれども、あの青白い肌とマッチして、ちょっと冗談でなくなってしまいそうで怖い。

 しかし、何故この時間にあいつは俺の家を尋ねている?

 玄関に行くと、いつものように学ランのホックまで締めた青白い肌の友礼が、立っていた。

「おはようございます」

「ああ、でも今日は何でこんな早いんだよ」

「いえ、昨日は夜更ししましたから、きっと寝坊されると思ったので」

 ああ、そうかい。


「そういや、そろそろクリスマスだな」

 二人で歩いて登校するようになって二年くらい経つのだろうか

「何かするか?」

「いえ、何も。それより祥瑞さんこそ、何もしない気ですか?」

「しない。つうーか今年は受験生だからな。学校だろ」

「祥瑞さん、伊織さんと付き合ってからもう大分経つでしょう。そういうイベントくらいこなしてあげてください」

「何故にそんなところまでお前に心配してもらわにゃならん。大丈夫だよ、俺らは」

「まあ、確かにそういう流れに逆らう二人ではありますが、しかし正月から夏祭までいつも僕と一緒で、伊織さんに僕が問い詰められてしまいます」

 笑えない。

「そういうお前こそ、いないのかよ。相手」

「いませんよ」

 随分と即答だった。こういう場合、何か隠しているんだろうなとも思うが、大して訊く気になれなかった。


 学校にたどりつくと、ちょうど、あの女の子がいた。

 俺達を、というか俺を見るや、肩を震わし、けれど、何か勇気を出したのかこちらに近づいてきた。

「おはようございます」

「ああ、おはよう」

「私、あの子猫達を飼うことにしました」

 それだけです、とその子は脚をもつれさせながら走っていった。

「あのお嬢さんは、見た感じ、普通そうで、善良な様相なのに、邪まなものに心を奪われるような、闇を抱えていたんですね。何かを壊してしまいたくなるような、辛い気持ち。僕にだって、あるかもしれないんですよね」

 知るつもりはないけれどな。

「お前、結構あの子の肩持つよな」

「え?」

「こんなこと言うのって、あんまりいいことじゃないかも知れないけれど、俺はやっぱりどこか許せない気持ちが残っている」

「命を奪ったのに、結局裁きは受けないということがですか?」

「ああ、そりゃ、俺だって牛とか豚とか殺してたのを食ってるんだから、偉そうなこと言うのは違うんだろう。けど、なんか昨日の猫が殺されたのは……違うんだよな」

「違う?」

「説明できる言葉がないんだけれども、その。昨日のあの子は、不幸に包まれていた。この世でないものに、憑りつかれちまって。でも、それって、それだけのせいにしていいのか? 邪まなものは、邪まな心に入り込もうとするのなら、だったら悪いのは……」

「祥瑞さんがこの世のものであるならば、その気持ちは正しいことですよ」

 これも、即答だった。

 まるで、この会話を打ち切りたいかのような。

「なあ、もしかして、お前。俺以外にもこういう眼の奴のこと知っているのか?」

「さあ、補習始まりますよ」

 また、即答だった。






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