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邪視  作者: 伊藤大二郎
14/16

14.現在 坂口祥瑞の視点

「ここから先は想像に過ぎませんが、つまりこの世でないものを覗くというのは、この世でない場所に入り込む最初のステップなのではないでしょうか。そして、琴神さんは僕をこの世でないどこかに連れてきてしまった。きっと、祥瑞さんもそれくらいのことができる段階まで来てしまったんでしょう」

「しかし、俺はどうして平気なんだ?」

「それは、きっと祥瑞さんには僕や伊織さん、それにお姉さんのように心を支えてくれる人がいたからです。心底自分を理解しようとしてくれる人がいたから、おぞましいものを見ても、あなたは平気なんです」

「そういうもの、なのかな」

「ええ、大丈夫。きっと祥瑞さんはうまく渡れるはずです」

「お前、俺を守る為に友達になってくれたんだな」

「……まだ、大丈夫だと思っていました。僕は、琴神さんがこの世からいなくなりたいと考えていたことさえ気付けなかったんです。だから、琴神さんのおかげです。祥瑞さん、あなたを守ったのは、琴神さんです。それだけはおぼえていてください」

「……ああ」



 しかし、腑に落ちないことが一つある。



「それでお前、どうする気なんだ?」

「正直に教えてください。あなたが向こう側で見た琴神さんは、戻って来れそうですか?」

 俺は、きっと、正直に答えるべきなのだろう。

「無理だな。もう、人間じゃない」

 それに、

「『来ちゃ駄目だ』と言われたよ」

 友礼の眼が見開いた。

「喋ったんですか? この世でないものは、喋るんですか?!」

 俺も始めてのことだった。

「じゃあ、じゃあ、もしかしたら、琴神さんの意識は、あるのですか?」

 さあな、専門家じゃないのだから。

「会えば、わかるんですね」


 ああ、そうだろう。しかしな。



「友礼、俺がお前とあれを会わせると思うか?」

「……え?」

「この世のものでないものに触れて、まともでいられた奴なんていないんだぞ。いくらお前の元彼女でも、そんな危険なことはできない。俺は、絶対に見つけないぞ」

「……」

「俺はあれと会って、背筋が凍った。吐き気が未だに止まらない。今までの邪まなものなんかとはレベルが違う。今までのはせいぜい人の心を蝕むくらいだ。だけど、奴は物理的に俺を消したんだぞ。十分間も、俺を自分の中に取り込んだんだ」

「……」

「なんで今頃になって現れたのかはわからない。けれど、絶対に」

「……ないんです」

 え?

「彼女じゃないんです。ただの友達です」

「は? じゃあなおさら」

「僕は、あの子を連れ戻したい。なんて思っていません」

 なんだって?

「あの子は、この世にいることが辛くなって、消えてしまったんです。そして、僕はどんなに頑張ってもあの人に希望を渡すことができませんでした。でも一番の心残りはそこじゃないんです。僕はまだ、あの人に伝えていない言葉がある。それを伝えたいんです」

 自分の為か。

「そうです。他人を理由にしてはいけないんですよね。僕は、ただ……」

 そして、俺と友礼は視線を合わせた。


 俺はきっと、酷く妬ましい、邪まな視線をしていることだろう。







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