十三.過去 琴神冬子の視点
「高橋君は受験ノイローゼにかかっていたところを好き勝手に生きてる不登校児の挑発にのって凶行に走ったということになりました。それでいいですよね」
「雰囲気的にももうクリスマス会は延期ですね」
延期じゃなくて、中止でしょう。
「ねえ、どうして志望校を地元にしたの?」
「男には色々と語らぬ理由というものがあるのですよ」
きっと、それなりに自分を納得させる理由も用意してあるのだろう。
けれど、疑わずには居られない。一番、信じている人を、私は疑わずにはいられない。
「私の眼って、本当にこの世でないものを見てるのかな」
「さあ、見えてると言ってるのは君だけですから。はもちろん、ただ君が気配や心の機微に敏感で、それが形として見えているだけという線もあります」
そんなことじゃないよ
「清水くん、私ね。高橋を殺そうとしたんだよ」
「……何を突然突拍子もないことを」
「あの時、私は確かに彼を憎んで、邪まな心で視た。そして、それに反応して周りの邪まなものが集まってきて、取り殺そうとした」
「だって、こう考えられない? 私が視たことで、邪まなものが生まれる」
「仮説は奇抜であればいいってもんじゃないんですよ」
「私に見られた人は皆不幸になる」
「僕が、なってますか?」
「なってるの?」
彼は、答えてくれなかった。
何も、言ってくれなかった。
ねえ、その包帯を巻かれた大脳の中で、どんな言い訳を考えてるの?
何か、言って。
彼は、私をしっかりと見て、応えた。
「そりゃ僕だって君のこと憎く思うことはありますよ」
よく考えればわかることだ。
彼なら私をいつまでも純粋に思ってくれる
なんて、甘えたことを考えていたのだろう。
私は邪まな人間だった。
私があんなに嫌っていた、邪まな人間は、私だったのだ。
私は眼を瞑った。
「な、なんですか?!」
彼の叫び声で、私は眼を開けた。
そこは白い、世界だった。
上も下もない。
足元まで真っ白で不安になった。
ただ、何かが落ちてきた。
赤い、赤い雪。
いつも私が見ているものよりも、少しだけ落ちついている。
しかし、どうやらこれは今、彼にも見えているらしい。
そこで私はやっと事態の恐ろしさに気付く。
この世でない場所に、いる。
彼が、いる。
私が彼を視たせいで。
ここは、私の心の闇の中だ。
「でも、あなたまで巻き添えになるのは、おかしいわよね」
「琴神さん!」
彼は、最後まで私を名前で呼ばなかったな、なんて思った。
そして、私も、彼を名前で呼んだことがなかった。
「友礼さん」
「雪が、赤いね」




