表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/9

開幕 私の死体は想像より安らかに眠っている。

 目が覚めたら、死んでいた。

 アニメやラノベでよくあるシーンみたいに、ベッドの上には呼吸が停止した「私」が横たわっている。

 そう、そこに私がいる。……いや、もっと正確に言うなら、私の抜け殻がそこに転がっている。

 そこの君、「嘘だろ」って笑ってる? 奇遇だね、私も全く同じことを思ったよ。全部悪い夢で、目が覚めたら学校に遅刻するいつもの朝が来るんだって。でも残念ながら、これはどうやら現実らしい。


 証拠はいくらでも転がっていた。空っぽになった錠剤の瓶、床に散らばった教科書やマンガ。ゴミ箱からは昨日の晩ごはんだったカップ麺の匂いが微かに漂っている。……おかしいな。薬の瓶が空なのは、あんまり記憶にない。確か、まだ半分くらいは残っていたはずなんだけど。

 それにしても、自分の姿をこんなに客観的に見るのは初めてだ。鏡越しじゃなく、自分の意思で動けない自分は、まるで知らない他人のようで新鮮ですらあった。

 いつもは自己嫌悪のせいで可愛げのない表情ばかりしているけれど、今の私は妙に落ち着いた顔をしている。生きづらい毎日とメンタルの低下でいつもの死んだ魚のような目が閉じられているせいか(髪はボサボサのままだし、寝癖もひどいけど)、初めて自分のことを「そんなにブサイクじゃないかも」なんて思えた。

 あれ、私、何か握ってる……?

 死体の指の間から覗いているのは、一枚の写真だった。

 「教室……? うっ、よく見えない。この子は私……じゃないよね。誰?」

 文化祭の前日か何かの写真だろうか。クラスメイトとはそれなりに距離を置いていたけれど、別に嫌われていたわけじゃないから、流れで一緒に写った記憶はある。写真の中の私は、隣の女の子と少し仲良さそうな距離で並んでいた。……こんな子、クラスにいたっけ。

 というか、この子、すごく可愛い。いやいや、今はそんなこと言ってる場合じゃない。まずはこの状況を整理しなきゃ。

 「たしか昨日は、夜通しランクマを回してて。連敗続きで嫌になって、ゲームを消したんだったっけ……」

 記憶通りのデスクの上にはプロコンが転がっている。あの時、頭に血が上って机を叩いたせいで、棚から落ちそうになったフィギュアは、今も危うい場所で止まったままだ。

 そして、飲みかけのエナジードリンクは倒れていた。こぼれた毒々しいピンク色の液体は、真っ白なマウスパッドを無残に浸蝕し、まるで治ることのない醜い痣のようにじわじわと広がっていた。

 最悪。なんで昨日のうちに気づかなかったんだろう。

 もう手遅れだとしても、何の意味もないとしても、この事実を認めたくなくて私は足掻いた。ティッシュを何枚も引き抜いて、その汚れを拭き取りたかった。

 けれど伸ばした私の指先は、実体を失い、ただ冷たい空気をかき回すだけだ。まるで自分が、この部屋に溜まった古い埃の一部にでもなってしまったかのような、薄ら寒い透明感。

 「ちょっと待ってよ……! 買って一週間も経ってない、私のニューマウスパッド(税込み2150円)が……!」

 わざと芸人みたいな大げさなリアクションをしてみる。そうでもしないと、胸の奥でざわざわと騒いでいる違和感に押し潰されそうだったから。

 何かがおかしい。いや、全部おかしい。


 写真に写っているあの女の子を見るだけで、心の中がモヤモヤする。まるであの子を怖がっているような、あるいはひどく憎んでいるような、正体不明の感情。

 泣きたいような、ムカつくような。無力感と怒りが混ざり合って、今すぐその写真を破り捨てたい気分になる。


 そもそも、私はなんで死んだんだっけ。

 いつ突発的に死にたくなるか分からない病気を抱えていたとはいえ、自分の意識がないうちに自殺するなんてこと、本当にあるの?

 この部屋にあるものすべてが、急に得体の知れない謎に見えてきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ