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ドラゴンマスクより  作者: 福本 美憂


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4/8

僕 2024

サッカーって、やってなきゃ見えない景色ってあると思う。

 僕も、サッカーが好きだ。

 だから、かあちゃんが今、どこでつまずいているかは、だいたい分かる。止める時に、足の向きが逆になる。蹴る前に、顔が下がる。受ける前に、次を決めていない。全部、やりたいことがある人のミスだ。やりたいことがあるから、急ぐ。急ぐから、ずれる。それを、どうやって直すかは、知っている。でも、僕が言うことじゃない。言ったら、終わる気がした。理由はわからないけど、言わない。代わりに、頼んだ。

「さりげなくでいいから」と律に言うと「何を?」って聞かれて、少し考えた。


「顔、上げさせて」


それだけで、だいたい変わる。あとは、自分で気づく。「難しい注文だな」律は笑った。でも、断らなかった。「任せろ」とも言わなかった。そのくらいが、ちょうどいい。ドラゴンマスクにできることなんて限られてる。僕よりサッカーを見ているかあちゃんは、文字のメッセージよりコーチである律の言葉の方が響くはずだ。でも、律の言う通り「むずかしい注文」ではあった。かあちゃんは、なかなかボールから目を離すことができなかった。やり始めはみんなそうだ。そこで「鳥の目特集」と題して、鳥みたいにキョロキョロと周囲を見る選手、顔を上げてドリブルする選手、パス前に必ずコースの選択肢を確認する選手のプレイを切り取った動画をDVDにしてポスティングした。勿論、ドラゴンマスクからの贈り物だ。当然、不審物であることは自覚している。でも、このタイトルはかあちゃんには響くはずだ。「ドラゴンマスクより」これはもう、自分へのアドバイスであることは気がついているはず。

「止める位置」

「ワンテンポ」

「半身」

と、かあちゃんのプレイで気になるところをタイトルにしてDVDをポスティングした。言葉は短く。意味は、深く。教えすぎると、考えなくなる。考えなくなると、つまらなくなる。かあちゃんは、考える人だ。ずっと、外から見てきたから。だから、考える余白だけ、残しておく。それが、たぶん、一番いい。

 僕の指導が良かったのか偶然か、かあちゃんは半身のバックステップが上手くなった。キーパーから言わせてもらうと、実にありがたい、いいディフェンスをし始めた。本人はゴールを決めたいらしく、休憩時間にはゴールに向かってボールを蹴っていた。インパクトだとか言っても、足を振って力を伝えないと距離もスピードも出ない。かあちゃんはディフェンダー向きだと思うが、ドラゴンマスクも流石にそれは言えない。

 かあちゃんは、僕には何も聞いてこない。僕が知ってること気づいている?かあちゃんの周囲で、誰が、どこまで関わっているか。僕からは何も言わない。言えないよ。ドラゴンマスクなんてだっさいネーミングで始めちゃったからね。でも、まあ、それも、ちょうどいい。

僕たちは、直接、パスを出さない。ワンタッチ、もう一人を経由して、ボールを届ける。その方が、きれいに通ることがある。

サッカーと同じだ。それに後方支援が、僕のポジションだ。

                   明日につづく


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