最終話 ふたりの幸せ
「ルナ!!!」
アーティーが私の身体を抱き留める。
「きゃああああ!」
「うわあぁぁあ!!」
会場内が騒然となった。
「衛兵!! その男を拘束しろ!!」
逃げようとしたオドゥールは、アーティーの指示によってすぐに取り押さえられた。
「は、離せ!! そいつが法外な賠償請求したせいで、男爵家はめちゃくちゃだ! お、おまえのせいだああああ! や、やめろっ 俺に触るな――――!!」
オドゥールの声が室内につんざく。
「早く医者を呼べ! 急げ!! しっかりしろっ ルナッ 絶対助ける! 今度こそ絶対に!!」
アーティーの声が聞こえる。
私の身体がふわりと浮くのを感じた。
アーティー…
無事だった…よかった…
アーティーが助かって嬉しいけど…今度は私も生きていたかったな…
あなたの……傍にいたかっ…た…
「ル、ルナ?! ダ、ダメだっ ルナ!」
でも…またアーティーの腕の中で死ねるなら…それも…悪くない…か…な…
「ルナ!!!」
◇
「数日で治ります」
「え?」
「と申しますか、怪我というほどではありません。多少ナイフの切っ先が背中に当たりましたが、針に刺された程度のものですので、ご安心下さい」
私の治療が終わると、部屋に飛び込んできたアーティー。
医者の説明にきょとん顏になっている。
そうよね〜、そうなるよね〜。
私も『また死んだ!!』と思ったから。
コルセットのハトメ部分がナイフの切先を止めたらしい。
何と言う奇跡!
それでほんのちょび~~っと背中に傷がついた程度ですんだ。
でも刺された瞬間、すごい痛かった……気がしたんだけどねっ
だってあの状況じゃ、『刺された~!』って思うでしょ?
お医者様が出て行くと、アーティーが寝台の側にある椅子にドカリと腰かける。
「……よかった……」
ベッドの縁に両肘を付き、顔を覆うアーティー。
「び、びっくりさせちゃって、ごめんね」
半身起こして、アーティーに声をかける。
「………っ」
「アーティー?」
アーティーが顔を覆ったままでいる。
どうしたのかな?
「……っ ほ…とに…よかっ……また…また死んでしまったかと……っ」
震える声で安堵の言葉を紡ぐ。
私はそっとアーティーの髪に触れながら抱き締めた。
「……大丈夫…今度は生きてるよ、アーティー…」
だってまだ15歳よ?
今世では長生きするんだから!!
◇
その後、ロジェ・オドゥールは極刑となり、オドゥール家は廃絶となった。
アーティーの元婚約者であるヘリン・アルゲオとの不貞行為に対して、法外な賠償を請求されたオジュール家は、その支払いで資産をほぼ失くしたらしい。
来週末には、東部にある親戚の屋敷に身を寄せる予定だったとか。
社交界から追放されても男爵家が落ちぶれても、あんな事しなければ死ぬ事はなかっただろう…
だけど、ただの逆恨みじゃない!
侯爵家当主の命を狙ったんだものっ
当然の結果よ。
そんな事を思いながら、私はアーティーとコンラッド家の庭園を歩いていた。
「傷の具合は大丈夫?」
「え? あんなのとっくに治ってるわっ。それより、アーティーは大丈夫?」
「何が?」
「せっかくの舞踏会だったのに…またいろいろ言われるかも…」
「ふ、そんな事心配しなくても大丈夫だよ。それに人の口にはなかなか扉は立てられないし、噂話なんてすぐに収まるよ。そもそも被害者は僕らだ。それに次の婚約が決まれば扉は立てられるだろうから」
「で、でも…それには婚約者を探さなければならないでしょ? まぁ、アーティーならすぐに縁談は来ると思うけど…っ 今度は私も判断するからねっ アーティーを幸せにしてくれる令嬢かどう…か…っ」
あ、なんかまた胸がムカムカする。
アーティーの隣に私以外の女性がいる姿を想像するとこうなる。
やっぱりこれって……
「それはもう必要ないよ」
「え? あ…」
庭園からさらに奥へ進むと、私たちが住んでいた『離れ』が現れた。
「わぁ、なんか綺麗になってるっ 木々も手入れされてて」
「建物はそのままで、部分的に修復したんだ。ここは大切な場所だから、息抜きしたい時に来ているんだ」
「アーティー…」
するとアーティーが突然私の前で膝をつき、私の左手を取った。
「な、なになに?? アーティー?!」
予想もしなかったアーティーの行動に、私は戸惑う。
「……私、アラン・コンラッドは、ルナディア・カルテノ嬢に求婚いたします」
「……………え? えええぇぇぇええ?!?!」
「ふ、そんなに驚く事?」
アランは立ち上がりながら、私の反応を面白そうに笑った。
「だ、だって、私…“ルナ”だよ?」
「今はカルテノ子爵家のルナディアだろ?」
「で、でも爵位が…」
「そんなの僕には関係ない。それに22でやっと婚約したと思ったら、婚約者は不貞を働き、その相手の男はうちの舞踏会で刃傷沙汰を起こして極刑。そんなトラブルに見舞われた男は嫌?」
「そ、そんな事あるわけない!」
「僕の幸せを願ってくれているんだろう?」
「――――っ! ……私で…いいの…?…」
「僕の幸せは、これからもルナといる事だよっと!」
「きゃあ!」
アーティーはいきなり私を持ち上げると自分の腕に乗せ、そのまま向かい合うように抱き寄せた。
「今度こそずっと一緒だ、ルナ」
「…うん、ずっと一緒だよ。もうアーティーをひとりにはしない」
私たちは、どこか懐かしさを感じながら一緒に笑い合う。
その時、静かに流れた風に乗って聞こえて来た、男の子と犬の声。
『ルナ、大好きだよ! ずっと一緒だよ!』
『ワン! アーウン!』
(うん! アーティー!)
小さな男の子と黒い犬が、風とともに通りすぎていった――――――…
【終】




