第十五章『日ノ本と大陸で起こった不可解な事件』その⑥
ちょっと短いです
「たった四日で動きを見せるとはな…。随分と短気な相手で手間取らないのは良いことだな」
「何を呑気なことを言っているのですか。新たな犠牲者が出てしまったのです、普通愁うべき事なのでは?」
新たな犠牲者に対処しながら淡々とした様子で言う太郎へと訝し気な眼差しを向けるミョルエルは、太郎の横に並んでから魔力欠乏症に犯される女学生の身体を見落しのないように調べ上げる。
「一先ず俺は治療に専念する。俺の予想が正しければ、この症状は完治した時点で一切の痕跡等が完全に消え去る。だが、痕跡探しをしている暇がないほどに治療に専念せねば手遅れになる。故にお前は必至をこいて起因となった痕跡探しに注力しろ」
「そう二度、三度と言わなくてもよーくわかっていますよ。今現在これに対処できるのは太郎と風子、そして各教会の一握り。数にすれば十数人程度と何とも心許ない数ですね」
「今までに前例が少なく知識として得ただけでは対処に困る症状な上、元々の自力が無ければ完治に辿り着けない厄介なもの。十数いるだけマシというものだ」
「ま、それはそうかもですね」
そう相槌を打ったミョルエルはあの手この手で痕跡探しに精を出す。
そして治療を開始してから十五分、小さく言葉を漏らしたミョルエルへと太郎が視線を向けた。
「見つけたか。まあそれもその筈、これほどに厄介なものに痕跡が無いわけがない。それで辿れそうか?」
「残念ながら辿ることは出来ませんね。これは発動した時点で完結していて術者との接続が断たれています。ですが、どのような魔法、あるいは呪いであるかの解析には事足ります。ま、十中八九呪いでしょうけども…術式展開―暴き得らるは魔の叡智」
ミョルエルの呟く様な詠唱に呼応して、女学生の全身にはミョルエルの魔力が形となった聖痕が迸る。
やがてその聖痕は女生徒のうなじへと向けて走ると一点に集中しミョルエルのものとは違う別の魔力が赤黒く光輝いた。
「分析と同時に可視化させました。太郎でもこれを見ればより効率よく治療できるようになりますね?」
「っは、舐めるなよ。それを一目見れただけで理解したわ」
ニッと口元を釣り上げた太郎は、赤黒く光を放つ魔力へと指を伸ばしては打ち消す為の魔法を発動し一瞬にして霧散させる。
それにより、苦痛の表情を浮かべ続けていた女生徒は徐々に穏やかなものへと表情を変え、やがて静かな寝息を立て始めるに至った。
「だが、これで嫌な予想が的中してまた別の問題が浮き彫りになった」
そう女生徒の安否を気にする暇もなく険しい表情でいう太郎は、スッと踵を返す様に部屋の扉へと足を進ませる。
「その子の身体状況のケアとその後はお前に任せるぞミョルエル。俺は他の面々と対策を講じてくる」
「了解です。まあ殿方に任せられるものでもありませんからね。任されると致します」
「相も変わらず減らず口。ま、適度に気が緩むから嫌いじゃないがな」
事の進展に幾らか心が踊るのか、そんな軽口を言ってから扉を開きその奥へと姿を消した太郎。
その背中を見送ってから女生徒の容体へと視点を当てたミョルエルは、天界術式の『ヒュギエイアの診療録』を女生徒に対して発動させた。
「ふむ、どうやら異常は無いようですね。分析した通り、完結しているとはいえ解呪する隙もある上に解呪すれば一切の効力を失うように組まれていますね。それ故に効果は絶大―結局行き付く先はリスクによるリターンですか。痕跡が残らないのは『一切の効力を失う』というリスクの副次的なものですかね。何とも上手く噛み合ったものです」
誰に語るでもなくそう口にしたミョルエルだったが、開ききった部屋の扉の傍に立つ依李姫に「すごいね」と声をかけられたことで別段驚くこともせず視線を依李姫へと向けた。
「まあ年の功…ということにしておいてください。実際に触れられたのは僥倖でした。これによって術者がわかるというものでもないですが、この呪いによって発症する魔力欠乏症の被害者は大幅に減ることでしょうし、私は当初の予定通りこれを引き起こしている者の対処に当たります」
「色々とありがとうございます。呪いの分析は私よりもミョルちゃんの方が得意ですから、つい任せちゃいました」
そうあざとく両手を合わせていう依李姫に対し、ミョルエルは内心とは逆に僅かばかりの呆れた表情を浮かべた。
「ついじゃないですよ全く…。もう一人の女生徒は大丈夫ですか?」
「はい、先程太郎が来て一瞬で治していきました。その後は『礼ならミョルエルに』と言伝を残してテキパキと自身のやるべき事をこなしに…」
「そうですか。存外に太郎がやる気でありがたいですね。太郎は能力があるのに自己研磨と風子、それと依李姫様くらいにしか配慮しませんし。…それにしても考えれば考える程不思議です。何故太郎はこれほどまでにやる気を出して…」
「ミョルちゃん、時に考えても仕方がない事は存在するよ。だから今は、太郎のことを信じてあげて」
訝し気に言うミョルエルに対し、依姫姫は言葉を遮るように、けれど何処か力強くに言う圧に負けてか、ミョルエルは下手な言葉を返そうとはせず無難な言葉を返すことにした。
「…ふむ、依李姫様がそういうのならそうするとしましょう」
「はい、よろしくお願いします」
少しだけ申し訳なさそうな表情をしながら頭を下げた依李姫は「それでは」と再度軽く頭を下げてから部屋を後にし、ミョルエルはそれを黙って見送る。
やがて目を覚ました女学生を家へと送り届け、今後の方針をメレルエル達と話し合うことでミョルエル達の一日、学生にとって貴重ともいえる週二回の休日の日曜日が終わりを告げた。
もう少し時間があれば描き切りたいことがあったのですが
間に合わないので次に持ち越しです
次の投稿は1/28(水)とさせていただきます
三週間後とはなりますが、その分長く描けるよう頑張ります




