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天使のパラノイア  作者: おきつね
第十五章
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第十五章『日ノ本と大陸で起こった不可解な事件』その⑤

「やはり…こうなることは避けられませんね」


 そうどこか遠く…けれど内から響くように聞こえる声に耳を傾けながら、自身の胸中に一体何の話なのかと問いかける。


「私達の少し先の”未来”が確定してしまいました。これから先、貴方様がどのように行動しようともこの未来は訪れる。…思っていた以上にあちらの対応が早い、私のミスです」


 ミスって程のミスじゃない。それに確定してしまったのなら、正直心置きなく事を行なえる。それほど気に病むことはない。


 そう何一つ滞ることなく出てきた言葉に自身でも驚きながら、それでもその言葉たちに嘘はない。


 他でもない自分自身でやり通すと決めたのだから、途中で投げ出すことなど出来ない。


 尊敬してやまない父さんが何度も口にしていたからじゃない、自分自身が決して間違いなんかじゃないんだと、そう強く思っているからだ。


「…そうですね。少しだけ気が滅入ってしまいましたが、貴方様がそう真っすぐに進むのであれば私はそれに続きましょう。例え、貴方様の一つの夢が潰えようとも…その最後まですぐ傍で」


 その言葉に僅かに心が揺れてしまったが、そんな感情などすぐにでも捨て去ってしまおう。


 きっと父さんが生きていたのなら「それは間違っている」と止めたのだろうか。


 他でもない『魔神』と呼ばれる彼女の力を借りてまで、達成しようとするこの行動を―。




「倉原!」


 そう呼びかけられた男子学生―倉原は、自身を呼びかけた夢莉へと視線を向けては立ち上がり「俺か?」と呼びたてた人物へと向け足を動かした。


「まあ此処じゃあれだし屋上に行こう。ほれ、鍵を用意してさっさと行こうぜ」


 もはや行き慣れた屋上への道のりをミョルエルを抱きかかえながらに歩み始めた夢莉の背を追って、倉原はやれやれといった様子でついていく。


 やがて心地よく風が吹く屋上に着いた矢先、ミョルエルは夢莉に抱きかかえられたまま「単刀直入にお話させてください」と倉原へと言葉と投げかけ倉原からの返答を待つ。


「それは勿論構わないよ。…ただ、その状態で続けるのか?」


 そう戸惑いながら問いかけられたミョルエルだったが、小首を傾げ改めて自身の状況を確認してからハッとした表情を浮かべた。


「そうですね、立ち話ではなく腰を下ろした方が楽ですよね。失念していました…」


「あ、いや…そういう事じゃ。…いや、うんそうだね。腰を下ろして話そうか」


 下手に深入りするのは良くないと至ったのか、倉原はその場に腰を下ろし屋上の床に胡坐を掻く。


 その姿に釣られて抱きかかえたミョルエルと共に腰を下ろそうとした夢莉だったが、扉へと僅かに視線を向けたミョルエルの仕草に今は腰を下ろすのを止め、ミョルエルごと扉へと自身の身体を向けた。


「そちらでは聞こえにくいでしょう。どうせ聞くのならこちらにいらしては如何です?」


 そう呼びかけられた二人の人物―有希と咲は遠慮がちに扉から顔を覗かせるも、どうにも足は進まずミョルエル達の所へは行こうとはしなかった。


 そんな二人の気持ちを知った上で屋上へと向かって階段を登っていたメレルエルは、屋上の扉の前で固まっている二人の背を押して屋上へと足を踏み入れた。


「はい、迷う必要なし!一度あのバカと知り合ったのなら遠慮なんてせず臆せず進みなさい。あのバカも貴方達には遠慮なんてしないんだから、あのバカに遠慮するだけ無駄ってもんよ」


「メレちゃん、流石にバカバカ言い過ぎだよ…。ミョルちゃんが珍しく熱い視線を向けてるよ?可愛いね」


 そうのんびりとした様子でメレルエルの背後から顔を出したアラドヴァルは、戸惑った様子でいる有希と咲の背を押しながらミョルエル達の元へと進むと、有無も言わさず座らせてから自身もメレルエルの隣へと腰かけた。


 まるで円を描くように座っている面々を見渡したミョルエルの行動に合わせ、夢莉は確認することなくそれが正しいのだと言わんばかりに腰を下ろし、抱きかかえていたミョルエルを自身の膝上に座らせる。


「さて、倉原さんには少し窮屈な思いをさせてしまうかもしれませんが、今は我慢して下さい。それとこれから問いかける物事に貴方を責めるものはありません。出来る限り虚偽の無いようお答えいただけると助かります」


「…あっ、あぁ。そ、そうだな、頑張るよ」


 状況的にも倉原はこの場にいる唯一の男性であり、向けられる視線は必然的に女性のもの。


 表情に出すことはないが若干の居心地の悪さからか、問いかけられた倉原の返答は僅かに詰まった様子で口の外へと飛び出した。


「ありがとうございます。そして有希さんと咲さんにお願いがあります」


 有希は自身の名を出されるとは思っておらず、唐突にも呼びかけられた事に対して「へぁ?!わ、わたしですか?」と変な声を上げながら視線をミョルエルへと向けた。


「それと咲さんにも、です。お二人には私達の会話の中で気になった事があれば遠慮することなく聞いて欲しいのです。話を遮ってでも良いですし、タイミングを見計らってからでも構いません。私達にはない視点からの意見―気負わせる気は特にありませんが、そういった視点からの意見とは時に貴重なものとなります。重ね重ねではありますが遠慮なく申し出て下さい。構いませんね?」


「は、はい。どれだけ御力になれるかはわかりませんが、その…最善を尽くします!」


「わ、私も…!これって多分悪魔とか魔神関係の話ですよね?自分の事を棚に上げるつもりはありませんが、私はより別視点から見られる事もあるかもです。…私は、貴方の力になりたい」


 有希に続き咲がそう口にしたのをミョルエルは温かい目で以てそれを受け取り「はい、お願いします」と瞼を閉じてから静かに告げる。


 咲のその膨大なまでの感情のあり所を理解しているが故に、ミョルエルはそのことが無性に嬉しくしっかりと噛みしめてから瞼を開くと、すでにそこには先程までのものはない。


 そのことに有希と咲、そして倉原も僅かに目を丸くして気を引き締めた。




「さて、いの一番にお聞きしたいのは倉原さんの身に起きた事象―その名称を『魔力欠乏症』というのですが、その症状を患っている時の身体状況を出来る限りで構いません。ご説明して頂いてもよろしいですか?」


 僅かに頭を横に傾けて問いかけたミョルエルに対し、倉原は自身の状態を思い出そうと無意識のうちに右手を顎に当て噛みしめるように言葉を紡ぎ出す。


「身体状況…か。僅かに眩暈がしたと思った矢先に心臓を強烈に締め付けられるような感覚で息をするのも辛かったな。そこからは全身に酸素が行き渡っていないのか身体を満足に動かすことが出来なかったし、意識もすぐに途絶えてしまったからその先は自分でもよくわからない」


「じゃあ意識を取り戻した直後はどうだった?」


 そう問いかけたのはメレルエルで、ほぼ初対面でありながら馴れ馴れしいまでの言葉遣いに物珍しさを感じながら倉原はメレルエルへと視線を向けて返答する。


「目が覚めた直後は妙にガタイの良い神父さんと、かなり整った顔立ちでありながら眉間に寄せたしわと鋭い目つきから見た目の印象が最悪な男、その二人に詰め寄られて恐怖したこと以外特に覚えてないな。…あれは本当に怖かった」


 倉原がそう目線を下げながらに言ったのを有希と咲は心配するような眼差しを向けていたが、ミョルエルとメレルエルはやっぱりか~とでも言いたげな表情で空を仰ぎ見て、アラドヴァルは気まずそうに「あはは…」と苦笑いを浮かべていた。


「その後はその二人に質問攻めをされたけど、特に的を得られた答えは返せなかったよ。それと身体検査を兼ねて身体を解してやると神父さんにマッサージされたことくらいか。家に送ってもらった後は今日まで変なことは起こってないよ」


「暗に私達が来たことは変なことって言ったわね…。いや間違ってはないか」


「現界の一般人からしたら十二分に変な事ですよ。倉原さんは有希さんや咲さん、それに夢莉とは違い我々と接することなく無事平穏に過してきたのです。それが今を生きる人間からして当たり前のことであり、今を生きる人間視点から見た異質な私達は本来避けられるべき存在です。…それを分かっていながらも未だ諦めきれずにいる私は本当に異質で異端な存在ですね」


 そう自傷気味に言うミョルエルの気持ちを知ってか知らずか、夢莉は力強く抱きしめては消え入りそうなか細い声で「自分自身のことをどうしてそんな風に」と口にする。


 そのことにミョルエルは自身を抱きしめている腕に自身の手を当てては「…そうですね。悪い癖です、ごめんなさい」と夢莉にだけ聞こえる声で呟くと、夢莉は僅かに抱きしめている力を緩め「別に謝って欲しいわけじゃ…こちらこそなんかごめん」とか細く言う。


 そんな二人のやり取りを何ともいえない表情で見ていたメレルエルは、深いため息をついてから「今はそう言う事をしてる暇ないでしょ」と咎める様に口にしてから倉原へと視線を向けた。


「まああんたの話は大体わかったわ。もう察しがついてるかもだけど、私達はこの頻発している魔力欠乏症の解決の手掛かりを探しにこの学校に来た。私達だけでもやれないことはないだろうけど、借りられる手は多いに越したことはない。その上で聞くわ、四人とも私達に手をかしてくれないかしら?」


「メレルエルそれは…」


「もうここまで話を聞いた人物になら協力を仰いだ方がいいでしょ。これも私達とは違う視点からの意見が必要って奴よ。それで―」


 そう一度言葉を切り、視線を有希と咲へと向けたメレルエルは二人へと問いただす。


「―ここまでで何か気になった点、聞いておきたい点とかってあるかしら?」


 そのことに互いの顔を見合わせた有希と咲だったが、現時点では特に問いかけなければならないことはなく「いえ、特には」と有希が言葉を返した。


「そう、何とも心強いわね。期待してるわよ有希、それと咲」


 メレルエルの浮かべる和らげな笑みに少しだけ照れた様子を見せた有希と咲。


 すぐ後に視線を移したメレルエルは「貴方はどう?」と何処かわかりきった様子で尋ねてきたのを、倉原は小さく鼻で笑う。


「勿論、俺のでよければ手を貸すよ。何ができるかまではわからないけど、尽くせる手は尽くすよ」


「気張りすぎて行き過ぎないでよ?あくまで貴方達はサポート役、事の中枢で動くのは私達。そこだけは履き違えちゃダメよ?」


 その注意の言葉に倉原と有希と咲の三人は頷きを返すも、未だ話に参加せずミョルエルを抱きしめ続けている夢莉へと視線を向けたメレルエル。


 自身に向けられている視線に気付いたのか、夢莉は意識外で交わされていた言葉を即座に思い起こし「大丈夫、私が参加しないなんてありえないから」と笑顔で返答する。


 その姿に一抹の不安を抱えつつも「あらそう。なら期待してるわね」と、然して変わらない態度で返答したメレルエルは「それじゃあ一旦解散としましょう」と続けて口にした。


「え、何か指示的なものはないのですか?」


 立ち上がったメレルエルに対し有希がそう問いかけると、メレルエルは僅かに固まった筋肉をほぐす様に伸びをしながら口を開いた。


「何もわかってることがない状況で出せる指示なんてあるわけないじゃない。ひとまずは様子見よ。私とあーちゃんは長丁場になることを覚悟してるから」


 そう言ってからアラドヴァルを連れて屋上を後にしたメレルエルの背を見送った有希は、事の成り行きを見守っていたミョルエルへと少しだけ不満そうな眼差しを向けた。


「やる気に反して出鼻を挫かれただけではないですか。それに多分ですが、結構忙しくなると思いますよ?今の内にしっかりと気持ちに整理でも付けといてください」


 向けた眼差しの中でそれが当然とばかりにミョルエルを抱きかかえたままの夢莉が立ち上がり、「さ、教室戻ろうぜ」と三人に告げては鼻歌交じりに歩みを進める。


 同じ境遇の割にはどこか訳知り顔の夢莉に嫉妬の気持ちを抱きながらも、有希は一先ず仕方がないかと納得してから立ち上がりすぐ隣で未だ座り込んでいる咲へと手を差し伸ばす。


 咲も有希とほぼ同じく気持ちに区切りを付けては有希の手を握り立ち上がり、その場にいる残り一人の人物へと視線を向けた。


「倉原もそろそろ行こ?今私達がこうしてても仕方がないと思うから」


「…いや俺は後から行くよ。先に戻っておいてくれ」


 そう倉原が空を見上げるその表情に何処か満ち足りた感情が見えたのを、有希は「そっか。授業が始まる前には戻ってきなよ」と敢えて追及することなく咲の手を引くように屋上を後にする。


 一人屋上に残った倉原は誰に告げるつもりもなく―


「良かった。今回は置いてけぼりじゃない」


 ―そう言っては空へと開いた掌を伸ばし、掴めるはずもない太陽を掴かみとるように力強く拳を握りこむ。


 それから何事も起こらない平穏な日が流れ、ミョルエル達が転校してから実に四日後の土曜日、二人の生徒が魔力欠乏症に犯された。

クリスマスに何かしたいと思ったけど実際にはなーにもできなかった

IFストーリーかクリスマス衣装を着たミョルエルを描くのでもよかったはずなのに

私の怠惰な身体は気持ちに反して動かなったです

来年こそは…って思うも実際にはやれそうにないんだなぁこれが


さてそんなこんなで次の投稿は2026年の1/7(水)とさせていただきます

気付けば新年ですねぇ…一応忘れていなければ元旦に新年のご挨拶とか目標とかを適当に並びたてたものを投稿しようかなと思っていますので、時間があれば見て要望があれば遠慮なく申し立ててくれると嬉しいです(まあその要望をかなえられるかどうかは知りませんが)

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